『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス31巻を熱く語る 『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス31巻を熱く語る

とうとう始まるフェニックス・チームとの最終決戦に向けてのプレリュード。キン肉マン最大最後の必殺技修得を目指した猛特訓中に潜む、意外なミステリー要素にも注目です!

●『キン肉マン』31巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

特訓描写に見える先生の技への情熱!

この巻ではアタルの想いを受けたキン肉マン・チームの面々が決勝に向けて様々な特訓を見せていく、というのが前半の主な流れとなります。

意外だったのは各超人が実際の対戦相手をしっかり想定しながらそれぞれ対策を練っていた、というところですね。なかでもまず驚いたのは、ラーメンマンがミートとふたりで対プリズマン戦を想定しての特訓に挑む場面。作中ではそれほど接点のないこのふたりがチームを組み、しかもミートがラーメンマンに遠慮の一切ない叱咤激励を飛ばすというやりとりは、別作品になりますが『闘将!!拉麵男』のシューマイとのやりとりを彷彿させるものもあり、僕の目には非常に新鮮に映りました。

そして同じ頃、キン肉マンはテリーマン&ロビンマスクという豪華メンバーを相手に対サタンクロス戦を想定した特訓を進めていきます。驚愕したのはキン肉マンがそのサタンクロスに見立てたテリーマンに、初めてマッスル・スパークを決めようとした場面。なんとテリーマンはこれをいともたやすく破って技の欠点を指摘するんですが、この技の破り方が......あまりにも見事すぎる!

最終決戦で繰り出されてもまったく文句ない美しいフォームで、「こんなすごいアイデア、練習で使っちゃうの?」と読みながら僕は思わず奮えました。そこで出し惜しみをしないのがゆでたまご先生の特徴なのはここまでのレビューでも散々触れてきたことですが、改めてそこを確認できる、隠れた重要シーンだと思います。

そうしてマッスル・スパーク会得の特訓は大詰め、ふたつの像がひとつに重なるという奈良の一面鏡池を使って真の像をあぶり出す段階へと移行していくのですが、ヒントにヒントを重ねてついにこの手段までたどり着いたというのがそれだけでミステリーの手順を踏んでいてとても面白いんですよね。

同時に強く感じたのは、大事な必殺技を完成に導くには、ここまで丁寧な作り方をしていくんだという点。これもまた『キン肉マン』という作品の重要な特徴のひとつだと僕は思うのです。

例えば他のバトル作品だと、主人公が追い詰められて切羽詰まった瞬間に覚醒して完成形が爆誕する、みたいなパターンがかなり多い。でも『キン肉マン』ではなるべくそうはせず、それが完成に至るまでの過程や理屈を見せることに入念にこだわり描写を費やしていくんです。

これは裏返せば、ゆでたまご先生がこの作品において技という要素をいかに大切に考えていらっしゃるかということの証でもあると思うんです。端折(はしょ)るところは驚くほど端折るけど、譲れないところはしっかりと描く。まさにここは、そんなゆでたまご先生の信念さえも感じられる一幕です。

そしてもうひとつ、忘れがたいのがウォーズマンの竹藪特訓風景。四方八方から無数に飛んでくる竹の矢をマンモスマンのノーズ・フェンシングに見立てて全回避を目指す。しかしなかなか課題をクリアできず苦しむ彼に、最後はまさかのネプチューンマンまで駆けつけ、陰からのその助け舟でウォーズマンも仮想マンモスマンを完全攻略!「ここまで対策万全ならもう勝てるじゃないか」「なんならネプチューンマンまで控えてそうだし!」と読者の期待を最大値まで上げたところで、しかしゆでたまご先生はやってくれます。マンモスマンによるウォーズマンの闇討ちです。

最初に読んだ当時、ウォーズマンの活躍を期待していた僕もさすがにこれはないぞと。「せめて試合で散ってくれ!」と涙したものですが、のちのインタビューなどでゆでたまご先生は「これは盤石になりすぎたキン肉マン・チームに危機感をまとわせるための措置だった」と種明かしをされていまして、それを思うとそこで退場したウォーズマンの代わりが、誰もが来ると確信してた超強いネプチューンマンではなく、勝てるか微妙なジェロニモだったというのもまた絶妙なチョイスでした。

ジェロニモには申し訳ないですけど、これはある意味、逆サプライズですよ。いつかはネプチューンマンが来てくれることは、この時点でも読者はまだ信じて待ってるはずなんです。でもその期待を残したままで、あえてジェロニモを持ってくる。どうなるんだ?......と思わずには居られない。その状態でいよいよフェニックス・チームとの最後の決戦になだれ込んでいくわけです。

魔方陣デスマッチよ、願わくばもう一度!?

始まった運命の初戦、いきなりキン肉マンが出るというのも大きなサプライズでしたが、それ以上に僕が衝撃を受けたのが"魔方陣デスマッチ"というあまりに時代を先取りしすぎた対戦方法でした。試合中に条件をクリアすることで様々な強化アイテムを得ていくという、過去から現在まで含めても最もトリッキーにして情報量の多い一戦だったのではないでしょうか。

おそらく当時、流行だったファミコンの要素を取り入れられたことは想像に難くなく、だんだんわかってきたのはこの闘い、決してこれまでの相手が用意してきた変則デスマッチのように、一方的に向こうに有利なものでもないぞと。使い方次第ではキン肉マン側が有利になる公平さも残されていて、おそらくゆでたまご先生の狙いとしては、従来の肉体バトルと新要素の知性バトルを同時にやろうということだったと思うんですよね。

それがわかるとこの闘い、俄然興味が深まってくるんですが、読者にしたら初見の際はこれまでと勝手が違いすぎて、ルールをちゃんと理解するまでにかなり時間を要したと思うんですよね。それを思うと、この試合形式がこの一戦のためだけに作られたというのが残念でならない。願わくばよく理解した前提でこの試合形式をもう一戦、どこかで見てみたいというのが今の僕の密かなる思いです。

加えて、キン肉マンとの実力勝負にこだわりたいサムソンと、フェニックスへの忠義を優先したい、寄生虫超人が同じ肉体に同居するサタンクロスという超人の複雑怪奇さ。そこへ現れる元愛弟子のアシュラマン。様々な要素が複雑に絡み合いつつ最終的にこの巻の中では決着まで行かず、次巻にてサタンクロスはキン肉マンのマッスル・スパークで破れるも、その決着は存外にとても爽やかなものでした。

これまで無敗を誇ったフェニックス・チームに初めて土がつく、という点でも非常に大きな意義のある、最終決戦の初戦に相応しい好試合だったと思います。

キン肉マン4コマ

●こんな見どころにも注目!

超人血盟軍の一員としてサタンクロスと激闘の末、引き分けたものの大きな負傷を負ったアシュラマンがまさかの再登場! とても感動的な超サプライズシーンなのですが、同時につい気になってしまったのが彼のついている一本の松葉杖......。腕が特殊なだけに果たしてこのつき方であっているのか、そもそも杖は一本だけで本当に大丈夫なのか、それに腕を何本も大ケガすると他の超人よりも治療費がかさみそうだな、などなどこの1コマの姿だけで次々と妄想が湧いてきて止まりません。レスラーパンツ一丁なのも激レア!