高橋ヨシキたかはし・よしき
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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最低限必要なことをぶっきらぼうに口にするだけで、何を考えているのかよくわからない不気味な男が主人公の映画である(そういう人間になった経緯は比較的わかりやすく提示されている)。
その他の登場人物の言動は比較的「わかりやすい」ため、主人公の不気味さはより強調される。
山間の集落で暮らす彼は、その土地の環境に詳しく、薪を割り、湧き水を汲み、鹿の通り道を知るなど自然との繋がりを多く持っている。その自然もまた、本作においては不気味なものとして立ち現れてくる。
主人公と対比されるのは、自分のあり方や仕事に疑問を抱き、それを「不気味なもの」と理解せずに自然の中での暮らしもいいかもしれない、と思ってしまう会社員だ。この男の「わかりやすさ」は、彼が世界をそれなりに「わかりやすい」ものと誤って認識していることと繋がっている。
本作は美しい自然をとらえた映像をどこまでも不気味に見せることで、これまでも常にそうだったように、世界も他者も本来不気味なものだという事実を突きつける。そしてもちろん、わかりにくく不気味であることも、わかりやすく浅はかであることも、そのことだけで「悪」とはみなせないのだ。
STORY:長野県水挽町は、自然豊かで東京からも近く移住者が増加傾向。だが、グランピング場の設営計画が持ち上がり、その運営者が町の水源に汚水を流そうとしていることから、静かな生活をしてきた住民たちの間に動揺が広がる。
監督・脚本:濱口竜介
出演:大美賀均、西川玲ほか
上映時間:106分
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国公開中
幼児のときに誰かに勝手に洗礼を施されたことが発覚したため、6歳のときにユダヤ人の一家から引き離され、カトリック教会でキリスト教徒として育てられることになった少年をめぐる実話の映画化である。
なぜそんな横暴が可能だったかというと、当時の教会法では「キリスト教徒でない者がキリスト教徒を育てる権限はない」と決められていたからだが、事件は国際的なスキャンダルとして報じられ、苛立ったバチカンは意固地になって少年を返還しないことにした。
カトリックの価値観と現実世界の整合性がいよいよ取れなくなっていた時期のことでもあり、教会の権威を死守する必要があると教皇ピウス9世が考えたからでもあった。
なので本作でもピウス9世が最大のヴィランとして登場するわけだが、彼が子供に接する態度からどうしても想起されるのはカトリック教会の性的虐待事件である。
ポスターの絵柄が教皇の膝に抱きかかえられた少年の姿、原題はシンプルに『誘拐』という点も、19世紀の実際の事件をモチーフにしつつ、現代の性的虐待事件を強く暗示する映画であることがわかる。
ピウス9世役をパオロ・ピエロボンが喜々として演じているのも見どころ。
STORY:19世紀、イタリアのユダヤ人街でモルターラ家の息子、7歳のエドガルドが兵士たちに連れ去られる。教会の法では洗礼を受けた子供をキリスト教徒ではない両親が育てることはできないからだ。両親は息子を取り戻そうと奮闘する。
監督:マルコ・ベロッキオ
出演:エネア・サラ、レオナルド・マルテーゼ、パオロ・ピエロボンほか
上映時間:134分
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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