小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
1994年5月27日、PCエンジンで『ときめきメモリアル』(KONAMI)の第一作が発売された。
「卒業式の日、校庭のはずれにある古い大きな樹の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれる......」
そんな伝説のある「きらめき高校」を舞台に、13人のヒロインとの高校生活を楽しみ、女のコから告白されることを目指す。今では当たり前になった「恋愛シミュレーションゲーム」の先駆けであり、その大ヒットにより、続編やスピンオフ、ドラマCDなど多岐にわたる展開が生まれた同ジャンルの金字塔ともいえるタイトルである。
それから30年後の今年、あの魅力的なヒロインたちと共に青春を送った経験を持つ2000人以上もの「メモラー」(本作ファンの通称)が、東京・立川に集結した。5月18日、19日の2日間にわたり、立川ステージガーデンにて「ときめきメモリアル 30th ANNIVERSARY LIVE エモーショナル presented by TOKYO MX」が開催されたのだ。
この『ときめきメモリアル』の30周年を記念したライブでは、なんと初めて全キャストが出演。
金月真美さん(藤崎詩織役)/関根明子さん(如月未緒役)/中 友子さん(紐緒結奈役/)川口雅代さん(片桐彩子役)/菅原祥子さん(虹野沙希役)/黒崎彩子さん(古式ゆかり役)/笹木綾子さん(清川 望役)/五十嵐 麗さん(鏡 魅羅役)/鉄炮塚葉子さん(朝日奈夕子役)/栗原みきこさん(美樹原 愛役)/よしきくりんさん(早乙女優美役)/菊池志穂さん(館林見晴役)/津野田なるみさん(伊集院レイ役)
と、13人のヒロインを演じた声優の方々が一堂に会しただけでなく、主人公の親友(早乙女好雄)を演じたうえだゆうじさんも登場。30年の月日を感じさせないオールスター公演が実現した。
懐かしのゲーム画面がステージに映し出され、ヒロインたちのナレーションが流れると、ゲームのOPテーマ「もっと!モット!ときめき」の歌唱からライブは始まった。
原曲は「藤崎詩織」を演じた金月さんのソロだが、今回はヒロイン役の13人(ときめきオールスターズ)によるスペシャルバージョンで、客席のボルテージもいきなり最高潮に。それぞれが推しキャラ色のサイリウムを振りながら、歌の合間のコールを会場に響き渡らせる。現役アイドルのライブにも匹敵するほどの熱量だ。
自己紹介タイムでは、女王様キャラの「鏡 魅羅」を演じた五十嵐さんによる「ねえ、みんな?」という客席とのコール&レスポンスも。事前に練習していないにも関わらず、ぴったりと「はい、鏡さん!」という返事が完璧にそろう様子は圧巻の一言。
「今日は『きらめき高校』の同窓会です」
そう挨拶した金月さんの歌唱から、それぞれのソロ曲パートが始まる......はずが、音楽がなかなか流れない。どうやら舞台裏でハプニングがあったようで、中さんと菊池さんがステージに上り、掛け声やジャンプの練習で場をつなぐ。衣装着替えのミスがあったらしいのだが、出演者も客席も、むしろハプニングすら楽しもうという温かい空気が流れていた。
そうして始まったライブは、金月さんの「だからっ!」、鉄炮塚さんの「Hero」、黒崎さんの「ゆかりとランチ」、津野田さんの「薔薇の吐息」と4曲が続いた。ソロ曲によっては、ほかのキャストがバックダンサーになる演出もあり、観客を終始飽きさせない。
4曲ごとのソロパートの合間には、ゲーム画面を再現した映像が流れる構成になっており、『ときめきメモリアル』のキャラクターたちが実際のゲームのように客席に語りかけてくる。この映像は主人公(プレイヤー=観客)が「きらめき高校」で開催されている音楽祭に参加しているという設定で、ボイスもすべて新規収録。今回のライブのための豪華仕様となっていた。
次の4曲は、栗原さんの「雨のちまた雨」、よしきさんの「初詣 LOVE MOTION」、中さんの「Lunatic emotion」、五十嵐さんの「水の都へ...」。曲が変わるたびに観客のサイリウムの色も各キャラクターのカラーに変わっていく。
『ときめきメモリアル』は大ヒット作ということもあり、1990年代後半には、ヒロインたちが歌う楽曲を収録したCDが多数リリースされ、ボーカル曲だけでも100近い曲数がある。
この2日間の公演ではDay1とDay2でセットリストが大きく異なっており、よしきさんの「初詣 LOVE MOTION」のように今回がライブ初披露というレア曲もいくつか含まれていた。キャストが勢ぞろいしただけでなく、曲のチョイスという意味でも貴重な公演となったのだ。
続く4曲は、黒崎さんと津野田さんの「Double Bubble 時代」、うえださんの「ヒヤシンス」、中さんの「Fiesta~赤と黒~」、菅原さんの「Over the rainbow」。そして、曲間の映像では、まさかの「九伊豆戦隊カルトマン」が登場! これは戦隊シリーズのパロディであり、ゲーム内の文化祭で演劇部が発表した出し物としてプレイヤーには有名。
内容としてはクイズで悪の怪人を倒すカルトマンたちの活躍を描いているのだが、怪人もカルトマンも本編のキャストが声を演じた気合いの入りようで、当時からまさに"カルト"な人気を誇っていた。このうれしいサプライズに客席からは「ウォー!」という歓声が上がる。
それから関根さんの「風よ」、笹木さんの「Sincerely~素直になりたい~」、栗原さんの「内気な眠り姫」、うえださんの「女々しい野郎どもの詩」と再び4曲が披露された。
特に今回の出演者の中で唯一の男性キャストであるうえださんの歌う「女々しい野郎どもの詩」は、ゲームのバッドエンド曲(彼女ができなかったときに流れる)であり、哀愁漂う歌詞の内容も相まって長年の人気ナンバー。この曲を聴くと、いろんな思いが往年のプレイヤーたちの胸に去来するからだろうか、客席にはヒロイン役の方々の楽曲とは違った雰囲気の一体感があった。
そして、菅原さんの「出会えて良かった」、川口さんの「Tomorrow~Beside you~」、菊池さんの「星空のパワー」と続いたソロ曲パートは、再び登場した金月さんの「幸せのイメージ」で終了。ヒロイン役の13人がステージに上り、この「ときめきオールスターズ」の代表曲である「ハートのスタートライン~with you~」、10周年記念ソングの「10th SMILE(=じゅうねんスマイル)」が披露された。
「久しぶりなのに、久しぶりという感じがしなかった」
最後の曲が終わり、そう金月さんが観客に感謝を伝えると、「まだ終わってほしくない」という思いを訴えるように、即座にアンコールを求める力強い声が響く。それに応え、今度はうえださんも加えた全キャストが登場。ゲームのエンディングテーマ「二人の時~forver~」、さらに再びの「もっと!モット!ときめき」の合唱で3時間に及んだライブは幕を閉じた。
ゲームの発売から30年。キャストの方々も、客席にいた私たちも、いろいろあったであろう30年。しかし、ライブが始まり、懐かしの曲が流れた瞬間、あっという間に『ときめきメモリアル』の世界に帰ることができた。そういう意味でも、これはそれぞれの青春が詰まった特別なゲームなのだ。
最後の最後の映像で「主人公」が藤崎詩織に語った「この先、何十年たってもずっと詩織と一緒にいる」というセリフは、このライブに参加した全員の思いを代弁したものだろう。
さらに続いてステージに表示されたのは、「これからも『ときめきメモリアル』の新情報にご期待ください!」というメッセージ。今回のライブは「終わり」ではなく、むしろ「始まり」だったのかもしれない。まだまだ『ときメモ』は終わらない!
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。