ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回は料理研究家のリュウジさんを迎えての7回目。飲食店ビジネスは儲かりづらいという一方で、「粉ものは儲かる」という話もあります。では、どんな粉ものなら儲かるのかをリュウジさんに教えてもらいました。
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ひろゆき(以下、ひろ) これまでの対談で「飲食店ビジネスは儲かりづらい」という話になっていますが、例えば牛丼店に新規参入するのはどうなんですか? リュウジさんがプロデュースする店なら人気店になりそうですけど。
リュウジ(以下、リュウ) いや、牛丼はめちゃめちゃ厳しいです。
ひろ 薄利多売ですけど回転率が高いですよね。セントラルキッチンで作ったものを店舗で温めるのが基本ですし、「店舗でスープを作らないラーメン店」みたいな、効率のいいビジネスはできないんですか?
リュウ 牛丼店は「吉野家」「松屋」「すき家」の三大チェーンの存在が圧倒的すぎて新規参入は無理ゲーですね。三大チェーンが牛丼の適正価格を下げてしまったんですよ。今、牛丼1杯って400円くらいじゃないですか。あんなにウマいものをあんなに安く出しちゃダメなんです!
ひろ 牛肉を使っているし、清潔な店内で食べられる。松屋だとお味噌汁までついてくる。
リュウ 実は牛丼の商品開発は何度か話に上がっているんです。でも、一瞬でボツになるんですよ。市場価値をリサーチすると牛丼の基準はやっぱり400円になる。例えば「これがリュウジの牛丼です。680円です!」と売り出したとしても「高いよ」となります。僕としてはおいしいものを提供したいし、高級食材は使えなくても食材にはこだわりたい。ビジネスとして持続するために利益も乗せると「むしろ680円なら安くね?」となるのですが、敵が強すぎて挑戦する前から詰んでます。
ひろ 今の飲食業界って、本来の価値よりも安くなりすぎているがゆえに、ライバルがいない業界に行かざるをえなかったり、「店でラーメンのスープを作らない」みたいにプライドを捨てないとまともな経営ができないんですかね。でも、それって日本の食文化にとってあまり良くない感じがします。
リュウ もちろん、努力や工夫でがんばっているお店もたくさんありますよ。ただ、ランニングコストに苦しめられているお店はやっぱり多い。前にも言いましたが、生野菜のサラダは一日で黒ずんでくるので廃棄リスクがある。だから、提供したがらないお店が多いんですよ。
ひろ それに、サラダは店の看板にならないですもんね。
リュウ だから、居酒屋さんでサラダを頼むと割と値段が高いじゃないですか。あれはロスになる分も価格に反映しているからなんです。
ひろ よく「粉ものは儲かる」っていうじゃないですか。あれは本当なんですか?
リュウ そうですね。原価率がかなり抑えられます。ただ、パスタは粉ものですけどゆで時間がかかるので回転率が悪くなります。この問題を解消するために、僕が以前働いていたイタリアンのお店では、あらかじめゆでてました。
ひろ それだとアルデンテ(麺に歯応えがある状態)にならなくないですか?
リュウ はい。アルデンテにはならないです(笑)。
ひろ えっ(笑)。
リュウ アルデンテかどうかは、プロじゃなくてもわかるので、アルデンテにならなくても、おいしいと思ってもらう仕掛けをしていました。例えば、スープパスタにしちゃうんですよ。
ひろ なるほど、それなら違和感はないですね。
リュウ ラーメン感覚で食べることになりますからね。なんなら、「わざとアルデンテにしていないんだ」と思うかもしれない。
ひろ むしろ「この食感を残さないのがこだわりかも」と思っちゃうかもしれないですね。
リュウ そうです。でも、自分たちで食べる賄いは全部アルデンテにしてましたけどね(笑)。
ひろ でも、その仕組みができれば利益率は上がりそうですね。
リュウ ただ、パスタには落とし穴もあって、お客さんの滞在時間が長いんですよ。
ひろ 確かに、ラーメンやうどんと比べると回転率が悪いイメージがあります。
リュウ パスタは、おなかを満たしてサッと帰る人は少なくて、食後に会話を楽しむお客さんが多いんです。
ひろ どうするんですか?
リュウ パスタって1300円くらいで提供されているのをよく見ませんか? これは回転率が悪い分、値段を高めに設定しているからなんです。あとはサラダとセットにしたり、デザートやコーヒーをつけて客単価を上げます。
ひろ パスタの高い単価は、食べるのが遅いお客さんのコストが入っているのか(笑)。
リュウ パンケーキ屋さんも似ていますね。粉ものなので原価はかなり安いんです。
ひろ 主な材料は小麦粉、バター、卵、生クリームくらいですね。
リュウ でも、パンケーキをサッと食べて帰る人は少ないじゃないですか。だから、お客さんの回転率が悪いので、トッピングやドリンクのセットで単価を上げる工夫をしているんです。
ひろ そばやうどんはどうですか?
リュウ そばは、そば粉のコストが少し高めです。あとは、自分たちでそばを打っているかどうかも影響してくる。うどんは、小麦粉にこだわったとしてもそこまで原価は上がらない。利益率は高いと思います。
ひろ なるほど。結局、継続できる飲食店は粉ものに行き着くのか。
リュウ あとは回転率ですね。最近は回転率が高い立ち食いパスタ屋さんも少しずつ増えているんですよ。で、そういうお店の価格は600〜700円くらいと安く、うどんと同じくらいの価格帯だったりしますね。
ひろ 「ロメスパ」(路面スパゲティの略で、立ち食いそばのように素早く食べるスパゲティ)みたいなお店ですね。
リュウ そうです、そうです。
ひろ ロメスパは僕も好きなんですよ。出てくるのも早いし、食べ応えもあるので。
リュウ ロメスパは太いパスタをあらかじめゆでておいて焼いて出すというオペレーションですね。
ひろ ロメスパがアルデンテじゃなくても気にならないですからね。
リュウ あれは「日本式の焼きパスタ」なので、僕の中では和食というジャンルになっています。
ひろ 商売的にいうと、ロメスパは儲かる仕組みなんですか。
リュウ あらかじめゆでているので提供スピードが速いですし、お客さんも立ち食いそばみたいにサッと食べて帰る。ラーメン店みたいにスープに原価がかかっていないので、まぜそばのように商売としてもおいしいと思いますよ。
ひろ なるほど。結局、粉ものみたいに原価が安くて回転率のいい店が生き残るのか。
リュウ でも、皆さん、いろいろ工夫していますよね。ロメスパやまぜそば、油そばなどは新しい形の料理ですから。
ひろ しかも、安くておいしいですもんね。
リュウ なので、飲食店を取り巻く環境はなかなか厳しいですけど、アイデア次第で儲かる店にすることはできると思いますよ。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■リュウジ(RYUJI)
1986年生まれ、千葉県出身。料理研究家。近著に『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)など。公式X【@ore825】、公式Instagram【@ryuji_foodlabo】、公式YouTubeチャンネル『料理研究家リュウジのバズレシピ』
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リュウジりゅうじ
1986年生まれ、千葉県出身。料理研究家。近著に『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)など。公式X【@ore825】、公式Instagram【@ryuji_foodlabo】、公式YouTubeチャンネル『料理研究家リュウジのバズレシピ』