TBSで毎年年末に放送している究極のサバイバルアタック『SASUKE』。番組開始から26年が経つが、今年「SASUKE甲子園」なる高校生を対象にした初めての試みが行なわれた。BS-TBSの番組ホームページにはこう記載がある。
「高校生3人が1チームとなり、ステージごとにSASUKE能力を競う! 優勝校には、SASUKE第41回大会の出場権が!」
SASUKEは毎年、一般人の出場者を募集しており、その応募数は数千を超えるといわれている。本戦出場者100人の中には著名なアスリートや芸能人も多く含まれ、オーディションや予選会を突破して出場権を獲得するのは容易ではない。「SASUKE甲子園」の応募者の中にも、毎年SASUKEにエントリーシートを出しながらも、書類審査すら一度も通過したことがない者も多数いたという。
その狭き門を、これからのSASUKEを担う若い世代のために広げたい――そうした番組側の思惑もあり、今年初開催に至ったSASUKE甲子園。全国各地の体力自慢の高校生たちから申し込みがあり、書類審査を通過した8校24名がSASUKE第41回大会の出場権をかけて聖地・緑山で激突した。
その出場校の中でもひと際異彩を放っていたのが、私立木更津総合高等学校のSASUKE同好会の面々だった。日本で唯一(......かどうかは、番組側も正確に把握しているわけではないのだが)、学校側から公式に認められ、活動を許されているSASUKEの部活動である。
■最初はSASUKE同好会ではなく、
筋トレ部だった
木更津総合高校SASUKE同好会を設立した部長の佐藤槇祐(しんすけ)曰く、「最初は筋トレ部を作ろうとしていた」ということだった。SASUKEのサの字もない。
――もともとトレーニングが好きだったから、筋トレ部を作ろうと思ったんですか?
佐藤 いえ、そういうわけでもないです。
――違うんですか。
佐藤は中学時代まで剣道をやっており、初段の腕前。かつては地区大会準優勝の成績を残した。小柄ながら付くべきところにしっかりと筋肉を携えており、日々の鍛錬がうかがえる。
佐藤 みんなで楽しく、一緒に何かをやれるコミュニティを作れればという気持ちだったんです。だから筋トレでなくてもよかったんですけど、筋トレならば特別な道具がなくてもできるし、みんなでわいわい楽しめる。だったら筋トレ部だろう、と。
そして佐藤は高校1年のとき、つまり昨年、今回SASUKE甲子園にも共にエントリーすることになった級友の長谷川夕馬(ゆうま)と小畑遥斗(はると)を誘って筋トレ部設立に向け動き出す。だが、そこからSASUKE同好会と名を変えるに至った理由がまだ見えない。
――ちなみに、皆さんは昔からSASUKEを見ていて、もともと大好きな選手がいたりとか......?
長谷川 いや......。
佐藤 そういうわけじゃないです。
小畑 そういうわけじゃないですね。
――違うんですね。
小畑 去年の夏にSASUKE同好会になってから、ちょっと見ようと思って。それから好きな選手を見つけたりもしました。
――ちなみに、小畑さんは誰が好きですか?
小畑 日置将士(ひおき・まさし)さん。同じ千葉の人で、町の電気屋さんなのにすごいムキムキでカッコいいな、と。
佐藤 俺はサスケくんこと森本裕介さんです。SASUKEが好きだからという理由だけであそこまで努力できるのはすごいなと思うし、謙虚な人柄も好きです。
――なるほど。長谷川さんはいかがですか?
長谷川 山本良幸さんです。あんなに簡単そうにステージをクリアしてしまうあの筋肉が、すごいすてきだなと思います。
SASUKEは、最近ちゃんと見るようになった。昔からずっと見ていたわけではない――これはフィクサーがいるな、と思って取材を続けていると、彼らをにこにこと見守る男性の姿が目に入った。
田丸文哉(ふみや)――。木更津総合高校社会科教諭にして、SASUKE同好会の顧問である。
――......田丸先生は、SASUKEがお好きなんですか?
田丸 はい!
――どのくらいの時期から?
田丸 もう小さい頃から、物心ついたときからです。
――好きな選手はいらっしゃいますか?
田丸 白鳥文平(ぶんぺい)さんです。
ガチ勢が、ここにいた。
印旛村の英雄、白鳥文平は2014年開催の第30回大会を最後にSASUKEに出場していない。その名前を出してくるのは紛れもなくホンモノ。「見る専」だったということで家にセットを造ったりはしていないものの、「このSASUKE同好会が発展していけば、ゆくゆくは考えたい」と田丸は闘志を燃やす。部長の佐藤が後を引き取る。
佐藤 筋トレを活動内容にするにしても、何か目標はあったほうがいいなと。田丸先生の熱心な勧めもあって、SASUKE出場を目指すSASUKE同好会を立ち上げるに至りました。
■今年、1年生の女子部員も加入。
アットホームなSASUKE同好会
木更津総合高校SASUKE同好会の活動は、毎週月曜と木曜の二日間。練習メニューは、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、走り込みなどを部員全員で行なう。メニューは筋トレYouTuberの動画などを参考にしながら、仲間同士で話し合って決める。練習風景も見せてもらったが、そこに殺伐とした雰囲気はなく、まさに「みんなでわいわい楽しめる」部活動の様子そのものだった。部員は今年、1年生の女子も新たに入ったことで現在8人を数える。紅一点の1年生部員――岡田織舞(しきぶ)は入部の理由をこう語る。
岡田 部活の見学会でSASUKE同好会を訪ねて、2年生の先輩たちの雰囲気が良くて、温かいなと思って。入学したばかりで(学校生活になじめるかとかも)すごく不安だったんですけど、田丸先生も含めて皆さんすごく歓迎してくださって。中学校ではソフトテニスをやっていて、高校でも何かしら運動は続けたいなという思いはあったので。筋トレなら私も好きだし、皆さんとも仲良くしていただけるならと思って、入りました。......SASUKEは、田丸先生ほどは関心は持ってなかったんですけど(笑)。
オンライン面談で番組スタッフからSASUKE甲子園出場を告げられたときのことを、小畑と佐藤はこう振り返る。
小畑 (選考を)通過するとは正直思っていなかったです。番組を昔から見ていたわけじゃないし、ほかにSASUKEを好きな人たちがたくさんいるということも知っていたので。
佐藤 最初はSASUKE同好会じゃなくて筋トレ部だったというところも、マイナスポイントだろうなと。「SASUKEへの愛が足りないんじゃないか」って思われるかな、とか。だから、SASUKE甲子園出場が決まったときは「よっしゃー!」ってなりました。
セットで本格的な練習をするわけではない。昔からずっとSASUKEを見ていたわけでもない。ガチ勢と呼ばれる者たちの狂信的な愛に比べればそれは「足りない」かもしれない。それでも、木更津総合高校SASUKE同好会の面々が仲睦まじく練習に励む姿に、かつてみなかみや、千葉や、山形や――全国の至るところで、常連選手やSASUKEに恋い焦がれる者たちがわきあいあいと合同トレーニングをしていたときの風景が不思議と重なった。
「SASUKEはスポーツ選手権ではないんです」
第1回大会から番組制作に携わっている総合演出の乾雅人氏の言葉である。
「1stステージの最初のエリアで失敗してしまった選手にも物語はあるんです。出場者100人分の物語をつなぎ合わせてひとつの番組を作る。それがSASUKEなので」
各人が目標を持ち、仲間たちと切磋琢磨し、昨日の自分の「その先」に会いにいく――。それはSASUKEやSASUKEプレーヤーたちがその生きざまで示すSASUKEの魅力、楽しさの本質にほかならない。そこに優劣はない。セットがなくとも、彼らがやっているのは確かに「SASUKE」だった。
田丸が言う。
「部を設立するにあたって、何か子どもたちに目標を持たせてあげたかった。長年かけてSASUKE選手たちが作ってきたストーリー......一致団結して、そこで出会った仲間と一緒にトレーニングして、できなかったことをできるようになっていくというあの物語は、高校生たちの境遇にもすごくマッチすると思ったんです。彼らが今回、SASUKE甲子園に出ることで人として成長することができたら、それはすばらしいことだと。学校教育の一環である部活動として、すごく有意義なんじゃないかなと私は思います」
SASUKE甲子園は12月3日(日)よる7時から、BS-TBSにて放送される。木更津総合高校SASUKE同好会の物語は、どんな未来にたどり着くのか。
■SASUKE
1997年に誕生し、現在では世界160以上の国と地域で親しまれているスポーツエンターテイメント番組。出場者はアスリートから、運動自慢の芸能人、オーディションを勝ち抜いた一般人まで、さまざまな職業につく総勢100人。1st、2nd、3rd、FINALの4つのステージにわかれた障害物をクリアし完全制覇を目指す。先日、SASUKEを基に考案された障害物レースを新たに加えた近代五種が、2028年ロサンゼルス五輪の実施競技として採用された