今シリーズのダークホースとして急浮上してきたソルジャー・チームの闘いがここでとうとう決着。超人血盟軍とは一体、何だったのか? そのすべてがこの巻で明かされます。
●『キン肉マン』30巻
友情を大人の物語に昇華させたソルジャー
残虐チームは大将のソルジャーとバッファローマン、対する知性チームもまた大将のフェニックスとマンモスマンのちょうどふたりずつが残り、タッグマッチの様相を呈してきたところで、まずこの巻はバッファローマンVSマンモスマン、稀代(きだい)の大型超人対決から始まります。
バッファローマン最大の特徴といえばもちろん大迫力の超人強度1000万パワー。しかしそんな彼をもってしても組み合ってからの序盤、マンモスマンとの力比べは苦戦気味です。そこでバッファローマンは、先手を取って必殺技ハリケーン・ミキサーに出ようとするのですが、いきなりソルジャーが怪行動。突進をかけようとするバッファローマンの足に鉄柱を投げつけ、技への移行を阻止します。
謎の行動を見たキン肉マンは当然のごとくソルジャーを猛批判しますが、ソルジャーはそんなキン肉マンの罵詈雑言をむしろ一喝。黙って見ておけと述べたその直後、バッファローマンが技を踏みとどまったことで相手が狙った渾身(こんしん)のカウンター技の回避に成功! 結果的には一見、裏切りにも思えるソルジャーの粗暴な行動により、バッファローマンは命を救われたのでした。
決して目先だけのわかりやすい優しさにとらわれない、時に本人からどう思われようとも真に相手を思いやる気持ちこそが大切である、これぞソルジャーが提唱する新たなる友情の概念、その名も"真・友情パワー"です。
これまで『キン肉マン』がずっと友情をテーマにしてきた作品であることは言わずもがなですが、そのなかにあってなお斬新で、新しい概念が飛び出してくるというのがものすごく面白いですよね。
これまでの対悪魔超人、対完璧超人との激闘のなかでは友情か非情か、その二択のどちらが勝つかという善悪の対比構図しかありませんでした。しかしソルジャーはそこに第三の選択肢を持ち込んできた。一見、冷たく厳しい行動だが、それこそが最終的には相手のために繋がっていく。まさにこれまでの本作にはなかった新たな友情の形で、もしかしたらこっちのほうがキン肉マンの言ってることより正しいのかもしれない。そう思うに十分な説得力と魅力を備えた考え方です。
おそらく当時のリアルタイム読者たちは幾分、困惑したのではないでしょうか。これまではキン肉マンだけが常に正しく、みんなどこまでも彼についていけばよかったのに、今は必ずしもそうではない。正解がふたつ同時に提供されているような不思議な感覚。
しかし、それこそが当時最終章として提示された「キン肉星王位争奪編」というシリーズならではの大きな意義であったとも思うんですよね。友情をテーマに物語を長く紡ぎ続けてきた結果、ここまで深いところにたどり着いた。そしてこの"真・友情パワー"の登場により『キン肉マン』の友情物語は子供時代の美しい思い出ストーリーという評価に留まらない、今でも立ち返るべき大人の鑑賞に耐えうる友情物語に昇華されていった、と言えるのではないかとも思うのです。
強さインフレ抑制の秘訣は超人愛にアリ!?
そうして真・友情パワーを注入されたバッファローマンは、ただ仲間に甘えるのではない、昔の悪魔超人時代のハングリーさを取り戻していく。同時に原点回帰ともいえる、強いキャラクター性をも取り戻していくのです。
思い起こせば、敵のボスとして初登場した頃のバッファローマンは「こんなどうしようもなく強いヤツ、どうやって倒すんだよ!?」と嘆きたくなるほどの怖い超人でした。しかし仲間となり、周りの補助役へ立場を変え、いつの間にかそんな怖さも消えてきていた。そんな彼が再び、かつての恐ろしさを取り戻して見せてくれる。
その過程は非常にうれしい半面、先に倒れたブロッケンJr.同様、本作におけるクランクアップが近づいてきているのかも...という哀しい予感ただよう演出でもありました。結果、この巻の後半ではソルジャーの危機を何度も救ったばかりか、過去現在を通して最強格の地位を保ち続けるマンモスマンとほぼ互角、引き分けといってもいい決着をつけ、ソルジャーVSフェニックス、1対1の状況に持ち込ませる大仕事をやり遂げ退場していきました。
同時に、このバッファローマンの大活躍であらためて僕が強く意識させられたことがもうひとつ。それはどんなにストーリーが進んでも、無限に広がる強さのインフレは許さないという『キン肉マン』に徹底された方針でした。誰にも必ずまた輝けるチャンスはある、だからどんな超人もキャラクターとして決して死なない。これもまた、本作の稀有にして大きな魅力の肝だと僕は思っています。
そして始まる大将同士の一騎打ち。真なる友情の想いを仲間から受けて残ったソルジャーの強さは鬼神のごとく、もしかしたらこのまま勝つんじゃないかと思わせるほどの闘いぶりを魅せます。しかし、そこに絡んでくるのが超人予言書という新アイテムの驚くべき活用法でした。予言書に書かれた自身のページを燃やされ灰になると、本人も灰になって消えてしまう!? 理不尽極まりありませんが、これは生死の境がますます曖昧(あいまい)になってきた本作において、ゆでたまご先生が新たに用意された完全なる死の概念でもあったと考えられます。
その効果もあってソルジャーは一転、フェニックスに劣勢へと追い込まれた挙句、奮闘虚(むな)しく完全消滅。皮肉なことにそれは同時に、彼がキン肉マンの実の兄であることを示す何より確実な証明にもなりました。志半(こころざしなか)ばにして消滅を迎える間際、兄は弟に未完成最強奥義マッスル・スパークを完成へ導く最大のヒントを残して逝き、こうして超人血盟軍は消えました。
彼らがこの試合で遺したもの。真の友情、真の奥義、いずれもこの後のキン肉マンのさらなる成長、王位につながる大事なピースです。そのすべてを受け取って...キン肉マンたちは次巻、最大最後の宿敵・フェニックス・チームとの決戦へ挑んでいきます!
キン肉マン4コマ
●こんな見どころにも注目!
今回、注目したいのはこのアナウンス。フィクション世界に現実の話題を混ぜ込むこういうメタ表現の使用はどの作品でも賛否両論あるところですが、僕はこと『キン肉マン』に関しては大アリだと思ってます。なぜなら僕たち読者の多くはきっと、本作中の観客に混ざってこの世界に入り込んで試合を見ているから。だからこそ、虚構と現実の境界線が曖昧になるこのような表現はより没入感を高めてくれ、もしくは逆に超人たちが現実世界にいる錯覚さえ湧いてくる。とても不思議な感覚を呼び覚ましてくれる一コマです。
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中
●2024年放送開始! アニメ『キン肉マン』完璧超人始祖編公式サイト
アニメーション制作:Production I.G
原作:ゆでたまご(集英社『週刊プレイボーイ』・『週プレNEWS』連載中)
監督:さとう陽 シリーズ構成:深見真
キャラクターデザイン:丸藤広貴 音楽:高梨康治