日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今回は巨匠リドリー・スコット監督の歴史超大作と初代『エクソシスト』のリブートという挑戦作!

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『ナポレオン』

評点:★4点(5点満点)

ものすごいビジュアルを軽やかに描く円熟味

未完に終わったキューブリックの『ナポレオン』を持ち出すまでもなく、ナポレオンを描いた映画は超大作になるよう運命づけられている。

ただ、かつて作られた桁外れのナポレオン映画と異なり、本作はデジタル技術の恩恵もあって「普通に」完成している。

2時間38分の劇場版と別に4時間半の長いバージョンもあるということだが、これまた未完で、完成した「若い時代」だけで3時間~9時間(バージョンによって異なる)という1927年のサイレント映画『ナポレオン』を考えるに、本作は極めてコンパクトに濃縮された「ナポレオン映画」だということができる。

ホアキン・フェニックス演じるナポレオンとヴァネッサ・カービー演じる皇妃ジョゼフィーヌとの、微妙なパワーバランスの上に成り立つ愛憎には心打たれるものがあり、そこにはエピック史劇の最新形ともいえる大合戦シーンの数々にも負けない強度がある。

いつもながらリドリー・スコット監督の美術史を踏まえた画え作りも凄絶で、ジャック=ルイ・ダヴィッドの絵画そのままの戴冠式シーンをはじめ、数々の戦争画のリファレンスも圧倒的だが――それをいとも軽やかに描いてしまう巨匠の円熟ぶりにあ然とさせられる。

STORY:18世紀末、革命の混乱に揺れるフランスで、若きナポレオンは軍の総司令官に任命される。妻ジョゼフィーヌは不貞に走り夫婦関係がねじ曲がる中、やがてナポレオンは戦争にのめり込み、凄惨な侵略と征服を繰り返すようになる。

監督:リドリー・スコット
出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービーほか
上映時間:158分

全国公開中

『エクソシスト 信じる者』

評点:★2.5点(5点満点)

©Universal Studios. All Rights Reserved. ©Universal Studios. All Rights Reserved.

「エクソシスト」という言葉はなぜ広まったか

ウィリアム・ピーター・ブラッティの小説『エクソシスト』が世に出たとき、カトリックの雑誌『コモンウィール』は(宗教の立場からとはいえ)コラムで「迷信にどっぷり漬かった17世紀のセイラムの住民の考えたお話じゃあるまいし」と切って捨てた。

「悪魔祓ばらい」はそのコラムを書いたイエズス会の人間にとってすら、あまりにもバカバカしい中世の迷信に過ぎなかった。

だが『エクソシスト』はベストセラーになり映画化され、文字通り社会現象と化して世界に巨大なインパクトを与えた。

「悪魔が存在しないという考えこそ悪魔が吹き込んだもの」だというブラッティの考えと、丹念に現代科学による救済の可能性を潰して「悪魔の実在を信じざるを得ない」方向へと観客を導いた映画版は今なお人々に影響を及ぼし続けている。

1作目から50年後に公開となる本作は『エクソシスト』後の世界の産物なので、「悪魔が取り憑ついた!→じゃあエクソシストに頼もう!」という過程が70年代より簡略化できているところが興味深い。

劇中でも50年前に『エクソシスト』が公開されていたとメタ的に見ることもできるし、毎度のことながら今回の悪魔もとても頑張っていて好感が持てる。

STORY:12年前に地震で妻を亡くして以来、ヴィクターは一人娘のアンジェラと暮らす。ある日、アンジェラと友人キャサリンが姿を消し、3日後に何も覚えてない状態で戻ってきた。やがてふたりの少女とその家族は恐怖と対峙することに。

監督・脚本:デヴィッド・ゴードン・グリーン
出演:レスリー・オドム・Jr、アン・ダウド、ジェニファー・ネトルズほか
上映時間:111分

全国公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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イラスト/Utomaru