年末年始はまとまった時間のとれる貴重なチャンス。この機会に普段はなかなか手が出しづらいシリーズ作品を一気見するというのも、大人の過ごし方のひとつだろう。そこで、「今、見るべき"超長編"の名作シリーズ」をプレゼンしてもらった! 今回おすすめ作品を紹介してくれたのは、視聴した連続ドラマ1500作以上、執筆したドラマレビュー3000本以上というドラマオタク・小林久乃さんだ。
※各シリーズの総再生時間と話数・作数は、2023年12月12日時点で劇場を除くレンタルサービス・サブスクリプションサービス等でアクセス可能なものの集計です(編集部調べ)
★見るだけで帰省した気分に! いつでも胸を打つ親子愛!
■『北の国から』シリーズ(連続ドラマ24話+ドラマスペシャル8作・約48時間)
~基本情報~
雄大な自然を誇る北海道富良野市を舞台に、主人公・黒板五郎(田中邦衛)と息子の純(吉岡秀隆)、娘の蛍(中嶋朋子)の生活を描く。連続ドラマの好評を受け、その後の純と蛍の成長を描くドラマスペシャル(1983~2002年、8作)も人気を博した ○FODプレミアムで配信中
『北の国から』を見ると、五郎さんの朴訥(ぼくとつ)とした愛情にいつでも心が洗われます。年末年始に一気見したら、帰省しなくても実家に帰った気分になれるのでオススメです。おそらく、『北の国から』で泣かない人はいないでしょう。また、泣いた後に気分がスカッとするのがいいんですよね。
また、今見返すと、日本の経済状態の比較ができるところもおもしろいです。ドラマスペシャルの3作目『北の国から '87初恋』では、上京する純が乗せてもらうトラックドライバーに、五郎さんが2万円を渡します。
一方、最近話題を呼んだNetflix配信の『サンクチュアリ―聖域―』では、父親が上京する息子に渡したのは5000円札でした。家庭の状況は違えども、物価はほぼ変わっていないのに、36年前の2万円が2023年には5000円になっているのです。このギャップに驚きました。
『北の国から』は、田舎に住む貧しい家族の話のはずですが、どこか豊かに見えるんですよね。地方移住がブームになっている現在ならではの見方もできると思います。時間があれば最初の連続ドラマ(1981~82年)から見るのがオススメですが、純と蛍が進学するとよりドラマティックになるので、ドラマスペシャルから見てもよいと思います。
★ひとりはこんなに豊か! おじさんの"孤食"に癒やされる
■『孤独のグルメ』シリーズ(連続ドラマ120話+スペシャルドラマ9話・約94時間)
~基本情報~
主人公・井之頭五郎(松重豊)は、個人経営で輸入雑貨商を営む男性。営業の最中に実在する店に立ち寄って食事をする様子が、独特のモノローグとともに描かれていくドラマ。原作は久住昌之原作、谷口ジロー作画の同名マンガ ○Netflix、Amazon Prime Videoなどで配信中
派手な見どころはないんですが、1話見るともう止まらなくなる不思議な魅力があります。
ロケ地になった飲食店は、放送後に大盛況になるんですが、アイドルやアニメで見られる「聖地巡礼」現象をおじさんキャラクターが作り出しているのがすごいですよね。今や海外でも評価されていて、「おじさんのひとりごはん」が日本のお家芸になるなんて、すごいことだと思います。
また、"孤食"を題材にしていることで、コロナ禍でもさらに注目を集めるようになりました。コロナ禍以降、「ソロ活」などのひとり行動も流行していますが、集団行動に慣れ親しんできた世代は、ひとり行動に寂しさを感じる人も多いのではないでしょうか。
ドラマも昔は友人や家族と一緒に見たりもしましたが、今の時代はサブスクでひとりで見ることのほうが多いですよね。でも、私は「ドラマは画面の前のひとりひとりに語りかけるもの」と思っています。『孤独のグルメ』は、まさにそういうドラマなんです。
ひとりでも幸せそうにごはんを食べている五郎さんを見ていると、「自分もそんなに寂しくないじゃん」と思えてきます。年末年始には、『孤独のグルメ』で孤独の豊かさを堪能してみてはいかがでしょうか。
★豪華俳優陣とともに、3世代を走り抜けろ!
■『カムカムエヴリバディ』(112話・28時間)
~基本情報~
NHKの「連続テレビ小説」第105作。原作・脚本は藤本有紀。『NHKのラジオ英語講座』を軸に、安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)の親子3世代を描く、朝ドラ史上初の「3人ヒロイン」が話題を呼んだ ○U-NEXT、NHKオンデマンドで配信中
とにかくNHKのドラマは時間とコストがかかっています! まるで高級な映画を見るみたいな楽しみ方ができます。オーディションを勝ち抜いた、今一番すごい俳優たちが集まっているので、バイプレイヤーまで主役級の人で固められているんですね。
中でもオススメの本作は、大正、昭和、平成、令和を舞台に3人のヒロインが登場する異色の朝ドラ。戦時も描いた緩急のある構成に加えて、心優しい伏線が張り巡らされており、見応えがあり、まったく飽きないです。
ヒロインの中では、個人的にるい役の深津絵里さんに驚きました。当時48歳の彼女が18歳の役を演じているんですが、まったく違和感がないんです! また、松村北斗さん(SixTONES)が名家の跡取り役で、上白石萌音さん演じる安子と身分違いの恋愛をするのですが、結婚の申し出をするときの彼の誠実さがネットで大反響を呼びました。男性にもぜひ見てほしいです。
私は、朝ドラでヒロインの行く末を見守ることは、マラソンの伴走だと思っています。全話を見終わったときには、ゴールテープを切ったような達成感があるんですよね。年末年始に本作を一気見するのであれば、それがあなたにとっての箱根駅伝! ぜひ完走してください!
●小林久乃(Hisano KOBAYASHI)
コラムニスト、編集者。10代からの生粋のドラマオタク。多数の媒体でドラマや映画のコラム、レビューを執筆中。40代後半の正々堂々の独身。著書に『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)など