『M-1グランプリ』を制した令和ロマンの高比良くるま(左)と松井ケムリ(右)『M-1グランプリ』を制した令和ロマンの高比良くるま(左)と松井ケムリ(右)

結成わずか5年8ヵ月で『M-1グランプリ』を制した吉本興業の漫才師、令和ロマン。大舞台にも物おじせず、平常運転で爆笑をかっさらったふたりを直撃!

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■ふたりとも男子校で運動部

――まず、お互いに他己紹介をしていただけますか?

くるま 松井ケムリくんはお金持ちの息子さんです。でも、甘やかされておらず、正しい金銭感覚を持ち、そして、おおらかな精神もあわせ持つという日本最強の男です。

ケムリ メンタル日本最強。

くるま M(メンタル)-1優勝。

ケムリ 髙比良くるまくんはお笑い大好き少年です。寝言で「もうお笑いできないよ~」と言うくらいお笑いに熱い男で、若手のライブをすべてみています。

――現在の性格はどのように形成されたんでしょう?

くるま 中高6年間、男子校でラグビー部だった影響が大きいかもしれないです。野球部とかほど1軍ではないけど、文化部でもないという〝1.5軍〟の考え方が俺のすべてなんですよ。出身地の練馬区も、都会でもなく田舎でもないし。俺はずっとピラミッドの1.5軍のところにいるんです。

――1.5軍はどういう性格なんですか?

くるま いわゆる〝客観視〟みたいに言われるけど、単純に上も下も見えるんですよ。分不相応なことはしません。例えば、田舎のヤンキーをバカにする気持ちもあるけど、都会のイケイケのやつほど調子には乗れない。だから、基本的に1.5軍のやつらは自己肯定感が低いです。

ケムリ 俺も男子校の卓球部だったけど......自己肯定感は高いんですよね。

くるま ケムリ先生は特殊だから。でも、男子校っていうのはやっぱデカいよ。共学みたいに広がりすぎちゃうと自分が何者かわかんないけど、男子校内のピラミッドはシンプルだから可視化しやすい。

ケムリ 確かに芸人って男子校出身の人が多いイメージある。面白さの基準がちょっと高めの世界にいた影響はあるかもしれないですね。

くるま お笑いをやる上ではよかったけど、人間としてはダメになるから、俺は2040年までにすべての男子校、女子校を廃止したいと思っています。

ケムリ うん。子供は渋幕(渋谷教育学園幕張中学校・高校)に入れたいね。

■くるまとケムリの〝余裕〟は種類が違う

――M-1優勝後のおふたりの落ち着いた様子に注目が集まりましたが、その余裕はどこから来るんでしょう?

くるま 俺たちが特別なわけじゃないですよ。今って、人生の全部をネタバレされているじゃないですか。M-1も19回目だし、優勝したらどうなるのか、もういろいろ知っちゃっているんですよね。

もし知らずに優勝していたら、「チャンピオンってこんなに大変なんだ」ってビックリしたと思うけど、知らないことがないから焦りようがない。だから、落ち着いて見えたんじゃないですかね。

――わかっていても緊張しなかったですか?

ケムリ しなかったですね。

くるま 俺らふたりは余裕の種類が違うと思います。ケムリ先生はやっぱりお金持ちとかもあって、もともと人に対して優しいし、細かいことでわざわざ動じない。逆に、俺は何事も全部諦めているというか、マイナスに考えちゃう。うまくいかなくても、「まあ、こういうこともあるか~」って諦めちゃうんですよ。

――全部諦める?

くるま 自分が報われるとか、幸せになるとか、まったく思ってないんです。もしコロナがなかったら、自分たちはもっと面白くなっていたかもしれないし、もっと早く優勝できていたかもしれない。そう思うと、今ってまったくMAXじゃないんですよね。俺が描いていた100%にはもう絶対に到達しない。

――目標がかなり高いところにあったんですね?

くるま 俺は0か100かの極論でしか考えられないんです。お笑いを始めたばかりの時は、全部のし上がってやろうと思っていたけど、それはできそうにないから、「じゃあ、もういいや」って。

――ケムリさんはご実家が太かったり、くるまさんも優勝前から収入面がよかったりと、金銭的な余裕も大きいのかなと思いました。

くるま それはあります。結局、コロナ禍はそういう面で不安だったし、悲しいけど、やっぱりお金はなるべくあったほうがいいですよね。

ケムリ そういう意味では、別にM-1で人生は変わっていないです。今も、優勝する前から入っていたお仕事をさせていただく時間が長いですから。

くるま 俺たちの人生がM-1を変えてあげただけだしな。

ケムリ すごいこと言ってる(笑)。

■ふたりが唯一、〝ヤバい〟と思うこと

――逆におふたりはどんな時に焦るんですか?

くるま 有名な先輩とご飯に行ったときに、人が群がってきちゃった時とかですかね。あとは小さい子どもが親からちょっと離れて歩いているのを見たりした時とか......。俺、人のことはめっちゃ焦っちゃうんですよね。

――新庄剛志さんもまったく同じことを仰っていました。

くるま 俺、BIGBOSSと一緒?(笑)

ケムリ 確かに似てるかも。けっこう新庄だよ。

くるま 俺、足細いしな。

――(笑)。ケムリさんは、悩んで眠れないみたいなことはありますか?

ケムリ ないない。ないですよ。

くるま マジで悩まないんでしょうね。

――お仕事でも、プライベートでも?

ケムリ プライベートで......悩むこと......?(宙を見上げて)

くるま 幸せな人生(笑)。そんなに見上げてもないなら、ないよ。あなたはストロングゼロを飲んで寝るだけ。

――令和ロマンさんが優勝したことで上の世代や同世代で焦りを覚えた方もいると思いますが、おふたりは自分たちより若い世代が出てくることへの焦りはないですか?

くるま ないです。「別に仕事をとられてもなんとかなるか」って思っていますね。

ケムリ みんなで幸せになればいいからね。

くるま むしろ、新しい世代が来ないことのほうが焦りますけどね。ここ数年のM-1って、俺らが圧倒的に後輩という状況がずっと続いているけど、これはかなりヤバい。もっと後輩が来てくれないと、マーケット自体が小さくなっちゃうから。

俺らの下の世代って、お笑いを選ばずにYouTuberになるやつが多かったり、 コロナ禍で優秀なやつが辞めちゃったり、露骨に影響が出ているんですよ。

ケムリ 俺らが1年目のときには、ワイルドカードだけど、準決勝にいったんですよ。5年経っても俺らがいちばん若いってヤバい。

くるま 時が進んでないから。俺らも歳をとっちゃうし、ハタチくらいの若手が若い子のファンとかを連れて来てくれないと劇場が回らないですよ。そういう意味では焦ります。

――芸人さんからそういう考えを伺うのは初めてです。

くるま 先輩たちは、まだ俺らが後輩でいるから大丈夫なんですよ。でも、俺らは後ろに道がないのが見えるので。

■ケムリ流、相手の懐に入るコツ

――先輩芸人に物怖じしない姿も印象的ですが、やっぱり緊張はしないですか?

くるま 〝すごい先輩〟には緊張しないですよ。超面白い人には何を言っても大丈夫なんで。 ウケないことが何よりも一番怖いから、アナウンサーの方とかと絡む時のほうが緊張しちゃう。

ケムリ 俺は誰にも緊張しないですね。松本(人志)さんとかにもタメ口でツッコんじゃうけど、若いからなのか特に怒られないです。

くるま 俺たちに怒るような余裕ないやつ、無理だから!

ケムリ アハハハハ(笑)。俺らぐらい後輩に怒るってダサすぎるもんね。

――「相手に嫌だと思わせずにグッと懐に入るコツ」があればお聞きしたいです。

ケムリ 自分を下げるのは大事じゃないですか? 俺、知っていても知らないふりとかいっぱいするし。

くるま 絶対わかっているのに、「それってなんですか?」って言う時あるよね。

ケムリ めっちゃバカなふりもする。自己肯定感が高いから、自分のことをどこまででも下げられるんです。自分が揺るがないんで、人にどう思われても大丈夫。

くるま あなたのそれはすごい。その戦い方が一番強いから。俺は逆で、MCとかにも平気で特攻できちゃうけど、それは何事も諦めてるから。こんな若手が何か言って怒るような人だったら、それはもうしょうがない。

ケムリ そんなパターンもあるのね。

くるま だから、松本さんとかにも自分の好きなタイミングでLINEとかしちゃいます。それで怒られちゃったら、もうしょうがないなって。実際、怒られないし、松本さんは優しくスタンプを返してくれます(笑)。

■SNSで勃発した〝顔ファン論争〟

――今、SNSで令和ロマンの顔ファン問題で論争が起きていますね。

ケムリ どうすんだよ、おまえ。一石投じるしかないじゃん。

くるま 投じないよ(笑)。俺が提言してどうするよ、顔ファン論争。

ケムリ いや、でも、そうですよね......。俺の顔ファンが多すぎるっていう。

くるま そっちじゃねえだろ、おい。なんか、今さらなるんだって思いましたね。

ケムリ ね、思った。

くるま 俺がカッコいいかどうかは関係なく、まさか論争になるなんて思っていなくて。ここまでお笑いファンの自己肯定感が低いと思わなかったです。事態は思ったよりも悪化しているなと思いましたね。〝

自分の好きは〝自分の好き〟でいいじゃないですか。自分がネタが好きならそれでよくて、「顔ファンと一緒にされたくない」って意味がわからない。自分の趣味にすら自信が持てない国になったの? なんか悲しいですね。

――「顔ファンのせいでチケットが取れなくなる」という嘆きの声もありますが......。

くるま それは顔ファンのせいじゃないですよ。それはもう、ただ敵にしたいだけの発言。だって、チャンピオンになったら集客が増えて、チケットが取れなくなるのは当たり前だから。

顔ファンを下に見てるから、こじつけているだけで、論理が飛躍しちゃっているんですよね。自分が好きなものを好きって言えなくなっちゃったんでしょうね。みんな自信持って笑えばいいのに。

あと、「TikTokとかに俺の画像があがっているから嫌だ」って言うけど、なぜ違法だというところには怒らないのか。どういうリテラシーなんだよ? それに気づかないぐらいの国になっちゃったのかよ、もう。

――シンプルに、顔ファンが多くついたことはうれしいですか?

くるま うれしいとかはないですけど、「そう思ってくれる人もいるんだな、そうですか」って感じです。まあ喜怒哀楽に無理矢理当てはめるなら、楽かな? この流れも歴代の先輩チャンピオンで散々見ているので、やっぱり知っていることに関して感情は動かないです。

――こうしてファンが増えたタイミングで、『チャンスの時間』(Abema)の「カミングアウト漫才」が公開されたことも、またひとつ話題に。

くるま 全部結びついちゃって、「顔ファンを振るい落としている」みたいなね?

ケムリ できるわけないから、そんなこと(笑)。

くるま そんなことやっているわけない(笑)。でも、これは俺の〝分析キャラ〟がよくない。俺の責任でもある。優勝したから取り上げられがちだけど、何もたいしたことは起きていません。ただのバラエティ番組で、千鳥さんに笑ってほしいから面白くできてよかったけど。

こんなん言ったら冷めるけど、事実じゃないこともあるし、大騒ぎしないでくださいって思うけど、まあいいよね、したいなら。

ケムリ まあ、そのうち落ち着くでしょうし。

くるま そう。悲しいけど、どうせ芸人のファンってそんなに多くはならないんだよ。だって、多くの人にとっては結局、〝面白い〟って理解できないから。だから、今は雨が強く降っているなって感じだけど、俺は家の中から出ないので。

――一方でケムリさんは男性ファンがとても多いと噂されていますが、体感はいかがですか?

ケムリ 本当にめっちゃ連絡きますよ。そういう人たちはみんな、プロフィールに身長・体重・年齢の数字だけ書いているんです。それさえわかればイケると思っているの、頭おかしい(笑)。

くるま 効率いいんだよ(笑)。頭いいよね、趣味とか示すよりもスペックを示したほうが早いという。

ケムリ 確かに合理的だけどさ(笑)。

●令和ロマン 
2018年4月1日結成。東京NSC23期。「NCS大ライブTOKYO2018」優勝、『第7回NHK新人お笑い大賞』優勝、『第43回ABCお笑いグランプリ』準優勝、『M-1グランプリ2023』優勝。

●高比良くるま 
1994年9月3日生まれ、東京都練馬区出身。慶應義塾大学中退。身長173cm、体重70kg。趣味はビールを飲むこと、自転車に乗ること。特技はラグビー、人生相談、楽屋作り。

●松井ケムリ 
1993年5月29日生まれ、神奈川県横浜市出身。慶應義塾大学卒業。身長173cm、体重85kg。趣味はYouTuber研究、カブトムシ・クワガタの養殖。特技は卓球、ベース演奏、動物の知識。