昌谷大介 A4studioさかやだいすけ(エーヨンスタジオ)
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)代表のライター・エディター。2002年からライター業に従事し、2012年に同社を設立。主にエンタメ、サブカル、ビジネス系の記事を執筆。
とうとう......とうとう"あの続き"が見られるっ!!
「ガンダムSEEDシリーズ」完全新作の映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が、いよいよ1月26日から公開される。
テレビアニメとして2002年10月から1年間放送された『機動戦士ガンダムSEED』。そして04年10月から1年間放送された続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』。
そんな「SEEDシリーズ」の劇場版製作が発表されたのは06年のことだったが、紆余(うよ)曲折ありテレビシリーズから約20年たっての公開となったのだ。
そこで「SEEDシリーズ」の福田己津央(みつお)監督に、公開直前インタビューを敢行!
――間もなく劇場版が公開されますが、まず現在の率直な気持ちをお聞かせください。
福田 不思議な感覚というか、本当にやるのかな、っていう気持ち(笑)。それと僕としては20年もたっている感じはなくて2、3年くらいしかたってないくらいの気持ちでがんばって作りました。
――1作目『SEED』が放送されていた当時、序盤ではファンたちから「『機動戦士ガンダム』そのままじゃないか?」といった評価も多かったものの、ストーリー中盤以降の超展開などがきっかけで、大絶賛へと変わっていきました。当時の心境は?
福田 特に気にしていませんでしたよ(笑)。「ガンダム」の名前を冠していますし、初代からのファンが多いですから。新作には必ずそういう声が出てくるのは当たり前という認識でしたね。周りからネットの声は見るなって言われていたんで、実は途中から評価が変わっていたってことは、当時知らなかったんですよ。
後々にDVDの売り上げ枚数がすごいことになっていると聞いて、売れてるんだというのは知りましたが、『SEED』が終わった後も、そこまで大ヒットしたっていう実感はなかったです。
――「SEEDシリーズ」が「ガンダム」全体の"中興の祖"となり、この20年間で『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』や、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』といったほかの人気作も誕生しています。福田監督はご覧になっていますか?
福田 見てないんですよね。本来は他シリーズもちゃんとチェックして意識しなくちゃいけないんでしょうけど、多かれ少なかれ影響を受けてしまうので、僕は今回の『FREEDOM』を作り終えるまでは、ほかの新しい『ガンダム』は見ないと決めていたんで。
――それが福田監督のスタイルだということですね。今作を作るにあたって監督の気持ち的に、製作が完全に止まっていた時期はありましたか?
福田 いえ、なんだかんだでずっと途切れてなくて。仕事場には常に脚本とかプロットがあるっていう状態でした。言ってしまえば20年前のまんまですよね。だから物語やテーマが古くなってないかなっていう心配はあります。
――ちなみに今作の主役となるキラ・ヤマトを、どのように描くのかは非常に気になっていました。というのも、『SEED』では彼の苦悩や葛藤、そこからの成長が描かれましたが、続編『DESTINY』登場時にはかなり達観していて、何もかもを悟った仙人のような振る舞いだったので、メインキャラとしての感情表現が難しいのかなと。
福田 『DESTINY』のときは、主人公のシン・アスカに降りかかっていたような"ドラマ"がキラにはほとんどなかったんですよ。それに、すでにやるべきことの結論を出していたので悩むこともなくて、達観しているように見えたのかもしれません。
ただ『DESTINY』のキラは、達観していたというより心が疲れちゃってた状態だったんで、『FREEDOM』ではキラを戻したかったっていうのはあります。
そもそも彼はどこにでもいる普通のノンポリの学生でしたからね(笑)。だから今回はキラに悩ましい状況になる"ドラマ"を作って、もう一度、ウジウジしながら葛藤する彼を描きました。
――確かに『SEED』当時のようなキラの姿が再び見られた気がします。『DESTINY』の主人公でありながら闇落ちしたような描写もあったシンが、今作ではポジティブな表情が多く見られ、こういうシンの活躍が見たかったんだ!と感動しました(笑)。
福田 「SEEDシリーズ」はキャラクター数が多いので、それぞれに見せ場を作るのには苦労したんですよ。しょせん2時間の映画で描けることはたかだか知れてるわけですが、正直誰も切り捨てたくなかったんですよね。
そんな中でもシンは、『DESTINY』では闇の部分が出ていましたが、本来の彼は弟気質で素直なかわいいキャラなので、今回はもともとのシンの明るさを表現できたと思います。
――今作のモビルスーツ戦でこだわったことは?
福田 テレビシリーズのときとの最大の違いは、モビルスーツの描写に3DCGを取り入れたことですね。ただすべてをCGにするのではなく、従来の手描きの作画と3DCGのハイブリッドにしています。CGのほうが表現しやすいシーンもあれば、手描きのほうが迫力が出るシーンもあったので、使い分けてますね。
――どこが手描きでどこがCGかをチェックするという楽しみ方もできそうですね。
福田 細かい描写でいうと、ミサイルやビームのスピード感はこだわってますよ。ミサイルは画面に残るようなスピードで飛ばないし、ビームなんてもっと高速なわけで、そういう見せ方は追求しました。
――「SEEDシリーズ」といえば、モビルスーツ戦の高速演出が特徴ですからね。
福田 そういうイメージを持っているファンが多いんですよね。今作のスタッフには、テレビシリーズをファンとして見ていたという若い世代も入っているんですけど、製作開始当初は"『SEED』らしさ"の感覚のズレがあったんです。
若いスタッフが「『SEED』ってこうですよね」っていう描き方は、だいたい劇中終盤のモビルスーツ戦の手法なんですよ。でもテレビシリーズのときは、前半は割とリアル系のロボットの挙動を意識した描き方をしていて、目が追いつかないような高速な戦闘にはしていないんです。
――言われてみれば確かに。
福田 劇中でモビルスーツが進化して強くなっていくので、放送の1年かけて徐々に見せ方のスピードを上げて、性能が向上していることを表現していたんですよ。今作では同じことを2時間の尺の中で表現しました。
ですから序盤のシーンの製作中に、モビルスーツをすごく速いスピードで動かそうとしていたスタッフがいて、彼はそれが『SEED』っぽさだと思っていたようなんですが、こういう手法は終盤まで取っておくようにとお願いしました。
序盤はトリッキーな動きはなしで、現実にあるメカらしさを意識して、とにかく地味にリアルにやってくださいと。
――モビルスーツ戦だけでなく、戦艦同士の戦闘も見応えがありました。
福田 僕が戦艦好きなんで、戦艦をカッコよく描くっていうのは、自分的には一番のテーマのひとつでしたね。戦艦好きの人は今作の新型戦艦のデザインに注目してもらいたいですし、戦艦が飛翔するシーンは絶対にちゃんとやろうって自分に誓ってました(笑)。
――「SEEDシリーズ」は過去の「ガンダム」作品へのオマージュも多いですが、今作もてんこ盛りでしたね。また、「SEEDシリーズ」のセルフオマージュともいえるシーンも印象的で、劇場作品にふさわしい"お祭り"感が味わえました!
福田 ネタ(オマージュ)はかなり意識して入れましたね。『機動戦士ガンダム』や『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』あたりの作品とか、「ガンダム」以外でも僕が演出を担当した『機甲戦記ドラグナー』のネタも入れ込んでいます。細かいところにもいろいろ入れているので、ネタ元が全部わかったら大したものです(笑)。
――ファンが絶対に喜びそうなシーンの連続なので、『ガンダム』好き、『SEED』好きなら絶対に劇場で見るべし!
●福田己津央(ふくだ・みつお)
1960年生まれ。87年の『機甲戦記ドラグナー』で演出を担当し、91年にスタートした『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』シリーズの監督、2002年にスタートした「機動戦士ガンダムSEEDシリーズ」の監督を務める
■劇場版『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』とは?
テレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』(2002年)、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(04年)からなる「SEEDシリーズ」。
モビルスーツ人気だけでなくキャラクター人気も非常に高く、従来のガンダムファンとは異なる女性アニメファンやコスプレイヤーといった層の開拓にも成功。シリーズ累計のパッケージ販売数は400万本を超えており、45周年となる「ガンダムシリーズ」における"中興の祖"ともいえる作品なのだ。
物語は、自然のままに生まれた人類「ナチュラル」の地球連合軍と、遺伝子調整をされている人類「コーディネイター」のザフトの対立を描く。
『SEED』の主人公は、コーディネイターでありながら地球連合軍側について戦うことになるキラ・ヤマト。2年後を舞台とした続編『DESTINY』の主人公は、ザフトのエースパイロットであるコーディネイターのシン・アスカ。さらにその2年後が舞台となる今回の劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』では、キラ・ヤマトが主人公となっている。
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)代表のライター・エディター。2002年からライター業に従事し、2012年に同社を設立。主にエンタメ、サブカル、ビジネス系の記事を執筆。