「料理に慣れてくると、味の素の味わいとか有用性がわかってくると思うんです」と語るリュウジ 「料理に慣れてくると、味の素の味わいとか有用性がわかってくると思うんです」と語るリュウジ

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回は料理研究家のリュウジさんを迎えての10回目です。料理に「味の素」をよく使うというリュウジさんですが、味の素を使うとなぜかネットで炎上するという。有名店や多くの料理人も味の素を使っているのに、なぜ叩かれるのか。その理由を聞いた。

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ひろゆき(以下、ひろ リュウジさんの〝実家の味〟って、なんですか?

リュウジ(以下、リュウ もつ煮ですね。お酒が大好きな家なので、食卓にも酒のつまみがよく出たんですよ。

ひろ 子供たちは酒のつまみで白飯を食うみたいな(笑)。

リュウ そうです。僕のレシピは〝うまみ〟を大事にしているんですが、それって実家でめちゃめちゃ「味の素」を使っていたことが影響しているんですよ。とにかくなんにでも入れてましたから。

ひろ 「これはなしでしょ」みたいなものはありました?

リュウ そうですねえ。お刺し身用の醤油にも味の素を入れていたのはさすがに引きました。せっかくの魚のおいしさが、均一化されちゃうじゃないですか。

ひろ リュウジさんといえば、味の素で炎上してますよね(笑)。

リュウ そうなんですよ。めっちゃ炎上するんです(笑)。

ひろ 味の素って、いまだに賛否両論ありますよね。でも、塩や醤油は同じ調味料なのになぜか叩かれない。

リュウ それが不思議なんですよ。僕は塩や醤油と同じように味の素を見ているんですけど。

ひろ 例えば「塩だけで素材本来の味を楽しむ」という人はいても、「味の素だけで素材本来の味を楽しむ」という人は聞いたことがないですよね。

リュウ それを言うなら「そのまま食べるからこそ、素材の良さがわかる」はずなんです。まあ、百歩譲って、塩だけならまだ素材の味感はありますけど、醤油を使うと、それはもう醤油味になってしまいます。

ひろ 多くの人が淡泊な白身魚の刺し身にもガンガン醤油をつけますよね。

リュウ そして、おすしの場合は、シャリに酢も使われている。「それを〝素材の味〟というのか?」という思いもあるんです。だから、塩や醤油などの調味料を使うのならば、調味料としての味の素も肯定されるべきだと思います。

ひろ 逆に、味の素だけを異常に毛嫌いする人の根拠ってなんですかね?

リュウ 「化学調味料であること」や「精製されていること」で体に悪いと考える人がいます。こっちのテーマについては長くなるので次回に持ち越していいですか?

ひろ はいはい(笑)。

リュウ で、調味料としての味の素が否定される理由のもうひとつは、過大評価されているからだと思うんです。

ひろ というのは?

リュウ そもそも味の素ってそんなに万能じゃないんですよ。例えば、白飯に味の素だけかけてもおいしくはなりません。でも、「味の素を入れたらなんでも味の素の味になる」という感じで過大評価されているんです。

ひろ 味の素を使うお店って叩かれがちじゃないですか。それって「味の素=手抜き」というイメージが影響しているからですか?

リュウ それも的外れな意見なんですよ。味の素の『業務用商品サイト』には繁盛店のレポートが載っているんです。で、名古屋で有名なラーメン店は「味の素を使っている」と公表しています。でも、スープを毎日手作りしているんだし、別に手抜きじゃないですよね。味の素を入れるのは、塩で味を調えるのと同じような工程です。ほかにも「味の素がないとうちの味は成り立たない」と言っている料理人は多いんですよ。

ひろ へえー、でもなんでそんなインタビューに答えるんですか? 世の中には味の素に過敏に反応する人もいるじゃないですか。

リュウ 飲食店業界の人たちは「味の素=有用なもの」だとわかっているからでしょうね。僕はよく、そばつゆを手作りするんですよ。昆布からだしを取るときもあれば、味の素で代用するときもある。でも、丁寧に取っただしも味の素で代用しただしもほぼ変わらないんですよ。だから、もう味の素でいいじゃんってなります。

ひろ 時間をかけても、味は変わらないみたいな。

リュウ もちろん、昆布の香りが入っていたほうが、そばつゆっぽくなるんですけど、生活の料理としては味の素で十分だと思います。だから、料理に慣れてくると味の素の味わいとか有用性がわかってくると思うんですよ。

ひろ そこまでわかる前に味の素否定派に傾いちゃうんですかね。

リュウ 美食家として有名な芸術家の北大路魯山人っているじゃないですか。魯山人は「味の素をなるべく使用するな、料理が台なしになる。自然の持ち味を生かすべき」と言ったんですよ。

ひろ お、味の素否定派ですか?

リュウ そうじゃないんです。「味の素も使い方でお惣菜的料理に適する場合もある」とも言っているんです。要は「味の素を使うとうまみが均一になるから面白みがないけど、味を均一化するにはこんなに便利なものはない」ということなんですよね。

ひろ ケース・バイ・ケースだと。

リュウ 高級料亭とかでは使わないほうがいいでしょうけど、チェーン店や手頃な価格帯のお店は使っても問題ない。しかも、僕は家庭料理のレシピを研究しているわけで、むしろ味の素はガンガン使うべき立場なんです。

ひろ じゃあ魯山人さんはバズレシピ派だ(笑)。でも、リュウジさんのレシピには味の素を使わないのもある。何がなんでも味の素肯定派ってわけじゃないですよね。

リュウ そうなんですよ。「味の素を使うと料理のおいしさの最短距離を行くことができるから便利だよ」という立場です。昔は洗濯板で洗濯していましたけど、今は洗濯機を使っていますよね。でも、「機械だと愛情がこもってない」と否定する人なんてもういない。これが食事になると、急に「手間こそ愛情だ」「味の素は手抜きでけしからん」となってしまう。

ひろ 面倒くさすぎて、いまさら洗濯板は使えないじゃないですか。でも、昆布でだしを取るとかだったらある程度の手間をかければできる。その手間が手の届く範囲だからこそ、味の素を認めない人が多いのかもしれないですね。で、忙しい人や飲食店の人たちは「とてもじゃないけどだしなんて取っていられない」となるから味の素も調味料として認めていると。

リュウ 手間暇をかけたい人がいてもいいんです。ただ、世の中には最短距離で行きたい人もいる。すみ分けていけばいいと思うんですけど......。

ひろ 味の素否定派には「舌がバカになる」という意見もあるじゃないですか。

リュウ それもおかしな話なんですよ。確かに味の素を使いすぎると濃い味に慣れてくるので、濃い味を求めるようになることもある。でも、醤油やソースだって同じじゃないですか。食べる前から料理に醤油やソースをドバドバかける人っていますよね。つまり、ここでも否定派の人は味の素を過大評価しているんです。

ひろ ということで、今回は炎上しそうな内容ですが、これで終わりじゃないですよね。

リュウ そうですね(笑)。

ひろ 味の素の話題はまだまだ続きます(笑)。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■リュウジ(RYUJI) 
1986年生まれ、千葉県出身。料理研究家。近著に『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)など。公式X【@ore825】、公式Instagram【@ryuji_foodlabo】、公式YouTubeチャンネル『料理研究家リュウジのバズレシピ』

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