今年は12月24日(日)のクリスマスイブ開催となった「M-1グランプリ2023」決勝。決勝の行方も気になるが、週プレNEWSでは最後の1枠を狙う敗者復活戦に注目する。
決勝当日の午後3時から生中継で放送される戦いはルールも大きく変化。21組をA、B、Cの3ブロックに分け、会場の500人の観客が審査。ブロックを勝ち上がった3組を石田明(NON STYLE)、柴田英嗣(アンタッチャブル)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、山内健司(かまいたち)、渡辺隆(錦鯉)の5人の芸人審査員が審査し、無記名投票で多かった1組が決勝の舞台に立つという二段構えの審査方式となった。
これまで「人気投票」と一部で揶揄されたスマホの国民投票で決めるルールから一変し、ハイブリッドに進化した審査方法となった今回の敗者復活戦。果たしてこの変更がどんな変化を生むのか。このルールで勝ち上がるのは誰なのか。お笑い評論家のラリー遠田さんに予想してもらった。
■敗者復活戦のルール変更について
2015~2022年の敗者復活戦では、視聴者投票だけで勝敗が決められていました。結果を見る限りでは、明らかに一般的な人気や知名度がある芸人の方が有利であり、そういう人でないとなかなか勝ち上がれない状況が続いていました。
今年は、観客の投票で各ブロックから選ばれた3組の芸人の中から、プロの芸人審査員が1組を選ぶ方式になりました。この審査方法が導入されることで、今までよりも人気や知名度の影響が少なくなり、純粋にその日のネタの出来が最も良い人が選ばれる可能性が高くなるでしょう。
■敗者復活戦ブロック分け
<Aブロック>
ヘンダーソン
ママタルト
ぎょうぶ
ロングコートダディ
華山
20世紀
ニッポンの社長
<Bブロック>
オズワルド
豪快キャプテン
エバース
ナイチンゲールダンス
鬼としみちゃむ
トム・ブラウン
スタミナパン
<Cブロック>
フースーヤ
バッテリィズ
シシガシラ
ななまがり
きしたかの
ダイタク
ドーナツ・ピーナツ
■敗者復活戦予想
本命:「ロングコートダディ」(吉本興業)
昨年まで2年連続の決勝進出を果たしていて、ネタ作りのセンスでは右に出る者はいません。準決勝では惜しくも敗れてしまいましたが、まだそれ以外の強いネタも温存しているはずなので、順当に行けば勝ち上がる可能性は高いです。
対抗:「ナイチンゲールダンス」(吉本興業)
決勝進出をすでに決めている「令和ロマン」と並ぶお笑いサークル出身芸人の出世頭です。今年は若手芸人の登竜門である「ツギクル芸人グランプリ」でも優勝を果たしていて、勢いに乗っています。テンポの良いネタでお客さんを巻き込むことができれば、勝てるチャンスは十分あります。
大穴:「フースーヤ」(吉本興業)
2017年頃にプチブレークしていたのですが、直後に起こった「第七世代ブーム」には乗り切れず、不遇の時期を過ごしていた彼らが、ここへ来て再評価されています。底抜けに明るいネタの面白さにも磨きがかかり、今年初めて準決勝にまで駒を進めました。ハマるとクセになる魅力があり、準決勝でも大きな笑いを起こしていたので、敗者復活戦でも健闘するはずです。
■その他の注目コンビ
注目コンビ①:オズワルド(吉本興業)
「オズワルド」は準決勝でもクオリティの高いネタをやっていたので、ストレートに決勝に行けなかったのは個人的には意外な感じがしました。昨年まで4年連続決勝進出を果たしていて、誰よりもM-1の戦い方を知っているコンビなので、敗者復活戦の有力候補であるのは間違いありません。
注目コンビ②:シシガシラ(吉本興業)
注目コンビ③:トム・ブラウン(ケイダッシュステージ)
注目コンビ④:スタミナパン(SMA)
それ以外の注目コンビは、ハゲネタの新境地を開拓し続ける「シシガシラ」、猟奇的なナンセンスを追求する「トム・ブラウン」、不気味で明るいボケと技巧的なツッコミのバランスが絶妙な「スタミナパン」などです。
●ラリー遠田
1979年、愛知県生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社を経てライターに。現在はお笑い評論家として、テレビやお笑いに関する取材、執筆、イベント主催などを行なう。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)
■編集部的"超大穴"ダークホース予想
これまで今企画では「スーパーマラドーナ」武智さん、編集者の阪上さん、お笑い評論家のラリー遠田さんと有識者の敗者復活戦予想を聞いてきたが、最後に編集部から十分勝ち上がりの可能性のある競馬でいう"超大穴"、敗者復活戦のダークホース4組を紹介する。
ダークホース①:「ママタルト」(サンミュージックプロダクション)
SNS上のファイナリスト予想に、たびたび名前が上がったのが「ママタルト」だ。去年、初の準決勝に進みそのキャラも浸透させ若手のライブシーンを牽引した。今年はM-1ファンからも認められ、風は確実に吹いているように感じる。体重180キロ超と芸人として恵まれすぎた体躯を持つ大鶴肥満だが、意外にあらゆる種類の笑いにも適応できる器用さも兼ね備える。また檜原洋平の空間再現力の高いツッコミ力は、長文でワードもキレも兼ね備える。そのボケをとらえるミート力は「南海キャンディーズ」山里亮太のツッコミをも彷彿とさせる。準決勝でもウケの数はトップクラスだった。規格外の下剋上を期待したい。
ダークホース②:「ダイタク」(吉本興業)
ファイナリストの「令和ロマン」をして「漫才がうますぎる」と言わしめた超絶技巧の双子コンビだ。今年のキングオブコントで優勝の「サルゴリラ」、準優勝の「カゲヤマ」を輩出し勢いに乗る"東京吉本"の漫才師の大将格。これまで比較的スマートな佇まいだったが、今年は『チャンスの時間』などギャンブル好きのクズキャラも存分に出し、ネタの中でもいわゆる"負け顔"を見せられるようになってきてもいる。「ダンビラムーチョ」や「くらげ」など直の後輩が決勝進出する中、現状、一番悔しいのはダイタクのはず。敗者復活戦という大一番にギャンブラーで知られる2人が仕掛ける最後の"大博打"に期待したい。
ダークホース③:「ななまがり」(吉本興業)
大阪芸術大学の落語研究会出身のななまがり。大阪芸大・落研といえば近年、M-1王者「ミルクボーイ」にキングオブコント王者「空気階段」の鈴木もぐら、THE W王者の「オダウエダ」植田紫帆、先日は『水曜日のダウンタウン』「S(スベリ)-1グランプリ」優勝のエンジンコータロー氏も輩出したお笑いの界の異能集団だ。ボケの森下が演じる埒外のキャラクターと初瀬の豪快なパワーツッコミで知られた実力派コント師の2人。ラストイヤーの今年は漫才に持ち前のコント要素を融合させ一般層にも届きうる魅力的なネタを仕上げてきた。もともと爆発力のあるコンビ、唯一無二の奇天烈キャラ漫才で世間に照準を合わせる。
ダークホース④:「20世紀」(吉本興業)
今回の特集では「スタミナパン」をいわゆる大穴的なダークホースとして挙げられてきたが、同じくダークホースといえる存在が「20世紀」だ。ネタはいわゆる王道"漫才コント"ながら、「サンドウィッチマン」伊達を彷彿とさせるヴィジュアルのツッコミのしげ、パンチのあるキャラクターを演じる木本のキャラの相性の良さもあり、ネタは万人が笑える明解なわかりやすさがある。また面が割れていないという新鮮さも魅力だ。実際、大阪組が苦戦する東京での準決勝中でも確実に笑いを取っていた。伸び代、爆発力も期待でき、無名のコント師から一気に優勝した2007年の「サンドウィッチマン」の再来もありえるかも。
決勝とともに行方が楽しみなM-1グランプリの敗者復活戦。その模様は24日(日)の午後3時よりABCテレビ・テレビ朝日系全国ネットで生放送される。
「M-1グランプリ2023」敗者復活戦
ABCテレビ・テレビ朝日系 2023年12月24日(日)15:00~18:30
芸人審査員:NON STYLE・石田 / アンタッチャブル・柴田 / マヂカルラブリー・野田クリスタル / かまいたち・山内 / 錦鯉・渡辺