酒井優考さかい・まさたか
週刊少年ジャンプのライター、音楽ナタリーの記者、タワーレコード「bounce」「TOWER PLUS」「Mikiki」の編集者などを経て、現在はフリーのライター・編集者。
ショッピングモールや駅、お店の空きスペースなど、今やいたるところで見かけるカプセルトイ筐体。それもそのはず、現在カプセルトイは「第4次ブーム」(※)の真っ只中と言われており、2022年の市場は610億円規模、2023年はこれを上回ると予想されている。
そんな中、最近は店中カプセルトイだらけの「カプセルトイ専門店」が街中に急増中。なぜそれほどまでにカプセルトイの勢いがすごいのか? その理由を探るため、「日本ガチャガチャ協会」代表で、『ガチャガチャの経済学』の著書でもある小野尾勝彦さんを直撃した。
(※ブームの数え方には諸説あるが、ここでは「キンケシ」が大ヒットした1983年ごろを第1次、「HGシリーズウルトラマン」がブームを引き起こした1994年ごろを第2次、「コップのフチ子」が流行した2012年ごろを第3次とする日本ガチャガチャ協会の説に則る)
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――最近、街中でカプセルトイ専門店をよく見かけるんですが、これはなぜですか?
小野尾 そうなんです。まず、これまでは割とマニア向けの商品が多かったカプセルトイに、ここ数年で大人の女性向けやファミリー層向けの商品が非常に増えたことがひとつの要因です。精密なフィギュアとかコレクター心をくすぐるマニア向けアイテムが中心だったのが、女性向けキャラクターものや企業とコラボした雑貨が増えてきました。
それで、これまでは専門店を出店してもあまり集客が見込めなかったのが、「カプセルトイが好き」という一般の方が増えたことで専門店が成り立つようになったんですね。店頭にマニアが集まっていると女性客は奥に入りづらいですが、店頭に女性やファミリー向けの商品があってもマニアは奥に入って行けますからね。
最近の消費は、よく「モノ消費」から「コト消費」へ、なんて言われますけど、カプセルトイを買うのはまさにお祭り感覚のコト消費。カプセルトイを回すのが楽しい出来事だって認識されるようになってきたんです。
――カプセルトイ業界の売上は右肩上がりだそうですけど、女性層、ファミリー層が増えただけでこれだけ上がるものなんですか?
小野尾 それはやっぱり、設置店が増えてるのが大きいです。一昨年5万店舗だったのが去年7万店舗に増えたと言われています。筐体の台数にすると70万台以上です。カプセルトイ専門店はこれまで関東に多かったのがどんどん地方にも広がっていますし、原宿の竹下通りや渋谷のセンター街にも専門店がドンと出来たりしています。昔はそこまでではなかったですよね。
あと増えているのが駅の構内。昔あったジューススタンドなんてもうほとんど壊滅状態ですけど、代わりにカプセルトイのコーナーが増えている。やっぱり駅というのは待つ時間があるので、ちょうどいい暇つぶしになるんですよね。電気代も人件費もかからないですし。女性や家族層はもちろん、例えば新橋駅などにあるケンエレスタンド(カプセルトイメーカー、ケンエレファントの専門店)を見ていると、会社員の男性がカプセルトイを買ってスーツのポケットにしまうなんて光景もよく起こっています。
逆に女の子が目当ての商品が出なくて、交換するために声をかけるような、ナンパスポットにもなってるところもあるみたいですけどね(笑)。
――ナンパスポット!?
小野尾 でも、そういった女性のほうがコミュニケーション力が高くて、コミュニティがどんどんできやすいっていうこともあるんです。SNSに写真を上げるのも女性が多くて、「いいね」したり拡散したり、そこからどんどんコミュニティができる。それも売上増の一因になっていると思います。
――「コップのフチ子」以来でしょうか。たしかにSNS映えを意識しているような商品が増えている気がします。
小野尾 今は月に400アイテム以上の新商品が発売されていて、半分以上がノンキャラクターもの。ねぎを入れる「ねぎ袋」(ターリン・インターナショナル)とか、バスの降車ボタン(トイズキャビン)とか、一見「これ何に使うんだろう?」って思いますけど(笑)、キャラクターものは飽きられやすいのに対してノンキャラものは飽きられにくい。SNSでも目を引きますよね。
しかも毎月毎月400以上もの商品が入れ変わっていくので、お客さんは何度来ても飽きないんです。それに、そういう「ここでコレ見付けた!」みたいな情報もSNSで広がっていく。10年前だと考えられなかった現象ですね。
――ちなみにカプセルトイ専門店が増えたのは、コロナ禍とは関係あるんですか?
小野尾 コロナ禍当初は、筐体に手が触れるというので、むしろ撤去させられたり、使えなくさせられたりするところも多かったんです。だから売上の推移を見ていると、2020年の7月くらいに一度へこんでいる。カプセルトイは3か月前に受注を取って、その数だけ生産する受注生産なので、コロナ禍の開始から少し遅れて売り上げが落ちました。
ただその後すぐに『鬼滅の刃』の映画(『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』、2020年10月公開)が公開されて、その頃から少しずつ筐体の使用も解禁されて、『鬼滅』関連商品は爆発的に売れました。
ちょうどその前後から、専門店も増えてきたんです。それ以前もあったんですが、例えば2017年に1号店をオープンさせた「ガチャガチャの森」はキレイで明るい店づくりで、2018年以降に一気に店舗数を増やしました。
――やはり人件費や電気代がかからないのが大きい?
小野尾 そこは非常に大きいですね。それに毎月400以上の新商品が出るから、商品ラインナップもすぐに充実しますし、メーカーと販売店の間に代理店が入って、商品の補充や入れ替えをやってくれるので、いろんな意味で効率がいいんだと思います。
実はカプセルトイ専門店が増えてきたもうひとつの理由に、その代理店が専門店をやってるケースが増えてきてる、というのがあります。渋谷のセンター街にもお店がある「#C-pla(シープラ)」は、トーシンという北海道の代理店が運営しているんですけど、代理店業からだんだん店舗の運営にも比重を置いていった。代理店は自分たちでどういう商品がどれくらい売れるか把握してるので、利益を出しやすいんです。
――なるほど。メーカーはどういう方針なんでしょう?
小野尾 例えば「ウルトラニュープランニング」(女性向けアイテムが多い)というメーカーのように、プライズ景品景品を扱っていたところがカプセルトイも扱うようになったケースは多いですね。扱う商品やお店が似ているので参入しやすいし、カプセルトイとプライズを両立することで売り上げのバランスも取りやすいと思います。
その一方で、「奇譚クラブ」(コップのフチ子シリーズなど)とか「スタンド・ストーンズ」(キャラものやクルマなど)、「アイピーフォー」(女性向けグッズ中心)など、カプセルトイだけにこだわって作っているところもありますね。
今のメーカーは何を考えてるかっていうと、カプセルトイのシリーズをひとつのブランディングだと思っていて、そのブランドをSNSで拡散してもらったり、メディアに取り上げてくれてもらったり、そういうことに期待しているメーカーが多いと思います。
――ちなみに、カプセルトイの利益率というとどれくらいなんですか?
小野尾 300円の商品だとすると、メーカーから代理店が約50%で買って、設置店に約15%の設置料を支払います。そうすると、代理店は105円くらいの儲けということになりますかね。
ただ、代理店のオペレーターは1人で80件くらい持っていて、クルマであちこち回って、ガソリン代や駐車代もかかります。だから意外と効率が良くない。そこで、どの代理店もカプセルトイの専門店を作り始めたということなんです。
これまでのカプセルトイって、スーパーのエスカレーターの横とかにあってが、どこにどの商品が置いてあるか分からなかったですよね。でも、今は「あそこのイオンに『ガチャガチャの森』があるから、今度アレを回しに行こう」「センター街の『#C-pla』に行ったら、また何か面白いものがあるんじゃないか」ってなる。そっちのほうが、お客さんも代理店も効率が良いので、今そういった専門店が500店舗以上あって、どんどん増えていってるんです。
専門店のいいところのひとつが、両替機があるところ。普通の空きスペースだと両替機がないから、百円玉が足りないと「じゃあやらなくていっか」ってなりますよね。専門店だと1万円札しかなくてもお金を崩せるのは大きいです。
――代理店がカプセルトイ専門店を作るようになったのは、例えば「出版取次が本屋を始める」みたいなことですか?
小野尾 似てるんですけどひとつ違うのは、受注生産だからメーカーが作ったものを代理店が全部買い取ってくれる。だから返品がないんですよね。これがメーカーにとってカプセルトイの一番おいしいところです。そして代理店も経験値があるから、予測が大きく外れることがあまりない。再版も基本的にはありませんから、実はすごくいいビジネスなんです。
お客さんも、再販売がないことを知ってるから「見付けたら買わなきゃ」ってなる。で、目当ての商品が出るまで何度も回しちゃうんですよね。
――自分が子供の頃は、カプセルトイと言えば100円でした。今の価格帯はどうなっているんですか?
小野尾 1990年以降100円から200円が主流になり、近年、女性向けの商品が増えてきたタイミングで300円が主流になってきましたね。2023年は前年より300円商品が少し減って、代わりに400円、500円の商品が増えました。
カプセルトイは値上げが100円単位でしかできないので、200円から300円に値上げする時はメーカーもすごく怖かったって話を聞きますし、数年前は200円だったものが、はたして300円、400円になっても買ってくれるのか?というのは、すごく悩んでいる部分だと思います。特にロングセラーのシリーズなどは大変だと思いますね。
一方で、最近カプセルトイをやるようになった人は最初から300円でも抵抗がなかったりもして、当たり前のように300円で回しますよね。各メーカーも、ターゲットを大人の女性に絞ったり、企業コラボを増やしたり、狙いどころを定めるケースが増えています。
――ちなみに、カプセルトイの筐体って何円まで入るようにできてるんですか?
小野尾 今主流の「ガチャ2イージー」(タカラトミーアーツ)や「ガシャポンステーション」(バンダイ)は500円までですが、実は2500円まで入る筐体も出てきています。そういう筐体が主流になってくると、また違った面白いアイテムを入れるメーカーも出てくるだろうし、市場全体がもっと活性化すると思うんですけど、現状は500円までのマシーンまでが主流ですね。
――電子マネーが使える筐体もありますよね。
小野尾 そうなんです。バンダイの「スマートガシャポン」ですね。JRの駅構内や空港にあって、ICカードかQRコードで支払いが選べるものです。ただ、現状はバンダイの商品しか入っていないです。
あとは「ピピットガチャ」という、コインを使わずにPayPayや楽天ペイなどで支払える筐体もありますが、これは一般流通していなくて、キャンペーンなどでの使用が主です。
――カプセル自体に変化はあるんですか?
小野尾 実はカプセル自体にも意外とお金がかかっていて、1つ10円以上はコストがかかっていると言われています。200円や300円のうち10円っていうと結構大きいですよね。
みなさん昔ながらのカプセルトイというと上下にパカッと分かれるものをイメージする方が多いと思いますけど、実はあのタイプは金型が2つ必要でコストもかかる。なので今は指輪ケースのようにパカッと開く1つのパーツでできているものが多いんです。
他にも「だんごむし」や「ザクヘッド」(どちらもバンダイ)のようにカプセルを使わず、商品そのものが出てくるアイテムも増えました。
あとはプラスチックを使わない紙カプセル(エコポン)も出てきました。「くら寿司」の「ビッくらポン!」でも使われています。ケーツーステーションは、カプセルトイ商品に紙カプセル(エコポン)を使用して展開しています。
今年行われるパリオリンピックでは、使い捨てプラスチックの使用が禁止されていますし、カプセルトイが世界にも普及するようになって、毎年約3億個が生産されています。なので、もちろんカプセルトイ業界でも地球環境問題の課題に取り組んでいます。それが先ほどお話したカプセルレス商品や紙カプセルの商品です。
お店で回収したカプセルはリサイクルされているものもありますが、それも結局コストがかかること。ここ1年くらいで、カプセルについての考え方も変わっていくんじゃないかなと思いますね。
――カプセルトイをきっかけに未来や環境問題にも目を向けなければ、と。
小野尾 はい。これからキャッシュレスマシンが拡大することで、高額商品の多様なカプセルトイ商品が販売できる可能性が出てきました。500円までが主流のカプセルトイが変わって、もっと業界が活性化するかもしれない。
――700円とか1000円が当たり前になるかもしれない?
小野尾 どうなんでしょう。今も「このクオリティで500円!?」みたいな精巧なフィギュアやグッズがたくさんあって、例えばトイズスピリッツさんは、本当のかき氷が作れるかき氷マシーンのカプセルトイを出しました。ああいうクオリティのものを300円とか500円で出せるのはカプセルトイメーカーだけです。だからその幅が広がるのはいいことだと思いますね。
小野尾 その一方で、「赤の他人の証明写真」(作家・映画監督の寺井広樹氏が考案)とか、「ギャルが折った折り鶴」(ガチャっと!/ブライトリンク)、「お母さんの秘伝カレーレシピ」(ウルトラニュープランニング)など、原価はそんなにかからないだろうけど強烈なインパクトを残す商品がたびたび出てきて話題になってもいます。
小野尾 カプセルトイが面白いのは、例えばコンビニのレジ横に置いてあっても誰も買わないような商品が売れるっていうことですね。ネタ的なものでもみんな許容してくれるし、おみくじ的な楽しみもあって、そこはカプセルトイの最大の魔力だと思いますね。コンプライアンス、安全性を守ればカプセルに入れることで商品として売ることができます。ワクワクが止まらないエンターテインメントマシンですね。
カプセルトイの誕生は1965年と言われていて、来年で誕生から60年になります。まだまだ進化や変化がありそうで楽しみですね。
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●小野尾勝彦(KATSUHIKO ONOO)
一般社団法人 日本ガチャガチャ協会 代表理事。大手玩具メーカーでカプセルトイを担当後、カプセルトイ業界を盛り上げるために独立。「マツコの知らない世界」や「ZIP!」などメディア出演も積極的に行い、昨年は初の著書『ガチャガチャの経済学』を刊行。
週刊少年ジャンプのライター、音楽ナタリーの記者、タワーレコード「bounce」「TOWER PLUS」「Mikiki」の編集者などを経て、現在はフリーのライター・編集者。