古市コータロー

日本No.1のモッズバンド、ザ・コレクターズのギタリスト・古市コータローが、2年ぶりとなるソロアルバム『Dance Dance Dance』をリリースした。

今作は今年5月30日の還暦を迎えるにあたって制作された作品。浅田信一をプロデューサーに迎え、YO-KING(真心ブラザーズ)や西寺郷太(NONA REEVES)らの作詞曲を収めるなどロック、ポップス、フォークロックなどバラエティに富んだ一枚となっている。

1987年にザ・コレクターズのメンバーとしてメジャーデビューし、37年間にわたりバンドシーンの最前線で活躍。また、ソロとしてもこの5年間で3枚のアルバムを発表し、俳優としてNHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』をはじめ多数出演。近年、ジャンルを問わず、目ざましい活躍を見せている。 

そこで古市コータローを直撃し、最新ソロアルバム『Dance Dance Dance』について聞くとともに、そのバイタリティの秘密についてを聞いた!


古市 今日の取材は週刊プレイボーイのウェブの取材なんだっけ。 

ーーそうです。週プレは読んだこと、あります?

古市 もちろん。中学の頃、よく買ってましたよ。今も覚えているのは樹れい子さん。美人でお姉さん感のあるハーフのモデルなんだけど大好きで。週プレのグラビアは特に印象的でした。1978年かな。黄色い水着を着ていたんだよね(注:確認したら、1978年20号に黄色い水着を着て出ていました! すごい記憶力!)

ーーご愛読、ありがとうございます(笑)。えーと、今回は2年ぶりの新しいソロアルバム『Dance Dance Dance』の取材です。

古市 あー、そうだよね(笑)。

ーーこの『DANCE~』は、還暦を記念して作ったアルバムだとか。曲を作る上で、コンセプトのようなものはあったんですか?

古市 まったくないです(きっぱり)。今の自分を素直に表現したかっただけで。曲もギターを持った瞬間から考えたし、最終的にどんなものになるか、自分でも楽しみながら作りましたね。

ーー要は日常の中から生まれたサウンドだと。

古市 そう。いつもの飲み屋にいるみたいな感じ。実際、詞は飲み屋で書いたし、(西寺)郷太やYO-KINGらにも詞を書いてもらったけど、郷太は飲み屋でお願いしたし。本当に日常の自分が出ています(笑)。ただひとつ縛りを作って。"ひと筆書き"というか、Aメロから一気にサビまで書けた曲だけを採用しました。"簡単に作れたのがいい曲だ"ってよく言うんで、それならやってみようと。思いつきだけど、それくらいですね。

古市コータロー

ーー中でも気に入ってる曲は?

古市 全部好きだけど、「OCEAN WAVE」は最初に書いたので印象に残っていますね。

ーータイトル通り「海」をイメージさせるロマンチックな曲ですね。ギターとエレピが華やかでシティポップや渋谷系っぽさがあります。

古市 メジャーセブンスってコードがあるんだけど、それが明るく洗練された響きなんですよ。渋谷系の人たちはすごく使ってる。僕も昔から好きで、それを全面に打ち出そうと思ったら、一気にできちゃった。詞は郷太が「別れ」をテーマに書いてくれて、切なさがあるけど湿っぽくならないよう、さらっと歌っています。

ーーラジオなどで先行してオンエアされていた「Tonight」は、70年代を思わせるドラマチックなロック曲ですね。

古市 最初はアメリカのシンガーソングライターをイメージして書いたんです。そこにひずんだギターを入れたら、いい塩梅のロッカバラードになって。詞も「あの頃の夢をもう一度」的な内容で、哀愁を感じさせる曲に仕上がりました。それも気に入っています。あと「Windy Day」ってアコースティックのバラードは、バイクに乗って走るイメージで書きました。女にフラれた男が「涙が滲むのは向かい風のせいだ」って自分に言い訳をするという曲ですが、これも好きですね。

ーーどの曲も楽しみつつ、勢いを大切に作っている様子が思い浮かびます。それにしてもザ・コレクターズのサウンドは、細部までこだわって作っているイメージなので、ちょっと意外ですよね。

古市 俺はもともと大雑把な人間なんですよ。50歳過ぎた頃から、自分の本性に戻ったというか。今回は十分満足のいく出来栄えですよ。

古市コータロー

ーー還暦ということで改めて伺いますが、古市さんがプロになったのはコレクターズがきっかけなんですよね。

古市 そう。10代の頃"モッズ"に夢中になり、THE BIKEってモッズバンドのライブに行ったんです。そこで加藤(ひさし)さんと知り合って。その後、加藤さんに誘われ、ザ・コレクターズのメンバーとして活動するようになりました。それが1986年ですね。

ーーごくごく自然な流れで始まったと。

古市 そうですね。しかも幸運なことにその頃、"ネオGS"(註:1980年代半ばライブハウス中心に起こった、60年代サウンドを志向するバンドたちによるムーブメント)がきて、コレクターズもその中にいたからあっという間にメジャーデビューが決まっちゃった。

ーー順風満帆だったんですね。

古市 でもその後、すぐネオGSは終わるし、自分らも思ったように売れないしで大変でしたけどね。2017年に武道館公演をやれたし、もう40年近くやってるけど、本当に頑張ったと思いますよ。

ーー古市さんのようにバンドマンとしてのみならず、ソロミュージシャンとしても、80年代半ばからいまなお第一線で活躍する方って少ないですよね。

古市 確かにそうかも。まぁ、よほどツキがあるんだろうなぁ(笑)。

ーー長い音楽人生の中で、転機はどこになるんですか?

古市 2000年に事務所が閉鎖しちゃったんです。それは大きかったかな。その頃、加藤さんは体調を崩しちゃったので、自分がプレイヤーとしてだけでなく、マネージャー、経理、雑用まで全部やっていました。

ーー全部ですか!? 

古市 そう、全部。全国のライブハウス一軒一軒に電話して、少しでも好条件を引き出しながらブッキングし、リハーサル組んで、ライブ当日も水と弁当を用意して一番先に現場入って準備して。弁当もナメられるのイヤだからいいものを買って(笑)。

あと、月末になると封筒にお金を入れて、バンドメンバーや音響さん全員に給料払ったり。その状態が数年間、続きました。だけど、おかげで全国のライブハウスや音楽関係者と信頼関係が築けたし、バンド業界のこともよくわかった。ものすごく大きな財産になりました。いまはたとえ何かあっても自分の置かれている場所がわかるから、絶対に動じないですね。

ーー途中、バンドを辞めようと思わなかったんですか?

古市 なかったねー。辞めても他にやることなかったし、俺、引き際が悪いんですよ。やっていればどうにかなるもんなんですよね。

ーー面倒だからって逃げ出しちゃう人もいますよね。

古市 俺、逃げるのイヤだから(笑)。それに面倒がイヤだって人は、バンドにロマンを求めすぎているんだよね。バンドなんてひとつの会社だと思えばいいの。そうすれば大体のことは割り切れるし、苦労なんてほぼないんですよね。

古市コータロー

ーー潔いし、男気がありますね。憧れるというか。そういえば古市さんみたいなイケおじというか、カッコいい大人になりたいってファンやバンドマンは多いですよね。見た目も年齢を感じさせないし。

古市 ありがたいことになりたいと言ってくれる人はいるし、年のことは特に言われますね(笑)。言うと驚かれるもん。でもアンチエイジングとかやってないけど。せいぜい白髪を染めるくらい。ギタリストはシルエットが大事なんでジムには通うけど、食べ物も無頓着だし。昨日の夕飯なんて「うまかっちゃん」だよ!

ーーカッコつけてないというか、つくづく自然体です(笑)。それが秘訣ですかね。

古市 カッコつけるのは大事だけど、いつか素性がバレるからさ。それにこの年で無駄にカッコつけてたら、相当イタいよ(笑)。

ーーザ・コレクターズといえば、日本で一番のモッズバンドじゃないですか。モッズって休日でもフレッドペリー着るとか、強いこだわりがあるイメージですけど、古市さんのSNSを見ていても、そういうのも見られないですね。

古市 そういうのはもうないねー。そもそも自分はもうモッズだと思ってないですから。さっき年取って本性に戻るって言ったけど、それこそモッズ以前に戻った気がする。ある時期から小学生の頃から好きなジーンズばかりだし、ユルい格好ばかりですよね。何十年もモッズにこだわってきた俺だから、それも含めてモッズなんだって無理やり言えなくてもないけど。

ーー本性に戻るといえば古市さんは幼い頃、矢沢永吉さん、CHARさん、沢田研二さんらが好きだったとか。今回のアルバムもそんな方々を彷彿させる部分がありますね。それこそ今どきの洒落たカフェより、町中の居酒屋でかかってもおかしくない気がするし。

古市 いいねー! 居酒屋で流してくれたら最高ですよ。そもそも俺、昭和のパチンコ屋に合う音楽を目指しているから。わかります?

ーークセのある大人たちがしのぎを削り、出玉を争っていた危ない雰囲気みたいな。それ、本当に昭和ですよね......。

古市 それはそうでしょ。昭和に育っているし、樹れい子さんもそうだけど、幼い頃から自分が憧れていたものは、全部昭和のものだから、表現に昭和が出ちゃう。決して令和ではないなー。電子タバコとか、まったく憧れないし(笑)

古市コータロー

ーーちなみに古市さん自身、いまライバルはいるんですか?

古市 もう誰とも争ってないですね。昔はかっこいいギタリストがいたら「なんだよ、あいつ!」ってイラっとしたけど、いまは「カッコいい!」と思っちゃう。でも、負けたのかといえばそうとも思わないけど。まぁ自分に自信がついたのもあるんだろうな。

ーー誰もに対して大きい気持ちで接することができるようになったというか。そういえば以前、ある取材で「最近、優しくなったねと言われるような音楽をやりたい」とお話しされていましたね。

古市 いまはもっとそういう気持ちだし、最終的にはそこが目標ですよね。誰に対しても優しくなれるって最高じゃん。そういう人間になりたいし、器のデカさを感じる音楽を鳴らしたい。それは単に人間が丸くなったというのとは違うと思う。

ーー昔の自分が、いまの自分を見たらどう感じると思います?

古市 羨ましいと思うんじゃないかな。CHABOさん(仲井戸麗市)を見ていいなと思ったもん。RCサクセションで活躍しているのに、ソロもやれるんだ、自分もああなりたいなって。で、いまの俺はバンドもソロもやれてるし。

ーーなるほど。古市さんみたいに大人になるには、若い頃なりたかった自分を目指せと。

古市 うん。それはあると思う。

ーー最後に還暦を迎え、目標なんてあります?

古市 『Dance Dance Dance』のタイトル通り、軽やかにステップを踏む60代になりたいですよね。「もう60歳か~」ってがくっときちゃうこともやっぱりあるでしょ。でも年齢なんて気にせず、動き回っていないと。それこそ最近、吉野家に行っても牛丼の大盛りなんて頼まないけど、またがっついて、ますます勢いつけなきゃなって思っていますから(笑)。


●古市コータロー
1964年5月30日生まれ 東京都出身
THE COLLECTORS のギタリストとして1987年『僕はコレクター』でメジャーデビュー。 以来、THE COLLECTORS として25枚のオリジナルアルバムをリリース。
ソロとしては、現在6枚のアルバムをリリース。 また自身のGSバンド『KOTARO AND THE BIZZERE MEN』を率いる他、加山雄三をリーダーとする『THE King ALL STARS』にギタリストとして参加するなど、数多くのアーティストと共演。
近年では俳優として、NHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』ほかに出演するなど、多岐に渡って活動している。
公式X【@furuichikotaro】
公式Instagram【@furuichikotaro】

『Dance Dance Dance』古市コータロー
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