小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
古舘春一先生による同名漫画を原作に、バレーボールに懸ける高校生たちの熱い青春ドラマを描いた人気アニメ『ハイキュー!!』。
その待望の映画化となる『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が本日、2月16日より公開されたのを記念して、TVアニメシリーズでも1期~3期を担当した監督の満仲 勧さんのインタビューをお届けする。
――劇場版の制作にあたり、TVシリーズとの違いは意識されましたか?
満仲 そもそものところになってしまうんですが、僕はまた『ハイキュー!!』に戻ってくるとは思ってなかったんですよ。
これはアニメ4期を監督しなかった理由なのですが、同じスポーツアニメでも、『キャプテン翼』とか『黒子のバスケ』みたいに強さがインフレしていくような作品なら、シリーズを重ねても演出的に見せ方を工夫していくことはできたと思うんです。
でも、『ハイキュー!!』はバレーボールの試合をリアルにしっかりと描く作品です。その方向で自分ができることはやり尽くしたと、3期が終わった時点で感じていました。
だから、3期から4期で内容も地方大会から全国大会へとスケールアップするし、ここで監督も代わって、アニメとしての見せ方も変えていくのがいいのではないかと思ったんです。
今回は劇場版だということで、原作を再現するだけでは映画にはならない。原作のストーリーを1本の映画に再構築してまとめる作業が必要です。それなら映像的にもチャレンジできることがあるかもしれないと、あらためて監督をやることにしました。
――劇場版で挑戦したかったこと、とは?
満仲 映像でいえば、分かりやすいし作画の負担も抑えられるので、TVシリーズはトスやスパイクのたびに寄りのカットを切り替えていく見せ方をしていました。でも、今回は大きなスクリーンで見てもらう作品ですから、少しカメラを引いて、例えばスパイクを打つ人以外もどう動いているか見せる。プレイをしている選手だけでなく、もっと全体の動きが伝わるような見せ方をしていきたいと考えました。
――試合のリアリティをさらに追求したかったわけですね。
満仲 それはずっとやってみたかったことでした。人をたくさん動かさないといけないから、作るのは大変なんですけどね(笑)。特に最後のプレイには注目してほしいと思っています。映像的に一番やりたかったことが凝縮されています。
――満仲さんはアニメーターとしても活躍されており、高校野球を描いた『おおきく振りかぶって』の作画はアニメファンから高く評価されていました。スポーツアニメを作るうえで意識されていることはありますか?
満仲 僕は草野球をやっているんですが、試合中に実際のバッターボックスやコートに立っているという「選手の目線」は、とても意識しています。選手との距離感やボールの速さなどですね。観客から見たスポーツの面白さだけでなく、プレイしている人にとっての魅力はどこなんだろうとは、常に考えています。
――選手の目線を映像的に再現したい?
満仲 それはすごくあります。『ハイキュー!!』でも「頂の景色」というのがあるのですが、それは主人公の日向翔陽は中学時代、スパイクを打つたびにブロッカーが邪魔してネットの向こう側を見ることができなかった。しかし、烏野高校で影山飛雄という最高のセッターと組んだら、ブロッカーのいないところに絶好のトスが上がるので、ついにネットの向こう側を見ることができるようになった。それを映像で具体的に描く。そういうところがアニメ化で大切にしていることです。
――選手が実際にゾクッとする瞬間をお客さんにも体験してもらいたい。
満仲 そこはやっぱり、原作の古舘先生がとてもしっかり描いてきたことですからね。原作を読んだときのように、アニメを観るお客さんにも、「自分もバレーボールをやってみたい!」と思わせられるような作品にしたいとはずっと思っていました。
――『ゴミ捨て場の決戦』は原作でも1、2を争う人気エピソードです。映画では満仲さんが脚本も担当されていますが、脚色はどういった方針で?
満仲 映画にするためには、「どこにドラマの焦点を当てるのか」ということですよね。その意味では孤爪研磨の感情が、このエピソードの中では一番動いていました。
特に理由もなく周りに流されるままバレーボールをしていたけど、日向に出会ってスポーツとしての魅力を感じ始める。すごくドラマティックです。 だから、研磨を中心に構成していくことにしたんです。
――では、研磨が好きな人には相当グッと来る内容に?
満仲 そう思います。見せ場が多いので、研磨役の梶(裕貴)さんは本当に大変な収録になったと思いますが(笑)。上映時間は90分くらいですけど、すごく濃密な90分になっていると思います。
――アニメ1期の放送から10年になりますが、あらためて『ハイキュー!!』はご自身にとってどういう存在ですか?
満仲 当時、監督2本目だったのですが、たしかに自分にとっては大きな存在ですね。その前にアニメーターをやっていた『おおきく振りかぶって』もスポーツアニメで、そこで得た経験だったり、もっとこうすればよかったというのを注いだ作品が『ハイキュー!!』なんです。
それで言えば、『おおきく振りかぶって』も同じくらい自分にとって大きな存在です。特に水島努さん(監督)には本当に学ばせてもらいました。あれをやっていたから今があると思っています。
――アニメーター出身の監督ということで、画作りでの自分らしさについては、どう考えていらっしゃいますか?
満仲 申し訳ないんですけど、アニメーターとしては感覚で描いているので......。もっと勉強しないといけないとは思うんですけどね。それは描き方というよりも、演出家として説明不足なことを痛感するので。
――どういうことでしょう?
満仲 自分が監督するうえでは、それぞれのアニメーターの良さをそのまま出せることが一番だと思っているんですが、実際の制作では自分で直すことが多くなってしまって。それは「こういう画にしたい」と自分がちゃんと伝えられていないからだと思うんですよね。
若い頃に『プラネテス』というアニメに参加したとき、演出の仕事を知りたくて、アフレコからダビング、編集、ビデオ編集まで全部連れていってもらったんですよ。そのとき監督の谷口悟朗さんから、「演出になりたいなら画を描くな。画を描かなくても自分がやりたいことを説明できないなら演出じゃない」と言われて。それがずっと残っています。
もちろん、ほかの監督には「画を描けるのは武器だからやめる必要はない」と言われたし、さまざまな監督のあり方はあると思います。でも、「演出意図をちゃんと説明できているか」というのは、いまだに自分にとって課題ですね。
――ありがとうございます。最後に、これだけ長きにわたって『ハイキュー!!』という作品が支持されている理由に関して、監督としてはどう考えていらっしゃいますか?
満仲 それは単純に原作の力ですよ。僕はそれを広めるお手伝いをしている感覚です。原作で古舘先生が表現したかったであろうことを忠実に再現してきたから、原作の魅力がアニメでも伝わっているということなんだと思います。
原作を読むと思いますからね。毎試合よくこんなにアイデアを詰め込めますよねって。本当にバレーボールの楽しさがこれでもかってくらい詰め込まれた作品だと思います。
特に今回の『ゴミ捨て場の決戦』は、互いに切磋琢磨しながら地方大会を勝ち上がってきた烏野高校と音駒高校が、ついに全国大会という大舞台でぶつかります。待ちに待ったお祭り感を込めたつもりなので、ぜひ楽しんでほしいですね。
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(©2024「ハイキュー!!」製作委員会 ©古舘春一/集英社)
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。