兄のマイケル・フィリッポウ(左)、弟のダニー・フィリッポウ(右)兄のマイケル・フィリッポウ(左)、弟のダニー・フィリッポウ(右)

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 今回は特別編として、現在公開中のホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の監督を務めるフィリッポウ兄弟に直撃インタビュー。登録者682万人を誇るYouTubeチャンネル『RackaRacka(ラッカラッカ)』(※)から映画界に進出した双子のユーチューバーに、好きな日本のアニメからふたりの出身国であるオーストラリアの映画事情まで、あれやこれや聞いた!

(※)『RackaRacka』
フィリッポウ兄弟が立ち上げたYouTubeチャンネル。『スター・ウォーズ』のジェダイの騎士と『ハリー・ポッター』の魔法使いが異能力バトルを繰り広げたり、『ストリートファイター』のバトルをリアル再現したりと、ちょっと過激だけどハイクオリティなパロディ動画が満載。

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■弟・ダニーが語る「ベスト日本アニメ」

高橋ヨシキ(以下、ヨシキ)『RackaRacka』の動画には、『NARUTO』の登場キャラのコスプレをしていた回もありましたよね。オーストラリアで日本のマンガやアニメの人気は高い?

マイケル・フィリッポウ(以下、マイケル) すごい人気だよ!

ヨシキ ふたりが特に好きな作品は?

ダニー・フィリッポウ(以下、ダニー) 一番好きなアニメは『妄想代理人』だね。

マイケル 『SamuraiX』(アニメ版『るろうに剣心』の英語版タイトル)も好き。

ダニー アニメだと『ブギーポップは笑わない』や『エヴァンゲリオン』も最高。これ、いつまでも続けられるよ(笑)。

マイケル ゲームもあるよね。『フェイタル・フレーム』(日本版は『零』)はすごい。幽霊の写真を撮るゲームだ。

ヨシキ ゲームといえば『ストリートファイター』の新しい実写化映画の監督をされるそうですね?

マイケル うん。もうすでにロケハンはしていて、例えばタイではサガットの元ネタといわれている「サガット・ペッティンディー」というムエタイ選手に会いに行ったよ。

ダニー (『ストリートファイターⅡ』の)サガットのステージ背景にある涅槃像、その本物も見た! 

ヨシキ ところでジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の映画『ストリートファイター』(1994年)は見ました?

ダニー もちろん(笑)。彼をキャスティングできたらクールだろうね。

「日本には何回も来ている。大好きだよ」(ダニー・フィリッポウ)「日本には何回も来ている。大好きだよ」(ダニー・フィリッポウ)

■ずっと「映画」を作っていた

ヨシキ ふたりが動画を作り始めたのはいつ頃から?

ダニー 最初は9歳のときだね。当時作っていたシリーズものは高校生まで作り続けた。86本のエピソードを作って、「映画」も5本作ったよ。で、6本目を作ろうかってときに、仲間がみんな高校を卒業してバラバラになってしまった。ネットに公開するビデオを作り始めたのは、その頃。

マイケル 「週末にまた映画作ろうよ!」と、皆を誘ったんだけど、ほかにやることがあるからとか言われたな。

ヨシキ 僕は13歳で8㎜映画を撮り始めたのですが、なかなか「映画」っぽくならなくて苦労しました。それでも単純な編集、例えば人が向こうから歩いてきて、カットが変わってあちらへ立ち去る、といったことが初めてできたときはうれしかったものです。

ダニー わかるよ! 子供の頃、いつも「こんな映画にしよう」と思って撮ってるのに全然そうならない。

マイケル 僕らが撮っているやつは、ゴミみたいに見える(笑)。毎回それだった。だけど、いろんな細かいことに注意を払って映画を見るようになって、気づいたことを試してみて学んでいったよ。

YouTubeをやって良かったのは、毎回新しい撮影方法や新しいスタント、新しいメイクアップ、新しいセットの使い方を試すことができたことだ。意識して新しい表現にトライしていた。その経験が、僕たちの映画作りにも生きていると思う。

「最近、マンガ『ベルセルク』を読み始めたんだけど、飛行機の中で全巻一気に読んじゃったよ」(マイケル・フィリッポウ)「最近、マンガ『ベルセルク』を読み始めたんだけど、飛行機の中で全巻一気に読んじゃったよ」(マイケル・フィリッポウ)

■期待されていた作品とは違った?

ヨシキ ふたりは『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を撮る前は、『ババドック~暗闇の魔物~』(2014年)の現場に関わっていました。実際のところ『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の企画はどのように始まったのですか?

ダニー 脚本が最初にあって、どうしても映画化したかった。だから、できる限りのことをしてなんとか製作資金を調達しようとしたのが始まり。

『ババドック~暗闇の魔物~』の現場で出会ったサマンサ・ジェニングスという女性がプロデューサーを引き受けてくれたので『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の製作が動き始めたんだけど、まずは脚本を人に見せて回ったね。もちろん、YouTubeの動画を見せることで、映画監督の能力があると示すことはできたんだけど。

マイケル 5分くらいのYouTubeの動画と長編映画は全然違うものだからね。いくらYouTubeでの経験があるといっても、周囲はまあまあ懐疑的だった。

ダニー YouTubeの動画でもスタッフはいたし、いろんなセットを作ったり、さまざまな経験を積んでいたのは良かったけどね。

マイケル 僕らはパワフルで深みのある物語やキャラクター、そしてサブテキストのある作品を作るよう努力した。だけど、最初にオーストラリアで上映したときはどういう映画なのかあまり理解されなかったんだ。彼らは僕らが『RackaRacka』でやっているようなノリの、それこそスラッシャー映画を期待していたみたいだけど、全然そういう作品じゃなかったからね。

ヨシキ ファンも驚いたと思います。クレイジーでギャグ満載の動画でおなじみのおふたりが、とてもシリアスなホラー映画を作ったのですから。

ダニー そういえば、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』でサウンドデザインを担当した女性は『RackaRacka』の動画を見て、ぼくらに会うのが怖かったって言ってたな。

ヨシキ 『RackaRacka』の破天荒なキャラクターたちは、おふたりが演じていることもありますからね。

マイケル 彼女には「大声を出したり物を壊したりしないでくださいね!」って言われたな。そんなこと、実生活じゃやらないよ(笑)。

映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の劇中カット。© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の劇中カット。© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

■映画に生かされたある〝不愉快な体験〟

ヨシキ 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、幽霊を呼び出す体験を若者たちが楽しんでいるところが面白いと思いました。体に幽霊が憑依(ひょうい)して、ひどい目に遭っている友達の姿を、みんな笑いながらスマホで動画を撮っている。

ダニー これは僕の実体験に基づいている。近所のガキがドラッグをやって床に倒れて痙攣(けいれん)したことがあるんだ。そしたら、そいつの仲間がゲラゲラ笑いながら、それを撮影して「Snapchat (スナップチャット)」にアップし始めたんだよ。

やなものを見たと思ってさ。ホラー映画を作ることになったときに、そういう自分が不愉快で恐ろしく感じた体験を映画に取り込もうとしたんだ。

ヨシキ 面白いのは、映画の冒頭では「友達がとんでもないことになっているのに、ひどい」と思うのに、物語中盤で皆が幽霊体験をやるモンタージュの場面ではそれがおかしく見えてくるところです。

マイケル 同じ現象でも見え方や人によって感じ方は変わる。僕は子供の頃、泥酔した友達がゲーゲー吐いているのを見て爆笑したことがある。そしたら彼のお母さんがそれを見て泣き始めたんだ。同じことを目にしているのに、反応が全然違うものだと思ったよ。

ただ、映画の中の子供たちもそうだけど、子供は表面的には笑っていても、本当は恐ろしいことが起きているのも理解している。幽霊体験のモンタージュ場面はまさにそういうことを描いたんだ。

映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』劇中カット © 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』劇中カット © 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

■弁護士から言われたこと

ヨシキ 『トーク・トゥ・ミー』はオズプロイテーション(オーストラリア製のジャンル映画)の流れを汲(く)んだ、正統派のホラー映画ですよね。

ダニー オーストラリアでホラー映画を作ると言ったら、弁護士にやめるよう忠告されたよ。製作費が回収できるオーストラリア映画はわずか8%しかないと。オーストラリアの映画産業は政府から多大な援助を受けて成り立っている。政府が後押ししてくれるのはありがたいことだ。もっとオズプロイテーション的なジャンル映画に盛り上がってもらいたいしね。 

マイケル YouTubeを始める前、映画の仕事をしたくて、とにかく各所にタダでいいから現場に参加させてくれと頼んだものだった。

オーストラリアで映画をやってる人は別の仕事を持っていることも多いよ。

ヨシキ 日本でも、映画だけで食べていける人は少数派で、セカンドジョブを持っている人はたくさんいます。

マイケル ベルリン国際映画祭や、サンダンス映画祭でオーストラリア製のジャンル映画がいくつか上映されていたから、状況は少しずつ変化している。『トーク・トゥ・ミー』がそういう扉を開いて、面白い映画を作りたい人たちにチャンスが与えられたらいいね。
高橋ヨシキ氏(左)とフィリッポウ兄弟高橋ヨシキ氏(左)とフィリッポウ兄弟

●ダニー&マイケル・フィリッポウ
1992年11月生まれ、オーストラリア出身の双子。2013年に開設したYouTubeチャンネル『RackaRacka』(@Therackaracka)は総再生数15億回以上、682万人の登録者数を誇る。ジェニファー・ケント監督の『ババドック~暗闇の魔物~』(2014)に撮影クルーとして参加した後、『Talk To Me』で長編映画監督デビューを果たす。続編『Talk 2 Me』でもメガホンをとるほか、格闘ゲーム『ストリートファイター』の実写化でも監督を務めることが決定している

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ポスター。© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ポスター。© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

監督:ダニー&マイケル・フィリッポウ
出演:ソフィー・ワイルド、ジョー・バード、アレクサンドラ・ジェンセンほか
上映時間:95分

INTRODUCTION:スティーヴン・スピルバーグ、サム・ライミほか名だたる巨匠が絶賛。北米を中心に全世界で大ヒットを記録した年末大注目のホラー映画。女子高生ミアは、友人とSNSで流行中の"ゲーム"に参加する。そのルールは【①呪物の「手」を握り、②「トーク・トゥ・ミー」と語りかけると、③自分の体に霊が憑依する。ただし、必ず90秒以内に手を離すこと】。危険だけどハイになれる"ゲーム"にミアはハマる。だが、あるとき手を握り、語りかけるとそこに現れたのは亡くなったミアの母親だった。そして母と少しでも長くいたいミアは90秒ルールを破ってしまい......。

全国公開中

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イラスト/Utomaru