難敵サタンクロスを退けたキン肉マン・チームを待ち受ける、フェニックスの卑劣なワナの数々に絶句!? そして旧シリーズにおけるラーメンマン最後の闘いにも大注目です!
●『キン肉マン』32巻
卑劣なワナに垣間見えるゆでたまご先生の想い
前巻のレビューでたっぷり語らせていただいたキン肉マンVSサタンクロスの魔方陣デスマッチ後半戦から始まるこの巻。キン肉マンがとうとうキン肉族三大奥義マッスル・スパークを完成させて敵の先鋒サタンクロスを撃破!
そんなキン肉マン・チーム優勢の勢いのまま次鋒戦へなだれ込んでいくかと思いきや、そうは問屋が卸しません。なぜなら本来の決戦の地は大阪城、しかし先鋒戦が開催されていたのはその隣の大阪城ホールだったのです。次の闘いを始めるためには、まずここから移動せねばなりませんが、まさかのそこに目をつけていたのがさすが策士フェニックス。なんと彼は、ここから先のキン肉マン・チームの移動そのものを阻止すべく、なりふり構わぬ妨害工作を彼らの途上に用意していたのです!
その第一の関門が、地下道の入口すぐから展開していた"飛車角の迷宮"と呼ばれる巨大迷路でした。邪悪神が結託して密かに築いたこの迷路、しかも入ってから15分以内に抜け出ないと大量の水が流入してきて全員おぼれ死ぬという最低の仕掛けつきです。
最初にここを読んだ僕は子供ながらに、なんてひどいことをするんだと憤りもしましたが、大人になった今にして思えば、これは『キン肉マン』という作品における最後のインターバルのつもりでゆでたまご先生が用意された"遊び"だったんじゃないでしょうか。
実際、これらのフェニックスのワナをすべて潜り抜けてキン肉マンたちが大阪城にたどり着いてからは、旧シリーズにおける最終話まで、敵味方含めてほぼノンストップの闘い一辺倒で物語は駆け抜けていくことになります。そんな中でのいわば箸休め的な要素として、闘い抜きにして迷路の謎をみんなで解いたり、その様子を当時子供たちの間で大流行していたファミコン風に提示してみたり、時にはキン肉マンがロビンマスクの背中の上でおしっこを漏らして怒られるようなギャグシーンまであったりと、最後の決戦に足を踏み入れてしまうともう二度とできないようなことを、ここで一気にやっている感も見受けられて......。
もしかしたら先生の立場にしてみると、その先のあまりにハードな展開を見据えられた上で読者のみんなに、ここでいったん一息ついてくれというメッセージもおありだったんじゃないでしょうか。それを思うとこのひどい妨害工作も、個人的にはなんだかとても愛おしいものとして見えるようになってきました。
さて、そうして飛車角の迷宮、さらにはそこに続く第二の難関"血縄縛りの門"をキン肉マンたちは知恵と友情を駆使して突破していくわけですが、ここで見逃せないのはサタンクロス戦の終盤から加勢してくれているアシュラマンがその突破メンバーに加わっているという点です。というのもこの直前、チームの正式メンバーだったはずのミートが闘わずしてチームから離脱しており、その補充メンバーが誰になるかというのはこの時点で、読者には最大の関心事のひとつだったからです。
そこは前々から再登場を匂わせているネプチューンマンがやはり来るのか、はたまた入院中のテリーマンが復帰するのか、いや、もしかしたらこの流れのままアシュラマンが新メンバーとして加わるんじゃないか!? この二大難関突破のくだりは、そんな想像を読者に膨らませてもらうための揺さぶりの意味合いもあったのではないかと僕は推測しています。
残念ながらアシュラマンはこの難関の最後の最後で、キン肉マンたちを救うための人身御供(ひとみごくう)となってそこから離脱していきます。しかしその最後のセリフ「超人界の将来のためにも犠牲は私ひとりでいい、お前たちが一丸となって大阪城リングで知性チームを撃破しろ」というエールのなんと神々しいことでしょう。
思えば初登場時、正義超人たちとは思想から何から一切合財、共感できるところのなかった彼がここまでのセリフを残して退場していったことに僕は大感動しました。数多いキン肉マンの好敵手の中でも常に上位に名を連ねてきた彼にふさわしい、最高の幕引きだったと思います。
熱き"闘将"の闘い、これにて終劇!!
そんなドラマを経てやっと始まる次鋒戦、ラーメンマンVSプリズマンもこれまた見どころ多い名勝負でした。まず目を引くのはジャングル・ビッグ・ジム摩天楼デスマッチと銘打たれて設営された特殊リング。ここまで来てまだ新たなルールの試合を読者に提示してくれるゆでたまご先生の創造性に感服しきりなのですが、これにはさらに大きな意味が隠されていました。
それはこの闘い、おそらくラーメンマンにとっても最後の試合になるということもあってか、それまでは意図的にスピンオフ作『闘将!!拉麵男』でしか見せてこなかった超人一〇二芸の技を一挙解禁。烈火太陽脚、回転龍尾脚、百戦百勝脚など魅惑の大技の数々が怒涛のように放たれていきます。それらの技を最大限に堪能する上でも、この特殊リングは最適の舞台だったのではないでしょうか。
そして、プリズマンが相手となるとやはり問題は、例の殺超人光線レインボー・シャワーの対処法ですが、この難題もラーメンマンは超人拳法で乗り越えていきます。レインボー・シャワーの製造庫であるプリズマンのレンズボディをラーメンマンは心突錐揉脚で蹴り砕いて完全攻略。ただ倒すだけではない、こうして相手の必殺技ごと破らないと倒したとはいえない、といわんばかりのこの勝ち筋の作り方には、やはり本作に骨の髄までしみ込んだプロレス魂を感じますね。
その勢いのままラーメンマンは次巻でプリズマンを打倒、その勝利はこれまで絶対に揺るがなかった大将フェニックスの自信にも異変を生じさせていくのでした。次巻レビューではその後の中堅戦とそこでついに姿を見せる驚異の新超人について、熱く語らせていただきたいと思います!
●『キン肉マン』4コマ
●こんな見どころにも注目!
フェニックスが内に秘めた卑劣さは先の準決勝戦から薄々見え始めてはいましたが、この決勝戦からとうとうそれを一切、隠さなくなってきたのは非常に興味深いところです。公衆の面前で、こうして堂々と自分たちの悪事を公開しながら罵倒を続ける徹底ぶり。これに誰も異を唱えないのが子供の頃の僕は不思議で仕方なかったんですが、そこは策士である彼のこと。おそらく運営への手回しもぬかりなくやっていたんでしょう。このパソコンには悪事の証拠が詰まってるはずなんですが......。
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中
●TVアニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』超豪華声優陣インタビュー&PV
●2024年放送開始! TVアニメ『キン肉マン』完璧超人始祖編公式サイト
アニメーション制作:Production I.G
原作:ゆでたまご(集英社『週刊プレイボーイ』・『週プレNEWS』連載中)
監督:さとう陽 シリーズ構成:深見真
キャラクターデザイン:丸藤広貴 音楽:高梨康治