鬼の面を被った謎の武装集団によって占拠された大病院を舞台に、休職中の刑事・武蔵三郎(櫻井翔)が人質を救うため、犯人に立ち向かうオリジナルのサスペンスドラマ『大病院占拠』(2023年 日本テレビ系)。
この1月からは続編の『新空港占拠』が放送され(毎週土曜夜10時~)、今度は獣の面を被った武装集団が占拠した空港を舞台に、武蔵刑事の発する「ウソだろ」に象徴される、あり得ない展開が次々と起こっていく。
興味深いのは、この占拠シリーズは視聴者が面の下の出演者は誰か、あるいは物語の謎解きをSNSで独自考察しつつ、ドラマの進行を盛り上げていく点。まさに視聴者参加型の新たな手法の連続ドラマと言えるだろう。そこで、『大病院占拠』『新空港占拠』を担当する尾上貴洋プロデューサーを直撃。制作の舞台裏を聞いた。
■前作『大病院占拠』で「想定外」だったこと
――SNSとシンクロしながら進行していく、令和の今だからこその連続ドラマが『大病院占拠』『新空港占拠』の占拠シリーズだと思います。
尾上 今はSNSで盛り上がりながら地上波の番組を見てもらう時代だとは思うので、それを念頭のひとつに置いたのは間違いないです。前作の『大病院占拠』のときもそうでしたけど、僕としては多くの人に盛り上がって楽しんで見てもらえる、"超エンタメ"を目指しました。お面の中の人は誰か、裏切り者は誰だ? という盛り上がりはそのひとつだと思います。
『大病院占拠』『新空港占拠』でも、いろんな展開が同時多発で起こるので、視聴者の皆さんがツッコミを入れながら見ていただく部分が大きいと思います。ですが、こちらとしてはそんな盛り上がりの中でも、人間としての感情の部分が底に含まれていないと、ただのお祭りドラマになってしまう。なので、ちゃんとしたドラマ性は意識をしているつもりです。
――前作『大病院占拠』の最終回放送の際、尾上さんの SNSを見たら「企画書から2年」とありました。企画書を書いた段階で、これだけSNSと連動できると思っていましたか?
尾上 SNS云々よりは見ている人に楽しんでもらいたい、という気持ちがあったんです。だからSNSで盛り上がるよりも、こうだったね、ああだったねってワイワイ楽しんでもらえることは意識をしていたので、結果的にそれがSNSの潮流と相まったのかなと思いますね。
――想定外の反応はありましたか?
尾上 盛り上がるためのひとつの手法として『お面の中の人を公表しない』という方法を取ったんですけど、面に覆われていない口元を頼りに正体を探ろうと写真を重ねたり、音声にしてもボイスチェンジャーで元に戻してみたり......。そういう細かい考察班が出ることは想像していなくて。だから第1話の時点で、もうお面の中のキャストが誰なのか、ほぼわかっている人もいるんだな、みたいな動きが出てくることは想定外でしたね。
――前作の結果を経て、『新空港占拠』ではフルフェイスのお面で隠そうとは思わなかったんですか?
尾上 もちろんフルフェイスのお面で隠すことはできたんですけど、僕としては、たとえ目や口元だけでも出演者の方々には芝居をしていただきたいんです。それを見ていただいた上で、視聴者が「この人かもしれないから確認しよう」とか、「ほら私の言ったとおりだな」って推察したくなるのが大事だなと思っていて。要は、当てる・当てないっていうよりも、見たくなることが先決だと思うんです。だから前回と比べて、その部分の方針はほぼ変えてはいないですね。
――前作では細心の注意を払って、出入り業者の方を含め、主要な関係者以外の方々にまで鬼の面の正体を隠したことが話題になりました。今回もそれは同じですか?
尾上 もちろんそうです。そこは前とまったく一緒で、キャストが出入りする部屋の、普段なら開放されているドアには幕を張りましたし、お面を付けているキャストが撮影場所を移動する際は、基本、顔を明かしていない方はマスクとか、場合によってはサングラスもして移動していただきました。
――徹底したんですね。占拠シリーズで最もキャラが立っている駿河紗季(宮本茉由)は、『大病院占拠』の前半の段階では警察側にいる情報分析官のひとりで、一度は犯人側とつながっているという疑惑を持たれたものの、結局そこは追及されず、匂わせたまま物語は終了。今作の『新空港占拠』の第1話で、実は以前からつながっていたことが正式に明かされます。これは『大病院占拠』のスタート時点からそういう設定だったんでしょうか?
尾上 いや、最初からではないですね。『大病院占拠』の中盤から後半にかけてそうなった感じです。物語の最後に向けて、視聴者にさらにドキドキハラハラしてもらうためにどうすればいいかと考えたときに、彼女に裏を持たせることが一番面白いと考えました。
■キャラの「裏切り」を出演者は知っているのか?
――ドラマづくりにもいろんな方法があるとは思うんですけど、当初は予定していなかった結末になる、という方法はよく用いられるのでしょうか?
尾上 どうなんでしょう。まず、占拠シリーズに関しては原作があるわけではなく、オリジナルのドラマであるということ。僕が企画した、僕がつくりたかった話をつくれるっていうところからスタートしているので、臨機応変に変えた部分はあると思います。もちろん大枠は決めた中で、細部は臨機応変に、という意味ですね。だから珍しいかもしれません。
――やはりSNSを含め視聴者からの反響を見た上で、キャラの立ち位置を変えていく感じですかね?
尾上 いや、そこは反響とかを意識せず、逆に(SNSの)情報を遮断するようなスタンスでいます。どうしたら一番面白いのかっていう意見を会議などで出し合ってつくった感じですね。だから、この先どうなるかをキャストにも直前まで伝えないスタイルでやっています。せっかくオリジナルで僕らが決められるスタンスでいるので、面白いと思ったことをその場その場で臨機応変に変えていこうっていうスタンスですね。
――ということは、逆に裏切る前提の役柄として、最初から方向性や結果だけは伝えてあるキャストもいるのでしょうか?
尾上 います(キッパリ)。そういう人もいます。全話の中で、ここで一番視聴者をドキドキさせたいっていうプランニングはするので、その段階で伝える方もいますね。
――その場合、他のキャストさんはそのことを知らない?
尾上 (台本を読むまでは)知らないです。
――共演者の中でのリアリティやサプライズもあるわけですね。占拠シリーズではそれが顕著なんですけど、今後の連続ドラマの方向性は、SNSなくしてあり得なくなっていくのでしょうか?
尾上 そうですね。うまく共存していかなきゃなとは思いますね。テレビとかメディアのひとつにSNSがあって、今はメインになってきているので、うまく媒体とSNSとの協力というか、双方向性を模索できれば。お互いにそれを活用しあいながらつくって、盛り上げていくことになる気がします。
――『大病院占拠』にしろ『新空港占拠』にしろ、TVerでは総合&ドラマランキング1位を獲得し、お気に入りの登録者も100万人を突破しています。
尾上 情報量がすごく多いドラマなので比較的繰り返し見て、ここはどうだったのか、このときはどんな表情をしているのか、ここにつながっているのか、ここにヒントがあるのかっていうのを意図的に散りばめているので、放送開始前から何回か繰り返してみたくなるのかなっていう思いはあったんですけどね。
――ご自身のキャリアの中で、占拠シリーズはどんな位置付けになると考えていますか?
尾上 過去に担当した『ボイス 110緊急指令室』シリーズ(2019年・2021年)、『レッドアイズ 監視捜査班』(2021年)のように、警察もの、タイムリミットものみたいなものは何回かつくってきたんですけど、それに篭城(ろうじょう)ものとか病院ものとか、自分のやりたいことを詰め込んでいるので、自分にとっては大きな位置になることは間違いないですね。次に向けての大きな経験になると思っています。
――尾上さんが過去に影響を受けたドラマや映画で、今回の占拠シリーズにつながっているものはありますか?
尾上 あるにはあるんですけど、どれが一番かと言われると......。ハリウッド作品、韓国ドラマ、日本の優れたドラマをいっぱい見てきてはいるので、どれかひとつではないし、ひとつを挙げて言ったとしても、決してそれをフォーマットコピーしたというわけではないので。
――では、尾上さんの好きな映画や製作者は?
尾上 強いて挙げればウォン・カーウァイやクエンティン・タランティーノです。
――最後に、視聴率はどの程度取りたいと考えていますか?
尾上 もちろん高いほうがいいんですけど、具体的な目標の数字は特にないですね。というのは、もはや基準があいまいというか、過渡期だと思うんです。これだけ地上波の立ち位置が変わってきている中で、数字を具体的に言える感じじゃないと思います。
数字の基準も違うし、周りからの認められ方もこれからは変わってくると思います。今はまず、視聴者をドキドキハラハラさせて、どうやって武蔵刑事に最大級の「ウソだろ」を言ってもらえるのかを考えているところですね。