作詞作曲、マルチな楽器演奏もこなすワタナベタカシのソロプロジェクトがmeiyo。名前の由来は「〇〇しない」という意味の中国語〈没有(メイヨー)〉 作詞作曲、マルチな楽器演奏もこなすワタナベタカシのソロプロジェクトがmeiyo。名前の由来は「〇〇しない」という意味の中国語〈没有(メイヨー)〉

2021年に楽曲『なにやってもうまくいかない』をTikTokに投稿したところ、総再生回数5億回超、楽曲を使用した動画の本数は35万本超という大バズりを生み出したシンガーソングライターのmeiyo。最近では、総再生回数30億回(!)となったasmi『PAKU』や、かまいたち・濱家隆一と生田絵梨花のユニット「ハマいく」の楽曲『ビートDEトーヒ』、そしてテレビアニメ『SPY×FAMILY』オープニング曲であるAdo『クラクラ』の詞曲を手掛けるなど、楽曲提供でも大きな話題を呼んでいる。

そんなmeiyoが12月6日に、メジャー1stアルバム『POP SOS』をリリース。話題曲満載のアルバム内容から、バズを生み出す秘訣まで掘り下げる。

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「バズらせよう」と思っているからバズらない

――自身の曲の他に、今話題のAdoの『クラクラ』のように提供曲でもヒットを飛ばしていますが、曲作りはどのようにしていますか?

meiyo 提供曲に関しては、基本的には何かお題がある状態で作ることが多いですね。そっちのほうが、何もない状態から作るよりも作りやすいです。もちろん中には「meiyoさんド真ん中の曲をお願いします!」って言われることもありますけどね。

――「meiyoらしさ」って何だと思いますか?

meiyo オファーをいただいた際に、何を聴いてくださってオファーをくれたのか、『なにやってもうまくいかない』なのか、『PAKU』なのか、『ビートDEトーヒ』なのか、まずはそこを探りますね。

でも「meiyoさんらしく」みたいなことを言われた時は、自分の中のポップロックの要素はあえて排除することが多いかな。自分の中ではポップロックも重要な側面なんですが、今持たれてるイメージではないんだろうなと思います。

――持たれているイメージというのは、いわゆる「ネット発の音楽」的な?

meiyo そうです。だから狙って外すことも多いし、結構試行錯誤して作ってます(笑)。

――そんな中でも、きちんとバズる曲が作れるのはどうしてでしょう?

meiyo よく聞かれますけど難しい質問ですよね(笑)。曲作りの面では、なんとなく自信を持ててはきていているんです。ただ自信を持って作った曲が、その後バズっていくかどうかっていうのは、関わる人間みんなの熱量みたいなものがめっちゃ大事だってことに最近気が付いたんですよね。

――でも、耳に残る単語を連打するとか、バズるためのコツみたいなものはありますよね。

meiyo 中毒性のための方法論はいくつかあります。「こういうのが良さそう?」っていう、いわばちょっといやらしいアイデアは(笑)。でもなるべくそういう気持ちで作りたくないし、結果薄っぺらくなる可能性もある。そのアイデアを使うのか使わないのか、そことの戦いはいつもありますね。一番の理想は、結果的に「作ってみたらそういう要素も入ってた」っていう感じですね。

――世のアーティストが「バズらせよう」「バズらせよう」と考えてもなかなかバズらないのに、その気持ちは封じ込めて結果を出すのはすごいことでは。

meiyo そういうこと考えてるからバズらないっていう可能性すらありますから(笑)。そもそも「なんかそういうことじゃないじゃん、音楽って」って思ってます。

『なにやってもうまくいかない』(2021年)を作った時は、一番自分がバズりたいと思っていた時期で、本音中の本音を曲にしてバズるための方法を惜しげもなく取り入れたんです。でも出来上がった19秒のデモを聴いたら「こんなんじゃバズらんな」って思ったし、レーベルの人も「意外な曲作ったね」「これは飛び道具だね」ぐらい反応で、全員イケると思ってなかったんです(笑)。

だから、その後に作った曲はもちろん多くの人に聴いてもらいたいと考えてはいるけど、そこは出しすぎないようにしています。「こうしたらバズる!」みたいな方法を全部やったのに全然聴かれないなんてことも多いし、本当に難しいところなんですよね。

ちなみに「ラップっぽいもの」の原点は、HALCALIとRIP SLYMEだと気付いたというmeiyo ちなみに「ラップっぽいもの」の原点は、HALCALIとRIP SLYMEだと気付いたというmeiyo


KANの影響でコンダクター的役割に

――そんな自身の「バズ曲」や、提供曲のセルフカバーも多数含めたアルバム『POP SOS』が12月6日にリリースされました。要素がてんこ盛りで驚きました。

meiyo 何でもアリで、変なアルバムですよね(笑)。

――変って言うと悪く聞こえるけどそんなことはなくって。例えば、るぅとさん(すとぷり)に提供した『ねぇよな』のセルフカバーには昔のスウィングジャズみたいなアレンジが入ってて、ああいう変化球が盛りだくさんで。

meiyo あそこはアレンジをしてくれたTeddyLoidさんが付けてくれた部分なんですけど、本当に変態ですよね。

――ラップ的なフロウが出てくる曲もあるし、『希望の唄』にはビートルズの『ペニー・レイン』みたいなトランペットが出てきたり。こういうのは、どこまでがmeiyoの戦略なんだろうと思いました。

meiyo  でも全部の楽譜を書いてるとかそういうことはなくて、一緒に作業してくれる兼松衆(アレンジャー)とかミュージシャンのみなさんに、「こういう感じでお願い」みたいなことを言って、みんなから出てくるアイデアを詰め込んでるっていう感じですね。

――そのコンダクター的な役割は誰の影響で?

meiyo それは完全にKANさんですね。実は今回KANさんをオマージュした曲もあるんですけど、とにかくKANさんが自分で何でもやる人なので、その影響は大きいですね。(※meiyoはKAN氏の大ファンとして知られている)

なので、この盛りだくさんな感じは全部自分でコントロールしているわけではなくて、「こういうのを入れたいな」というざっくりしたオーダーに対して、形にしてもらったものを「それ最高!」って決めている感じです。もちろんデモはひとりで作るんですけど、そこにどういう変態的な味付けをしてくれるかは、割と任せてたりすることも多いんです。

――その、時に変態的な味付けもしてくれるプレイヤーはどうやって決めてますか?

meiyo 今回は人選にもいろいろとストーリーがありまして。和田アキ子さんに提供した『KANPAI FUNK』は、同じ和田アキ子さんに曲提供した仲間であり先輩でもあるフレデリックのみなさんにフレデリズムを注入してもらいたくてお願いしたり。asmiさんの『PAKU』でアレンジをしてくださった100回嘔吐さん(ボカロP、作編曲家)には、アルバムでもお願いしたかったので『KonichiwaTempraSushiNatto (POP SOSver.)』のアレンジをお願いしたり。TeddyLoidさんしかり、自分が「天才だな」って思う人にばかり声をかけさせてもらいました。

それからアナログフィッシュの斉藤(州一郎/ドラム)さん、フジファブリックの加藤(慎一/ベース)さんにもご参加いただいて。加藤さんはインディーズ時代からライブに来てくださっていて、斉藤さんは自分と同じドラマーとして一番影響を受けてる方です。すごくないっすか(笑)。

アルバムのほとんどは自分でドラムを叩いているんですが、せっかくアルバムを出すなら自分じゃない人が叩いてる曲も欲しいということ斉藤さんにお願いしました。フジファブリックとアナログフィッシュは昔よく対バンしてたこともある、ほぼ同期くらいの大先輩で、そんな大先輩たちが一緒にやってくれるロマンみたいなものもありますね。

「ネット発」であっても、ライブ活動も大事にしているmeiyo。12月15日に実施されるワンマンライブについては「自分の半生を振り返るようなライブになるかも」とのこと 「ネット発」であっても、ライブ活動も大事にしているmeiyo。12月15日に実施されるワンマンライブについては「自分の半生を振り返るようなライブになるかも」とのこと


聴かれる音楽が短くなった今、アルバムを出す意味

――meiyoを見ていて思うのは、昔ながらのバンド音楽やポップスも取り入れつつ、最新のTikTokやYouTubeショートで流行している音楽にも詳しくて、どちらの要素も持ってるけどどちらにも寄ってないのが稀有な存在だなと思います。

meiyo そうですね、どちらの部分も大事にしています。結局は好きだったら大事にするっていうだけなんですけどね。いろんな音楽を聴いていると、ある時「これもめっちゃいいじゃん」って急に自分のアンテナの感度が広がる時があるんですよね。それはロックやポップスだけじゃなく、ゲームやアニメの音楽にしてもそうだし。

もしかしたらそれって『ポップンミュージック』(pop'n music/コナミの音ゲーシリーズ)が好きだからかもですね。いろんなジャンルのいろんな曲が山ほど入ってて、どんな曲でも遊べる。だから好きの方向性がめっちゃ多いし、そこに多少の「変」があっても受け入れちゃう。

――TikTokの音楽にも詳しいからこそ聞きたいのは、音楽を聴く時間がどんどん短くなっているし、アルバムで通して聴くよりも1曲ずつ聴かれる今の世の中で、あえてアルバムを出すというのはどういう意味がありますか?

meiyo そういう傾向には抗えないし、前奏や間奏がない曲がいいとか、ギターソロは飛ばされるとか言われてますけど、それってそういう一部の現象を後付けで言語化しただけであって、実は意外と前奏が長い曲も増えてる説もあるんですよ。だから、そういうことはあんまり気にしないでいます。

ただ、1曲聴いて自分という人間に興味を持ってくれても、他の曲も聴いてくれないとアーティスト活動は長く続かないと思うんです。なので、まとまった形でのアルバムはずっと出したくて、提供した楽曲がヒットしてくれたおかげもあってアルバムを出すことが決まったので、なるべく多くの方にアルバムで聴いてほしいんですよね。

――最後に、アルバムタイトルの『POP SOS』に込めた意味は?

meiyo まず文字の見た目がいいでしょ?(笑) 自分は本当にポップスに救われてきた人間で、いろんなポップスから受けた経験が自分の曲になっているし、今度は自分のポップスで誰か救われる人がいたらいいなという思いを込めて、このタイトルにしました。

そういう思いは特に『ビートDEトーヒ』の歌詞に詰まっていて、現実でつらいことがあっても無理やりなんとか解決しようとするんじゃなくて、「逃げ出しちゃってもいいよ」「ポップスが救ってくれるよ」って思いが入ってます。自分が今までそれでなんとかなってきたし。もちろん「必ず最後に愛は勝つ」くらいのことをドーンと歌えるようになりたいっていう憧れもありますけどね(笑)。

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■meiyo(メイヨー) 
ロックバンドのドラマーとして音楽活動をスタート。2015年より「ワタナベタカシ」名義でソロ活動を開始。2018年に「meiyo」に改名。2021年夏、自身の【なにやってもうまくいかない】人生を歌った楽曲『なにやってもうまくいかない』をTikTokに投稿したところバズを巻き起こし、ユニバーサルミュージックよりメジャーデビュー。2022年はTikTokで30億再生を記録したasmi『PAKU』、NHK総合「Venue101」にて結成されたかまいたち・濱家隆一と生田絵梨花のユニット「ハマいく」の『ビートDEトーヒ』など提供曲が次々とヒット。CMソングやドラマ・アニメ主題歌なども多数手がける。 

■meiyoメジャー1stフルアルバム『POP SOS』 
2023年12月6日(水)発売 
初回限定盤(CD+DVD)4500円(税抜) 
通常盤(CDのみ)3000円(税抜) 

収録内容: 
1. KonichiwaTempraSushiNatto (POP SOS Ver.) 
2. なにやってもうまくいかない 
3. クエスチョン 
4. PAKU(※asmi 提供曲のセルフカバー) 
5. ねぇよな(※るぅと 提供曲のセルフカバー) 
6. 未完成レゾナンス 
7. ビートDEトーヒ(※ハマいく 提供曲のセルフカバー) 
8. ココロ、オドルほうで。(※2023年au春のトビラ 三太郎 CMソング) 
9. KANPAI FUNK feat. フレデリック(※和田アキ子提供曲のセルフカバー) 
10. Cat Scat 
11. っすか? 
12. 希望の唄 
13. 魔法の呪文 (POP SOS Ver.) 
14. いつまであるか (POP SOS Ver.) 

酒井優考

酒井優考さかい・まさたか

週刊少年ジャンプのライター、音楽ナタリーの記者、タワーレコード「bounce」「TOWER PLUS」「Mikiki」の編集者などを経て、現在はフリーのライター・編集者。

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