『シティーハンター』冴羽獠役・鈴木亮平さんと槇村香役・森田望智さん 『シティーハンター』冴羽獠役・鈴木亮平さんと槇村香役・森田望智さん

1985年に連載開始した『シティーハンター』。単行本は累計5000万部を突破し、アニメもメガヒット、海外では実写作品も製作された。それがついに日本で実写化! 主演ふたりが長年のファンにこそ見てほしいワケとは――。

■『シティーハンター』が俳優になったきっかけ

――Netflix映画『シティーハンター』の完成おめでとうございます! 冴羽獠役の鈴木亮平さん、今のお気持ちを伺えますか?

鈴木亮平(以下、鈴木) 正直、ドキドキです。自分たちとしては、「今の時代に『シティーハンター』が生きていたら?」というのを実写という形で提示できたんじゃないかなと思っているんですが、実際どう受け取っていただけるかはまだわからないので。

――槇村香を演じた森田望智さんはいかがですか?

森田望智(以下、森田) 鈴木さんのおっしゃるとおりで、どんな反応をいただけるのかドキドキしつつ、ワクワクもしています!

――そんなおふたりが『シティーハンター』に出会ったのはいつ頃ですか?

鈴木 小学校高学年の頃、アニメ版の再放送ですね。僕は兵庫県出身なんですけど、関西では確か日曜の昼12時から『ルパン三世』と『シティーハンター』が代わる代わる放送されていたんです。

出会った当初は「すごく大人の話だなぁ」って思いましたね。セクシーなシーンもそうですし、新宿の街がスタイリッシュに描かれているところも含めて。

――その後、鈴木さんは『シティーハンター』の世界に深くハマっていったそうですね。

鈴木 僕は好きになると深く掘ってしまう性分で(笑)。コミックスは当然、全巻制覇しましたし、その後、発売された関連本もすべて買ってるんじゃなかな? サントラCDも持っていて、いまだに聞いてます。

実銃の訓練を海外に行って受けたという本格アクションも見どころ! 実銃の訓練を海外に行って受けたという本格アクションも見どころ!

――その後、あるときからは冴羽獠を演じたいと考えるようになったとか。

鈴木 僕は『シティーハンター』がきっかけで声優になりたいと思って、その後、実写映画が好きになって俳優の道に進んだ人間です。表現する楽しさに目覚めさせてくれたのが本作なので、自然と演じたいと思っていましたね。

――森田さんの『シティーハンター』との出会いは?

森田 鈴木さんの後だとお恥ずかしいのですが、私は出演が決まってから本作を知ったんです。最初は「Netflix映画のヒロイン役が決まってうれしい!」くらいの感覚だったんですけど、親に報告したらすごくびっくりされて。うちの父が『シティーハンター』の熱心なファンだったんです。

そうやって周囲のお話を聞くうちに、とてつもなく愛されている作品だと気づいて。そこで改めて「とんでもない作品のヒロインをやらせていただくんだな......」って、そこからもう緊張とプレッシャーが混ざっていきました(笑)。

森田望智 森田望智

――しかもお隣にはマニアックな方(鈴木さん)がいる状況ですし。

鈴木 ごめん! ほんとやりにくいよね(笑)。

■神谷明の冴羽獠から離れられなかった

――『シティーハンター』は北条司先生の漫画原作のほか、アニメ版も人気です。後続の関連作として『エンジェル・ハート』もありました。

鈴木 (突然、前のめりで)熱いっすね、先輩! わかってますね!

――ありがとうございます(笑)。本作は香港版、韓国版、フランス版などの実写映画も作られてきました。そんな中で、鈴木さんはご自身の『シティーハンター』、冴羽獠をどうやって構築していったんでしょうか?

鈴木 初期段階でプロデューサーや監督と何度も会議を重ねました。そこで、まず大きなテーマとしてあったのが、"はじまりの物語"をやるということ。これは香港版、韓国版、フランス版でもやっていないことだったんです。

そして「今の時代に日本で『シティーハンター』を作る意味ってなんだろう?」とも考えました。結論としては「より本物感を目指そう」「キャラクターたちが本当に新宿にいそうなリアリティを出そう」っていう方向になりました。

それはいわば北条先生が最初に考えられた漫画版の世界観なんですけど、とはいえ、原作原理主義でやってしまうのもまた違うな、と。

原作の初期の頃はかなりダークな雰囲気でコメディ要素もそんなにない。世の中が思う『シティーハンター』らしさとはかけ離れてしまう......。

そこで、原作に描かれていた冴羽獠、槇村香、香の兄である槇村秀幸という関係性は保ったまま、アニメや原作漫画の中盤のノリを混ぜ合わせた、絶妙なバランスを模索して突き詰めていった感じです。

鈴木亮平 鈴木亮平

――冴羽獠といえばアニメ版の声優・神谷明さんの演技のイメージが強く残っています。

鈴木 最初は神谷さんの演技から離れようと思っていたんです。自分なりの獠にしたいという思いが強かったので。ところが実際に演じてみると......自然に神谷さん風の言い回しになってしまうんです。

だって、台本に「もっこりちゃん!」って書いてあったら、もう神谷さん調の「もっこりちゃん!」しか出てきませんよ(笑)。だからクランクイン2、3日目で「もう諦めよう!」と思って、それからは自然に演じましたね。

――それが結果、大正解だった気がします!

鈴木 それ、絶対に書いといてください(笑)。

鈴木亮平は今回の撮影に向けて、ミニクーパーを運転するためにマニュアル車の免許を取得した 鈴木亮平は今回の撮影に向けて、ミニクーパーを運転するためにマニュアル車の免許を取得した

――一方、森田さんは槇村香を演じる上で意識したことはありますか?

森田 私は原作を読み込んで、原作の第302話「悩めるシュガーボーイ」に出てくる女子高生の頃の香ちゃんをすごく意識しました。

鈴木 またマニアックな(笑)。

森田 皆さんがイメージするボーイッシュな香ちゃんになる以前の、ちょっと少女らしい一面、幼さみたいなものを積み重ねていった上で、今の香がいるっていうのを、すごく意識しました。

その上で「真っすぐ」「愛情深い」「チャーミング」「パワフル」の4つの香ちゃんをずっとこの台本の横にメモりながら現場に挑みました。それプラス、お兄さんへの思いです。「お兄さんの敵を取るのだ」っていう強い気持ちです。演技で迷ったときは、この5つを必ず思い返してました。

森田望智が演じる槇村香。槇村秀幸の義妹で、自身の誕生日の夜に兄を亡くす。死の真相を求め、彼のバディだった冴羽獠につきまとうように 森田望智が演じる槇村香。槇村秀幸の義妹で、自身の誕生日の夜に兄を亡くす。死の真相を求め、彼のバディだった冴羽獠につきまとうように

野上冴子(演:木村文乃)は、槇村秀幸とかつて同僚だった警視庁刑事。冴羽獠には何度も口説かれているがうまくかわしている 野上冴子(演:木村文乃)は、槇村秀幸とかつて同僚だった警視庁刑事。冴羽獠には何度も口説かれているがうまくかわしている

――現場では鈴木さんに相談することもあったとか。

森田 たくさんアドバイスをいただきました! 感情の面でもそうですし、ちょっとした言い方や細かいディテールの部分とか。こんなに共演者の方と自分の役について話したのは初めてです!

鈴木 ほんとごめん! 普段は絶対にアドバイスなんかしないんですよ。役者さんに失礼ですから。でも、『シティーハンター』マニアとしては譲れない部分があって......。

森田 いえ、すごく助けていただきました! もう、ことあるごとに「師匠!」って感じで聞きに行ってしまうぐらいに。そこで鈴木さんから出てくる意見が的確すぎて、心強かったです。

鈴木 森田さんとの会話で特に覚えているのは、香が持っている「100tハンマー」の扱い方ですね。今回、香が最初にハンマーを持ったときに「なんかしっくりくる」ってセリフがあるんですけど、これがすごく大事なんです。

「ああ、やっぱり香はハンマーを持つとしっくりくるんだな」と思わせたかった。それにハンマーは重いけど、香はその重量で振り回されない。森田さんと一緒にハンマーの振り方を何度も研究しました。

森田 「いろんな叩き方、振り回し方があるよね」ってあれこれ試しているうちに、まるで部活のコーチと生徒みたいな感じになってました(笑)。

槇村秀幸(演:安藤政信)は冴羽獠の親友で、スイーパー稼業の相棒。血のつながらない香を妹として育ててきたが、その事実を伝えようと決める 槇村秀幸(演:安藤政信)は冴羽獠の親友で、スイーパー稼業の相棒。血のつながらない香を妹として育ててきたが、その事実を伝えようと決める

今回の物語の鍵を握る女性、くるみ(演:華村あすか)は有名コスプレイヤー。とある理由で、新宿の街を逃げ回っている 今回の物語の鍵を握る女性、くるみ(演:華村あすか)は有名コスプレイヤー。とある理由で、新宿の街を逃げ回っている

――一方で、『シティーハンター』は冴羽獠の名ゼリフ「もっこり」に代表されるように、ユーモラスな表現も多い作品です。今作ではそれをどう解釈したのでしょう?

鈴木 森田さんは原作を読んだとき、「ちょっと引いた」って言ってたよね?(笑)

森田 正直、「大丈夫かな? 今の時代だと抵抗ある方がいるかも」って思いました(笑)。

鈴木 でも、そうだよねって話なんですよね。原作は昭和に作られたので、当時の倫理観で作られてますし。今回はそれを現在の価値観にアップデートしながらも、当時と変わらぬ冴羽獠らしさを保とうとしたつもりです。

これは個人的な意見ですが、コンプライアンスが厳しい世の中になって性的なものは全部NGだと思われてしまうけど、そうではないと思うんです。性的な表現で誰かを傷つけたり、偏見を助長したり、社会に悪い影響を与えるものは避けなきゃいけない。

例えば、更衣室を覗くシーンはNGです。それは性犯罪ですから。ただ、実際にはNGでない性的なジョークの描き方は星の数ほどあるはずなんです。

裸踊りのシーンではいているパンツは、鈴木亮平が自ら10枚候補を購入し厳選したもの。本気度がスゴい! 裸踊りのシーンではいているパンツは、鈴木亮平が自ら10枚候補を購入し厳選したもの。本気度がスゴい!

森田 そのおかげで女性が見ても嫌悪感を抱かないバランスになってると思います。冴羽さんのイメージが壊れない程度に現代版にアップデートされた印象があります。

鈴木 その一方で、僕は「女性を性的に描くなら、獠もそれ以上に性的に描かれないとダメだ」とも思っていました。今回、獠が「裸踊り」をするシーンがあるんですが、そういう意味でも必要だと思って僕から提案しました。結果、『シティーハンター』らしい良いシーンになったと思います。

■冴羽獠を冴羽獠たらしめたもの

――冴羽獠はスケベで美女に弱い一方、正義・誠実さ、槇村香を守りたいという意思を強く持っている。なぜ彼はそんな両極端な性格になったんでしょう?

鈴木 僕の解釈は北条先生とは違うかもしれませんが......少しマニアックな話になってもいいですか?

あまり細かくは説明しませんが、獠って10代の頃まで"死"に囲まれて生きてきた人間なんです。大量に人を殺してきたし、周囲の人も殺されてきた。

そんな中、"ある出来事"があって、獠は廃人状態になり、死の淵を彷徨ってたんです。そのときに「教授」と呼ばれるキャラクターに介抱されて生き返ったんですね。

そして、その教授は獠のエロの先生でもあるんです。おそらく強烈に死に向き合ってきた獠に対して、生命の象徴、人間のポジティブな部分としての"性"を教えたんじゃないかと思うんです。

そして、「香や依頼人を守りたい」という気持ちは、今まで自分が犯してきたことへの贖罪のようなニュアンスがあるかもしれません。

あと、香の前では照れ隠ししているのもあるでしょうね。「俺にホレるなよ。こんなチャランポランな男だから」と遠ざけたい気持ちがどこかにある。そのついでにハンマーで叩かれるコントみたいなやりとりをするのも嫌いじゃない、みたいな。よけれるのに(笑)。

撮影が行なわれたのはエキストラ400人を入れた本物の新宿。鈴木亮平を指さして「冴羽獠だ!」と叫ぶ酔っぱらいもいたとか 撮影が行なわれたのはエキストラ400人を入れた本物の新宿。鈴木亮平を指さして「冴羽獠だ!」と叫ぶ酔っぱらいもいたとか

森田 今のお話を聞いていて、なんとなく想像していた部分が明確になりました。冴羽さんが死に向き合ってきたから本心を見せないようになったというのもわかるし、かすかに香ちゃんへの思いを感じたりもする。

そういうあえて語らない部分があるからこそ、たまに本音が出たときにカッコよく感じます。本心に触れた気がする。ちょっとキュンとしちゃいますね。

――ところで、本作を見た多くの人は「続きを見たい!」と強く思うはずです。続編の予定は?

鈴木 皆さんにそういう声をたくさん発信していただけるとうれしいですね。僕個人としては......いつでも作る用意はあります! すでに頭の中にはプロットもあるし、ついこの間も、頼まれてもいないのに新宿をロケハンしてきました!(笑)

鈴木亮平が特にこだわったという獠の横顔。あごの輪郭線を出すためにも、体を絞り、細くてシャープに戦える体を目指したという 鈴木亮平が特にこだわったという獠の横顔。あごの輪郭線を出すためにも、体を絞り、細くてシャープに戦える体を目指したという

――鈴木さん、本気っすね! それでは最後にメッセージをお願いします。

鈴木 今回、原作からはストーリーを大胆に変えさせてもらいました。それでも、ファンの方に「原作とは少し違うけど『シティーハンター』だ!」って思っていただけたらうれしいです。

森田 私のような『シティーハンター』を知らない世代の方にもぜひ見てほしいです。令和ならではの新宿の風景や日本のカルチャーも出てきます。日本独特の文化のひとつであるダルマも出てきますし。

鈴木 裸踊りのシーンにね(笑)。

鈴木亮平、森田望智

●鈴木亮平(すずき・りょうへい)
1983年生まれ、兵庫県出身。2006年俳優デビュー。主な出演作に『HK/変態仮面』(13年)、NHK連続テレビ小説『花子とアン』(14年)、『俺物語!!』(15年)、NHK大河ドラマ『西郷どん』(18年)、『燃えよ剣』(21年)、『エルピス~希望、あるいは災い~』(22年)、『エゴイスト』(23年)など

●森田望智(もりた・みさと)
1996年生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。主な出演作に『一週間フレンズ。』(17年)、Netflixシリーズ『全裸監督』(19、21年)、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(21年)、『さがす』(22年)、『作りたい女と食べたい女』(22、24年)、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(24年)など

■Netflix映画『シティーハンター』Netflixにて独占配信中
相棒の槇村秀幸と共に、有名コスプレイヤー・くるみの捜索依頼を請け負った"シティーハンター"こと冴羽獠。その頃新宿では謎の暴力事件が多発し、警視庁の敏腕刑事・野上冴子は手を焼いていた。息の合ったコンビネーションでくるみを追う獠と槇村だったが、捜査の最中、槇村が突然の事件に巻き込まれ死亡。現場に居合わせた妹・槇村香は兄の死の真相を調べてほしいと獠に懇願する

Netflix映画『シティーハンター』 Netflix映画『シティーハンター』

©北条司/コアミックス 1985 ©北条司/コアミックス 1985

尾谷幸憲

尾谷幸憲おたに・ゆきのり

カルチャー系のライター。『週刊プレイボーイ』(集英社)、『ヤング・ギター』(シンコーミュージック)などの媒体で執筆。著書に小説『LOVE※』(講談社文庫/内容みか共著)、『ラブリバ♂』(ゴマブックス)、『J-POPリパック白書』(徳間書店)ほか。「学校法人 東放学園音響専門学校」にて講師も務める。

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