かつてM-1決勝の地を踏んだ松田大輔(左)×小沢一敬が語る!かつてM-1決勝の地を踏んだ松田大輔(左)×小沢一敬が語る!

今年はクリスマスイブに開催される『M-1グランプリ』。そんな今大会の準決勝進出者が出そろったタイミングで、かつて『M-1』決勝の舞台に立ったスピードワゴン・小沢一敬(2002、2003ファイナリスト)と東京ダイナマイト・松田大輔(グランプリ2004、2009ファイナリスト)に直撃!

予選から気になったコンビ、当日かましそうなコンビ、そして今も昔も変わらない『M-1』の引力について語る。

*この対談は『M-1グランプリ』準決勝(12月7日)前に行ないました

■ダブルヒガシは直接決勝に行く姿が見たい

――おふたりが会うのはどれぐらいぶりですか?

松田 『THE SECOND』の予選でお会いしたので今年の2月ぶりですね。

小沢 そっか。その後、(相方のハチミツ二郎さんが)入院したんだっけ?

松田 はい。今は徐々に仕事も復帰してます。ちょっとまだ10分舞台に立つのはキツいみたいですけど......って相方の体調とか『M-1(グランプリ)』の話をするって、すげぇ年とった感じするな(苦笑)。

――では早速、当日の決勝&敗者復活戦でおふたりが特に注目しているコンビは?

松田 3回戦と準々決勝の動画を見ましたが、全体のレベルがむちゃくちゃ上がってますね。

小沢 予選では華山(かざん)とエバースが印象的だったな。当日も、決勝にせよ敗者復活戦にせよ話題になると思う。あと、さや香もすごく出来が良かった。

松田 さや香は抜きんでてましたね! 僕はドーナツ・ピーナツが安定感あっておもしろかったです。あと、ななまがり、モグライダー、真空ジェシカ、ロングコートダディ、カベポスターもいいネタだった。

あと僕、トム・ブラウンが好きなんです。「何やってんだよ(笑)」ってくだらない感じが。ほんと今年は粒ぞろいのコンビが多すぎますよ。というか、若手が一生懸命やってるのに、僕こんな予想屋みたいなことしてていいのかな(苦笑)。

(左上から時計まわりに)ドーナツ・ピーナツ、崋山(かざん)、エバース、トム・ブラウン(2018ファイナリスト)(左上から時計まわりに)ドーナツ・ピーナツ、崋山(かざん)、エバース、トム・ブラウン(2018ファイナリスト)

小沢 本当だよ(苦笑)。俺もトム・ブラウンとかフースーヤ、ダンビラムーチョみたいなコンビもめちゃくちゃ好きなのよ。参考書がない笑いっていうかね。準々で落ちちゃったコたちも皆おもしろかった。

中でも気になったのは豆鉄砲、ぐろう、ツートライブ、シカゴ実業、イチゴ、パンプキンポテトフライ......。あとビスブラ(ビスケットブラザーズ)の服脱ぐネタ、ジグザグジギーも良かったし、滝音もすごいウケてたな。

あ、男性ブランコも落ちてるのか......。本当すごいよな、準決勝に進んだ31組って。こんな猛者たちを倒してんだから。

松田 EXITも落ちてますね。あのくらい有名になると、もうどんなネタをやるか知られてるし、意外性を出さないと上がれないのかも。そういう意味では、まだ露出の少ないコたちのほうがウケやすくて、決勝の場だと得かもしれないですね。

全体が底上げされてるとはいえ、ダブルヒガシはストレートで決勝に行けると思ったんですけどねえ......。今年は『ABCお笑いグランプリ』や『ytv漫才新人賞』も獲って関西の賞レース総なめ状態じゃないですか。

小沢 なぜか毎回準々止まりなんだよね。今年はワイルドカードで準決勝に進出したけど、個人的にはダブルヒガシは普通に決勝に行く姿も見たいんだよなあ。俺はそっちのほうに期待しちゃうね。

(左上から時計まわりに)ななまがり、さや香(2022ファイナリスト)、真空ジェシカ(2022ファイナリスト)、ダブルヒガシ(2023ワイルドカード)(左上から時計まわりに)ななまがり、さや香(2022ファイナリスト)、真空ジェシカ(2022ファイナリスト)、ダブルヒガシ(2023ワイルドカード)

■俺らの時代と違うのはシステムへの理解度

小沢 3回戦で落ちちゃったけど、家族チャーハンも良かった。知らなかったところでいうと無尽蔵も。......え、無尽蔵はふたりとも東大の落研出身なの? 確かに頭のいいネタだもんな。

松田 似たところで言うと、準々まで行ったナユタってアマチュアコンビがめちゃくちゃ面白くて。現役の東大生と早大生なんですね。声が上ずったりするアマチュア感もまったくないし、ちゃんと漫才できてるなって驚きました。

小沢 学生お笑いをやってるコたちは強いよね。もともと真空ジェシカ、令和ロマン、ナイチンゲールダンスもそうだし。世代的にYouTubeとかでいろんな先輩のネタを見てるだろうから、「こうすればネタが作れる」ってシステムを理解してるんだなって思うよ。

(左上から時計まわりに)無尽蔵(むじんぞう)、令和ロマン、ナイチンゲールダンス、ナユタ(左上から時計まわりに)無尽蔵(むじんぞう)、令和ロマン、ナイチンゲールダンス、ナユタ

――今の若手には具体的にどんな特徴があると感じますか?

小沢 最初にボケが何かして、ツッコミが「これはこういうこと」って示してウケるシステムが多いよね。霜降り(明星)とか東京ホテイソンはまさにそういう形だし、ほかのコンビでも例えばパンプキンポテトフライは普通の漫才の中でそれをやってる。

松田 僕はナユタにそれを感じたんですよ。まだプロにもなってないコたちがやるからすごいなと思って。

小沢 今のトレンドがちょっとそうなってるよね。たぶん霜降りの影響だと思うんだよ。ボケが何かわかりづらいことをして、見てる人が「?」ってなったらツッコミがその答えを言って笑わせる。だから実はボケとツッコミから、「Q」と「A」になってるの。

松田 「Q」に対していかにうまくツッコめるか対決、みたいな感じがありますよね。

――ちなみにおふたりにとっての参考書は誰だったんですか?

小沢 俺たちの時代はダウンタウンしかないもん。だから、ビデオとかバラエティ番組を見て、なんとなくだったよね。時代的に「勉強してきたお笑いやるのダセェ」みたいな空気もあったからさ。

松田 当時は「何してんの?」が一番のホメ言葉でしたよね(笑)。「かぶらないようにしなきゃ」って意識もなく、気づいたらそれぞれ違う芸風でライブに出てましたから。

小沢 「笑わせたい」はもちろんあるんだけど、「ビックリさせたい」が強かったのよ。俺らは『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)で座って漫才やったりしたし、東京ダイナマイトだったら漫才やるときに着物を着たり刀を持って出たりとかさ。

とにかく人がやらないことをやりたかったんだよね。けど、今はいっぱい参考書があって「これやればウケる」を理解してから始めてるから皆レベル高いのよ。俺らは変なことやろうとして本当に"変なまま"だったこともいっぱいあるもんね(笑)。

小沢一敬

松田 そのまま終わっていくこともままありました(笑)。昔、小沢さんが「誰がやっても同じになる漫才はやりたくない」って言ってたのがすごく記憶に残ってて。今のコンビで言うと、ななまがりのネタってあのふたりだからおもしろいわけで、別のコンビがやってもあんな感じにならないと思うし。

小沢 究極で言うと、おぎやはぎだよね。おぎやはぎの漫才はおぎやはぎ以外できないし。今じゃ普通になってるけど、おぎやはぎの「おぎやはぎですけど何か」みたいな、ネタに入る前に違うことをやるって、俺らが『M-1』に出てた当時までそんないなかったもんね。

やっぱり人がやってないことをやりたかったんだと思う。今のコたちも基本は同じなんだろうけど、参考書がいっぱいある中で、どう違うことをするかって思考が重要になっている気がするなあ。

■『M-1』戦士、共通の夢「何かが変わるかも」

――このところ、東京の漫才師が優勝することも珍しくなくなってきましたね。

小沢 これはちょっと言っておきたいんだけど、『M-1』って"東京vs大阪"みたいに周りが勝手に言うじゃん。でも、こっちは「大阪組に負けたくない!」なんて思ったことないんだよね(笑)。

松田 わかります(笑)。僕も「大阪に負けないでください!」ってめっちゃ言われました。オフィス北野に所属してた当時は「吉本に負けないでください!」っていうのも多かったなあ。本人はそんなの関係なくやっているのに、なぜか周りがそういう感じで見てるっていう。

小沢 野球で言うと日本代表に入りたいわけじゃん。そのときに「あの球団は有利」「この球団は不利」とはならないと思うんだよね。セ・リーグ、パ・リーグ、球団の人気に関係なく、すごい選手なら侍ジャパンに入るだろうし。

「"非・吉本"が優勝した」とかっていうのも、それに近い違和感がすごいあるんだよね。事務所なんてこっちはまったく気にしてないのにさ(笑)。

松田 まあ、見てるほうはそういうドラマを楽しみたいんでしょうね。

小沢 だったら俺らもそっちに乗ったほうがいいね。だって、今の『M-1』を見て楽しんでる人をくさしちゃってんだから。

松田 いや、僕らはもういいですって(笑)。

松田大輔

――2000年代の『M-1』決勝は審査員の方たちがほとんど笑ってないです。その点も"特別な賞レース"のイメージにつながった気がします。

松田 決勝の舞台はめちゃめちゃ緊張感ありましたね。お客さんも緊張してたし、とてもじゃないけど笑わせる環境じゃなかった。センターマイクまで向かうときに「え、これ、笑うの?」と思いながらネタに入るっていう(苦笑)。

小沢 01年の大会で(島田)紳助さんがネタ終わりに「見てくださいよ、審査員、誰も笑わんでしょ? これがいいんですわ」って言ってるの。いいわけないじゃん、そんなの(苦笑)。

松田 決勝まで行って何をやらされに来たんだって(苦笑)。誰も笑わない状況で漫才やるって一番キツいですもんね。

小沢 だから、『M-1』は審査員が一新してからガラリと変わったよね。00年代って師匠クラスの審査員がいっぱい出てたから、ひと組終わるごとに水をかけて、温度冷ましてピリッとさせてから次に行く。今は番組として緊張感がほぐれていくように、波が上に向かって盛り上がるようにできてるもん。

松田 そこは大きいですね。

――おふたりが『M-1』決勝に進出したときは、戦略を練って予選に臨んでいたんですか?

松田 まったくないですね。僕らの衣装が派手だったのも、「決勝で目立てば売れるかも!」とかじゃなくて「決勝でふざけたい!」って気持ちが強かったからですし(笑)。

小沢 戦略的にやろうとしたコンビもいたのかもしれないけど、少なくとも俺らの周りにはあんまいなかったと思う。

松田 僕らが決勝に行ったときは周りも自分たちも「まさか」って感じだったから、「優勝しよう」なんて考えもなく本番を迎えたんですよ。もちろん決勝は目指してたけど、「行けたらいいな」ぐらいの感じ。あの当時、漫才で戦うコンテストがポンッとできたから単純に新鮮でしたし。

小沢 それだけじゃないんじゃない? きっとあの頃、俺らの世代は誰も仕事がそんなになくて「これに出たら何かが変わるかもな」と思って出てたんだと思うよ。「優勝したい」と思って大会に出てた人もいるんだろうけど、それより「『M-1』決勝に行ったら仲間に入れてもらえるんじゃないか」って気持ちのほうが強かったんじゃないかな。

俺らって小さいライブはいっぱい出てたけど、「NGK」(吉本興業が運営する大阪・難波にある劇場「なんばグランド花月」)みたいな常設劇場があるわけじゃないしさ。東京に「ルミネtheよしもと」ができたのって『M-1』が始まった01年でしょ? その当時、東京で漫才やってても「職業・漫才師」って名乗りにくかったじゃん。

松田 言えない感じでしたよね。僕らが04年に決勝行ったとき、後輩の流れ星☆のちゅうえいが僕の家で「僕も行きたいです!」って泣いたんですよ。やっぱり皆「あそこに行けば何かが変わる」って思ってたんでしょうね。実際、僕らも『M-1』で人生変わりましたし、そこは今も昔も一緒だなと思います。

●小沢一敬(おざわ・かずひろ)
1973年生まれ、愛知県出身。98年に井戸田潤とスピードワゴンを結成。ネタ作りを担当。M-1グランプリ2002、2003ファイナリスト。東京ダイナマイト・松田とは昔、週7日で会っていたほどの親しい仲

●松田大輔(まつだ・だいすけ)
1977年生まれ、岐阜県出身。もともとハチミツ二郎が曽根卍と東京ダイナマイトを結成していたが、2001年に二代目としてハチミツ二郎が松田と再結成。結成4年目で、M-1グランプリ2004の決勝に進出し話題に

鈴木旭

鈴木旭すずき・あきら

元バンドマンのフリーライター/お笑い研究家。1978年生まれ、静岡県出身。多くのメディアでコラム、インタビュー記事を執筆。著書に『志村けん論』(朝日新聞出版)

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