人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが10月の『キン肉マン』連載をレビュー! 人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが10月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが10月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

―今回の「先月の肉トーク」テーマ―

第432話 怒涛のツープラトンラッシュ!!の巻(10月3日更新分)
『キン肉マン』ディープオブマッスル!! 特別編「ステカセキング&ス二ゲーター外伝」episode1(10月16日更新分)
『キン肉マン』ディープオブマッスル!! 特別編「ステカセキング&ス二ゲーター外伝」episode2(10月23日更新分)
『キン肉マン』ディープオブマッスル!! 特別編「ステカセキング&ス二ゲーター外伝」episode3(10月30日更新分)

あらすじ
エグゾセミサイルズ(キン肉マンゼブラ&マリキータマン組)vs時間超人エル・ドミノス(ドミネーター&エル・カイト組)のタッグマッチ。時間を加速させ傷を修復させる超回復という能力を時間超人が発揮。長期戦を避け、ツープラントン技で挑むなか、エグゾセミサイルズのコンビネーションを確認できたというところで『キン肉マン』本編はお休み。ス二ゲーターステカセキングの師弟コンビの成長を描いた『キン肉マン』ディープオブマッスル!!  特別編「ステカセキング&ス二ゲーター外伝」の短期連載が始まった。

タッグマッチ

燃え殻(以下、) 今日、スニゲーターのビックリマンシール、持って来たんだよ(渡す)

爪切男(以下、) おお!

撮影/燃え殻さん 撮影/燃え殻さん

 昔、爪さんとトークイベントやった時に、『キン肉マン』のビックリマンシールを大量にくれたお客さんがいたじゃない? それ、爪さんと分けたんだよね。

 そうだ、30枚くらいいただきました。

 で、僕がもらった方の中に、このスニゲーターがあったの。

 『キン肉マン』だけじゃなくて、いろんなビックリマンシールが出たんですよね。実在のプロ野球選手のシールとか......。

 そうそう。この『キン肉マン』とのコラボは、ビックリマンの40周年と、平成29年で『肉』とかけて、作ったんだって。

 それで、10月の連載は、嶋田先生の入院で本編のストーリーがいったん止まって、スニゲーターとステカセキングのスピンオフに入りましたけど。その前の432話は、マリキータマンがエル・カイトに「マリキータデッドリーライド」を決めたところで終わって、本編連載が中断した。

 ドミネーターとエル・カイトに「超回復」を使わせないために、ゼブラとマリキータマンが次々とツープラトンの大技を繰り出して......。

 ものすごいハイスパート・レスリングの試合に変わりましたよね。

 エル・カイト、やっぱり表情がいい。口もないし目も動かないのに、感情が表れている。ちょっとかわいさがあるのが、ゆでたまご先生が描いてる超人ならではだよね。アメコミだったら強いだけとか、かっこいいだけだったりするじゃない? でも、ちょっとかわいかったり、ちょっと表情が優しかったりするのが、日本っぽくていいなあと思う。ハリウッド版のゴジラよりも、日本のほうがかわいいのと近い。

 そうですよね。しかしこの432話、マリキータマンの「マリキータデッドリーライド」を決めたところで終わって、次週からスピンオフ、って、「ここで止まるんかい!」って思いましたけど()

 でも嶋田先生、手術で連載を止めるならここだ、ということだったんだろうね。思い出すのが、昔、嶋田先生がヘルニアで入院して、3ヵ月休載したことがあったじゃない? 先生が復帰しないから試合が途中で止まっていて、ロビンマスクがロープとロープの間にハンモックを張って寝てた()

 ああ、あったあった! 「おおっ スマンスマン なんせ3ゕ月間もコーナーでつっ立ってもんだから つい眠くなって」って。

JC28巻より JC28巻より

 マスクまで外して寝てたよね。

 そう。あの時も相手、ゼブラでしたよね。

 ああ、そうか!

 ゼブラは因縁があるんですね、嶋田先生の体調と。しかしこのスピンオフ、こう言うと失礼ですけど、こんなにおもしろいとは思わなかった。

 スニゲーターとステカセキングのエピソードで、おもしろいまま5話いけちゃう、っていうことがすごいよね。

 プロレスで言うと、普段は目立たない中堅レスラー同士のシングルマッチなのに会場は異様な盛り上がりって感じで。

 だから『キン肉マン』って、どの角度からでも『闘将!! 拉麺男(たたかえラーメンマン)』的なことを描くことができる、っていう話だよね。でも、これを読んでいて思い出したけど......前に爪さんが「ステカセキングを嫌いな人はいない」って言ってたじゃない? 確かにステカセキングの試合、昔もおもしろかったもんね。

 そうそう。

 そういう記憶が、僕らの中に鮮烈に残ってるから......プロレスラーで言うと、戦歴が残ってる、みたいな。このスピンオフは、原作があるんだよね?

 2009年から2012年まで「週プレモバイル」で連載されていた、『キン肉マン』のオリジナルのノベライズ作品。エピソード1から22まであって、これは最後のエピソード22が原作です。中井(義則)先生が「ステカセキングの話を描きたい」とおっしゃったそうで。

 へえー! でもなんかわかるな、それ。

 ステカセキングは、描いていて楽しいんでしょうね。『キン肉マン』のショップに行って、Tシャツとか並んでいると、ステカセキングのTシャツ、手に取っちゃいますもんね。

 うん、かわいいんだよね。

 『キン肉マン』を知らない人に渡しても、「かわいい!」って着るんじゃないかな。イチかバチかできゃりーぱみゅぱみゅにあげたら、着るかもしれない()

 わかる、その感じ。

 だからこれが、元がノベライズで、スピンオフっていうのが......最近多いじゃないですか、地上波のテレビドラマで、Huluとかで、スピンオフ版を同時に配信しているやつ。

 あるね。脇役を主人公にしたりしてね。

 それを『キン肉マン』でやったら、こんなにおもしろいってことでしょ?

 ほんとにそうだよね。あと、今回のシリーズ、スニゲーターがちゃんと先生なのが、おもしろいんだよなあ。

 昔にも先生キャラが出ている回はあったけど、今回は本を執筆しているコマや......。

 黒板の絵で技を解説しているコマとかね。

 しかし、episode1の最後のコマのスニゲーターは、ひどいことを言ってましたよね。「変身ってのは相手をビビらせるためにやるものなんだ! それをわざわざ弱い超人に変身して相手を喜ばせてどうするんだーーっ!」。変身されたカナディアンマンの立場がない。

 カナディアンマンとスペシャルマンの立場は、ずっとないよね()

 でも確かに、なんで初手でわざわざカナディアンマンを選んで変身するんだ、っていう。スニゲーターの言うとおりなんですけど。

 「カナディアンマンのカセット、あるんだ?」と思ったもんね()

 episode2ではスニゲーターが、ウォーズマンに変身したステカセキングのパロ・スペシャルをすり抜けて、亀に変化してセントーンを食らわせながら、「だが何度も言ったろ! 変身の極意は相手の予想を超えることにあるとーーっ」。このステカセキングのダメさが最高ですよね。あれだけスニゲーターにダメ出しされた直後のスパーリングで、ウォーズマンに変身していきなりパロ・スペシャルを出してくる感じが()。スニゲーターがぶっとばしたくなるのもわかる。

 そうそう。あと、これを読んでいて、『キン肉マン』って特殊だなあと改めて思ったのが......僕ら読者は、出てくるキャラクター全員のことを把握しているじゃない?

 はい。そうか、物語の前提の共有度が高いから、描く側としては説明は最小限でいい、ということか。

 そうそう。パロ・スペシャルをすり抜けてジャンプしたスニゲーターがいきなり亀になるのとか、知らない人は「えっ、誰これ?」ってなるだろうけど、僕らまったく思わないじゃない? そういうふうに、キャラクターを読者と共有できていなかったら、そこの説明が何コマか必要になるけど、それがいらない。

 そこの信頼度はすごい、確かに。スニゲーターに関して説明的なことが描かれているのは、理論派でアドバイスを請われる立場である、ということぐらいで。

 そう、だから逆にそこが、マンガとしてのおもしろポイントにもなっているよね。机に向かって執筆しているコマとか、黒板に図を描いて教えているコマとか。

 スニゲーターが『TRANSFORM METHOD(変身の方法)』という著書を残している、という話は、ノベライズで新しく出てきたエピソードですよね。

 うん、そうだよね。

 ちなみに、燃え殻さん、変身願望ってないですか?

 え? ないなあ。ある?

 ずっとあると思います、ガキの頃から。たぶん、家でほんとの素の自分でいる時以外は、ほぼ変身してるじゃないですか。職場の自分も、外面(そとづら)の塊(かたまり)だし......。

 ああ、それを変身というなら、そうだね。

 作家の仕事をしている時の自分も......。

 そうよ。「書く」ってことがあたりまえだと自分に言い聞かせているような。

 そういう気持ちがあるから、ステカセキングのような変身する人に、シンパシーを持っちゃうのかもしれない。と、読んでいて思いました。

 そうだね。で、なおかつ、スニゲーターみたいに完璧に変身できるキャラよりも......。

 ステカセキングみたいにボロが出る超人に、感情移入してしまう。

 でもほんと、どの仕事でもそうだよね。変身して、自分じゃない何かになりきろうとしてがんばっている、というのは。

 素の自分でいる時間は、1日のうちどれくらいあるんだろう? とか、考えるもんな。

 そうだよ。何かのカセットが入ったまんまだよ、俺も。

 だから僕ら、「いろいろ変身できていいなあ」と思いながら読んでいた子供の頃よりも、今の方がステカセキングに対する思い入れは強いかもしれない。

 ほんとにそうだね。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は8月2日発売予定の『ブルー ハワイ』(新潮社)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで配信中。ドラマ『すべて忘れてしまうから』(主演:阿部寛)が10月13日(金)深夜24時52分より、テレビ東京「ドラマ25」枠にて放送中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で、コラム『午前三時の化粧水』を連載中