1954年に公開された『ゴジラ』 ©1954 TOHO CO.,LTD. 1954年に公開された『ゴジラ』 ©1954 TOHO CO.,LTD.
年末年始はまとまった時間のとれる貴重なチャンス。この機会に普段はなかなか手が出しづらいシリーズ作品を一気見するというのも、大人の過ごし方のひとつだろう。そこで、「今、見るべき"超長編"の名作シリーズ」をプレゼンしてもらった! 今回おすすめ作品を紹介してくれたのは、「日本一わかりやすい映画講師」として、学生たちから大絶賛の熊本大学文学部准教授・伊藤弘了さんだ。 
※各シリーズの総再生時間と話数・作数は、2023年12月12日時点で劇場を除くレンタルサービス・サブスクリプションサービス等でアクセス可能なものの集計です(編集部調べ)

★日本を代表する大怪獣とともに日本の歩みを追体験しよう!

■『ゴジラ』シリーズ(国内版29作・約46時間)

『ゴジラ』(昭和29年度作品) <東宝DVD名作セレクション>」 DVD発売中 2750円(税抜価格 2500円) 発売・販売元:東宝 ©1954 TOHO CO.,LTD. 『ゴジラ』(昭和29年度作品) <東宝DVD名作セレクション>」 DVD発売中 2750円(税抜価格 2500円) 発売・販売元:東宝 ©1954 TOHO CO.,LTD.
~基本情報~ 
怪獣映画の代表作。「もっとも長く継続しているフランチャイズ映画」としてギネス認定もされている。「昭和シリーズ」「平成シリーズ(VSシリーズ)」「ミレニアムシリーズ」と、『シン・ゴジラ』以降に大別される ○U-NEXT、Huluなどで配信中

日本を代表する大怪獣ゴジラ。同シリーズは娯楽作品としても素晴らしいですが、映画とは社会を反映するもの。ゴジラを過去作から見返すことで、当時の日本社会の状況と、日本人が何を恐れていたのかを追体験できます。

その意味で、アメリカの水爆実験で日本の漁船乗組員が被曝した「第五福竜丸事件」をきっかけに作られた初代『ゴジラ』(1954年)は必見です。16作目『ゴジラ』(84年)も「初代から30年後にゴジラをどう描き直すのか」という視点から見るとおもしろい。

この2作を押さえた上で、29作目『シン・ゴジラ』(2016年)や最新作である30作目『ゴジラ-1.0』(23年)を見ると、ゴジラが象徴する「恐怖」の実態が浮かび上がってきます。

また、ゴジラは人知を超えた巨大災害ですが、人間の味方のように見える作品もあります。ゴジラの立ち位置の変化をたどるのも楽しみ方のひとつでしょう。

個人的なオススメは17作目『ゴジラvsビオランテ』(89年)。ビオランテは遺伝子工学によってゴジラの細胞を組み込まれたバラの怪獣で、行きすぎた科学技術への警鐘のようにも思えます。ハリウッド版やアニメ版もあるので、興味を惹(ひ)かれるところから入ってみるのもいいですね。

★時代を彩る「いい男」の象徴、それがジェームズ・ボンドだ!

■『007』シリーズ(25作・約53時間)

『007/ドクター・ノオ』 ブルーレイ 2619円(税込) 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント DR. NO c1962 United Artists Corporation and Danjaq, LLC. All Rights Reserved. 007 Gun Logo and related James Bond Trademarks c 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corpo 『007/ドクター・ノオ』 ブルーレイ 2619円(税込) 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント DR. NO c1962 United Artists Corporation and Danjaq, LLC. All Rights Reserved. 007 Gun Logo and related James Bond Trademarks c 1962-2013 Danjaq, LLC and United Artists Corpo
~基本情報~ 
原作は英国の作家イアン・フレミングによる小説群。コードネーム「007」と呼ばれる、英国秘密情報部(MI6)のエリート諜報部員ジェームズ・ボンドが世界の危機に立ち向かう。これまで6人の俳優たちがボンドを演じた ○Amazon Prime Video、U-NEXTなどで配信中

ジェームズ・ボンドを「いい男」の代表として見てきた人は多いでしょう。初代のショーン・コネリーのインパクトが強く、その後のボンドは常に比較される運命にあります。6代目のダニエル・クレイグが25作目『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)で引退し、今はシリーズが一段落したところ。全作を一気見するには、ちょうどいいタイミングです。

個人的には、5作目『007は二度死ぬ』(1967年)がオススメです。日本が舞台で、若林映子と浜美枝というふたりの日本人俳優がボンドガール(毎作品登場する美女キャラクター)を演じており、丹波哲郎もほぼ全編にわたって出てきます。ボンドが姫路城で忍術指南を受けるといった「ヘンテコ日本描写」が満載で、ツッコミながら楽しんで見られます。

また近年は、ボンドガールの立ち位置も変わってきました。美貌や濡れ場で映画に華を添える道具扱いの感が否めない過去作もありますが、ダニエル・クレイグ版では情の深い人間的な関係を築いていきます。これは時代の変化を映したものでもあるでしょう。

おそらく『007』シリーズは今後も作られ続けます。この機会に、世界がほれる「いい男」像の変遷を堪能してはいかがでしょうか?

★衝撃的な設定と、緻密な伏線回収!

■『猿の惑星』シリーズ(オリジナル版5作+リブート版3作+リ・イマジネーション版1作・16時間)

『猿の惑星』 ディズニープラスの「スター」で配信中 © 2023 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. 『猿の惑星』 ディズニープラスの「スター」で配信中 © 2023 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
~基本情報~ 
猿が人間を支配する未来を描いたオリジナル版(1~5作目)と、リ・イマジネーション版(6作目)、現代を舞台に猿が人間を支配していく様子を描いたリブート版(7~10作目)がある。最新作の10作目は2024年初夏公開予定 ○ディズニープラスなどで配信中

なんといっても1作目『猿の惑星』(1968年)のラストシーンの衝撃度! まだ見たことがない方は、ある意味で幸せかもしれません。ぜひ1作目だけでも見ていただきたいです。猿が人間を支配するというのは、一見荒唐無稽な設定ですが、どこか「もしかしたらそういう未来もありうるのでは」と思わせる妙なリアリティを持っています。

オリジナル版(1~5作目)では空白だった物語の設定が、現行のリブート版(7~10作目)では最新科学の視点で肉づけされていて、よりリアリティが増しています。例えば、1作目では人間が言葉を話せなくなっているのですが、言葉を失う過程はリブート版で明らかになっています。

また、猿と人間の種族間対立は、世界中で起こっている分断のたとえとしてとらえることもできるでしょう。実際に、同シリーズの中では、対話できそうにない相手とどうにかわかり合おうとする瞬間が繰り返し描かれています。

娯楽でありながら、現代社会の寓話としても読み解けるのがSF映画の醍醐味です。随所に見られる聖書的なモチーフも見どころ。独特の世界観が特徴のティム・バートン監督によるリ・イマジネーション版(6作目、2001年)も変わり種として楽しめますよ。

●伊藤弘了(Hironori ITOH)

1988年生まれ、愛知県出身。熊本大学文学部准教授。映画研究者、批評家。初の単著『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)が発売後に即重版し、話題を呼ぶ。専門は日本映画(小津安二郎)