「ひと狩りいこうぜ!」のキャッチフレーズでおなじみ! 全世界累計販売本数9700万本を超えるカプコンの人気アクションゲーム『モンスターハンター』シリーズが、3月11日に発売20周年を迎えた。
今回はそれを記念して、初代から現在まで開発に携わる辻本良三プロデューサーに本シリーズのあれやこれやを聞きまくった! 裏話もあるぞ!
■「クセはあるけどユニークなものができた」
――初代『モンスターハンター』(2004年、プレイステーション2。以下、MH)が生まれた経緯を教えてください。
辻本良三(以下、辻本) 00年初頭から社内で「家庭用ゲーム機でインターネットを使った作品にチャレンジしよう」との方針があり、そのコンセプトから生み出されたゲームのひとつがMHでした。
実は初代を手がけたのはそれまで家庭用ではなくアーケードゲームを作っていた部署で、私もそこに所属していました。モンスターとの駆け引きを楽しんでもらえるよう、行動の成功と失敗がわかりやすいように気を使って開発したのを覚えています。
――不特定多数のプレイヤーがオンラインで協力しながら攻略を進めるゲームは、今でこそ普通になりましたが、当時は珍しかったですよね。MHシリーズは初代から一部を除いて最大4人でのマルチプレイが定番になっています。
辻本 4人という人数は当時の通信環境の限界による面もありましたが、ちょうどパーティを組みやすい人数だったんですよね。今ならもっと大人数にすることも可能ですが、そうなると1戦あたりの駆け引きも大味になりますし、今も基本は4人というルールで続いています。
――初代MHのリリースのとき、ヒットの手応えはありましたか?
辻本 当時は100万本売れたらビッグヒットの時代で、カプコンでは、すべてのタイトルでそこを目指していました。初代MHも「クセはあるけどユニークなものができた」という手応えはありましたね。
そして、MHの携帯機版『モンスターハンターポータブル』が国内100万本を超える売り上げを記録しました。ポジティブに受け入れてもらえてよかったです。
――狩猟ゲームになじみがなかったこともあり、初代MHをプレイしたときは少し過激で驚きました。モンスターを攻撃すると、けっこう派手に出血するんですよね......。
辻本 (笑)。シリーズ全体でいえば"グロさ"のバランスには相当気を使っているんです。例えば「部位破壊」(*)をした際、モンスターの腕や脚がボトッとちぎれたりはせず、角や尻尾など「壊れても嫌じゃない」印象になる箇所を選んでいます。
(*)モンスターの特定の部位にダメージを与えて破壊もしくは分離すること。モンスターを弱体化させるだけでなく、その部位から特別なアイテムが手に入ることからプレイヤーは積極的に狙いにいく
■特に開発が大変だったタイトルは?
――シリーズが20年続く作品になった理由はどこにあると考えていますか。
辻本 コンスタントに作品を出せたことは要因のひとつだと思います。僕たちも「忘れられたくない」と、できるだけ早く、なおかつ進化したものを届けられるよう意識していました。開発チームが2作品同時に走っていたこともありましたね。
あとは協力プレイなので、「人が人を誘う」流れが生まれてくれました。機器や通信の進化でオンラインプレイのハードルが下がったのも大きかったです。
――僕も学生時代はMHがコミュニケーションツールのひとつでした。授業時間とクエストの制限時間がどちらも50分なので、授業中にこっそり友達と協力プレイをしたものです。
辻本 それはいい思い出ですね(笑)。
――その楽しさが海外にも広がった、という意味で『モンスターハンター:ワールド』(18年。以下、MHW)は、記念碑的作品ですね。全世界販売本数2500万本という世界的な大ヒットを記録しました。
辻本 実は、海外でもMH初期から小さなコミュニティは存在していたのですが、ユーザー数が一気に伸びたのは18年発売のMHWです。同作は開発段階からグローバルを意識して発信し、対応言語も従来の倍近くとなる14へと増やしました。開発の大変さはありましたが、大きな広がりにつながりましたね。
――ほかにも開発が大変だったタイトルはありますか?
辻本 大変だったのは......全部ですね。ゲーム開発で順調なことはほぼありません。むしろ順調だと新しい要素を足そうとして結局、大変になってしまうんです(笑)。
中でも印象に残っているのは『モンスターハンターポータブル 2nd G』(08年)で、開発期間が実質、数ヵ月しかありませんでした。いろんな検証をする時間もなく、いいなと思ったアイデアをとにかく放り込んで作りました。
――常に新しい要素の追加を期待される難しさもありますよね。
辻本 もちろん難しいですが、作品ごとに「どういう遊び方を提供したいか」のコンセプトを考えて作るのは、シリーズを通して大切にしていることです。
例えば『モンスターハンター3(トライ)』(09年)では"水中での狩り"を新たに追加しましたが、単に「水中アクションをやりたい」からだけではなく、3D空間を自由に動く立体的なアクションをMHに取り入れるための試験的な要素でもあったんです。
実際、次の作品からは陸地でも段差をつけてみて、その次は環境を利用したアクションを追加して、という流れがありますね。
■辻本Pが考える「モンハンらしさ」の根幹
――ちなみに辻本プロデューサーが好きなモンスターは?
辻本 そうですね......ひとつ選ぶとしたら「ラオシャンロン」ですかね。単純にデカくてインパクトがありますし、特殊なクエストで登場するので印象に残っていますね。
――迎撃兵器を活用する特別なクエストは「ボスだ!」と感じさせてくれますよね。
辻本 普段のクエストよりさらにマルチプレイらしい遊び方になります。MHはソロで遊んでいる方も多いので、ひとりでもマルチの感覚や遊びやすさを味わってもらうために必要な要素も常に考えています。
あと、好きなモンスターといえば、プロデューサー目線ではありますが20年間ずっと頑張ってくれている「アイルー」ですかね。実は開発初期ではゴブリンみたいな、ちょっとイカツイ見た目だったのですが、当時のデザイナーが描いたアイルーの絵を見て「こっちのほうがいい」との声があって、今の姿になりました。
――その変更は、本当に大きかったと思います(笑)。
辻本 プレイヤーをサポートする「オトモ」としてだけでなく、ゲーム全体にカジュアルな印象を生み出してくれていました。MHは女性ユーザーも多く、カップルや夫婦でも遊んでほしいと意識して作っていますので、アイルーはその入り口にもなってくれているのかなと。
――さて、来年には、最新作の『モンスターハンターワイルズ』の発売が予定されています。今後、MHシリーズはどういった進化をするのでしょうか。例えばMHWでは精密で多様な自然描写であったり、モンスターごとに違う生態系を観察できたりと、リアルな表現が印象的でしたが、やはり今度もそういった方向性ですか?
辻本 『モンスターハンターワイルズ』に関しては、夏頃に次の情報を出す予定なので詳しいことは言えませんが、シリーズとしては毎回プレイ環境も含めて「どう遊んでもらうのか」「モンハンとしてどう進化していければよいのか」を考えて作っていければと思っています。
――では、変わらない「モンハンらしさ」の根幹はどこにあると考えていますか。
辻本 僕は「ワクワク感」だと思っています。アーケードゲームを作っていた頃から「見て楽しい、遊んで楽しい」作品づくりを心がけているので、今後もそうなるよう作っていきたいです。
思えば、アッという間の20年でしたが、これからもMHシリーズは続いていきます。ゲーム以外でもMHを広めるため、いろんなチャレンジをやっていきますし、いろんな形で触れてもらえるようにがんばりたいですね。
●辻本良三(つじもと・りょうぞう)
1973年生まれ、大阪府出身。1996年、カプコン入社。アーケードゲーム開発に携わり、後にコンシューマーゲームの開発を担当する。2004年、『モンスターハンター』1作目ではネットワークのプランニングや運営などを担当し、2007年の『モンスターハンターボータブル2nd』以降は一貫して同シリーズのプロデューサーを務める