明知真理子あけち・まりこ
洋楽ロック雑誌出身のエディトリアルライター。ビジネスからカルチャーまで幅広く取材・執筆に携わる。旅と本とルチャリブレ好き。バイクのスタントもこなす。
X(旧Twitter)【@marippejapan】
かの怒髪天の増子直純氏が「シンナー吸い過ぎたサザンオールスターズ」「横浜を通りすぎたクレイジーケンバンド」と絶賛(?)するのが「柳家睦とラットボーンズ」だ。
ピンクの照明にホタテ水着で局部を隠した踊り子たちが妖しく舞い、白いふんどしのゲイたちがフェロモンを放ち、ヒモパンのおじさまがお尻で割り箸を折る。その横でSM嬢が鞭を振るライブはまるでリアル秘宝館! 「コンプライアンス? それ食べれるの?」的ないかがわしさ満載で、昭和から時空をワープして来たパンチパーマの司会者が艶っぽくショーに仕立てている。
それでいて、昭和の大衆歌謡のような甘いメロディは胸を打ち、観客は男の哀愁にまみれて大合唱! モヒカン、革ジャン、パンチパーマたちが感涙に肩を抱き合い、運命共同体のような一体感に包まれる――。そんなライブは現在各地でソールドアウト続出、2023年はサマソニにも進出し、明らかに人気爆発の兆し!
そんな旅芸人の一座的なバンドを率いる柳家睦は、長い三つ編みヘアにクラシックなスーツをまとい、オシャレなのかギャグなのか...。破天荒キャラの柳家さんに、愛とエロスで感動を届けるバンドの成り立ちを聞いた!
* * *
――とにかくライブが最高と話題の「柳家睦とラットボーンズ」ですが、4月4日に渋谷クアトロで開催されたライブ(https://www.youtube.com/watch?v=dbEy4m6IpwQ)はゲストもクレイジーケンバンドの横山剣さん、怒髪天の増子さん、宮藤官九郎さんまでいて豪華満載! お客さんも祭りのように盛り上がっていましたね。
柳家 いやー、クアトロは神がかってましたね~。本当にすごかった!
――ライブでまず目を引くのは踊り子です。ホタテで大事なところだけ隠していたり、ストリップのようにお札をパンツのヒモに挟ませてくれたりとエロさ満載。どういうきっかけでステージに参加したんですか?
柳家 ピンクパーティープードルズって踊り子たちがいて「ちょっと手伝えよ」と声をかけて。はじめは出たり出なかったりだったけど、だんだん「踊り子いますよね」と聞かれるほどバンドの一部になってきて。今じゃ「あ、別料金ですけど~」ってギャラ交渉にも使えるという(笑)。
――そんなバンドは他にいない! ふんどしの男たちやお尻で割り箸を割る人もステージに...。
柳家 割り箸芸の最後の継承者ですよ(笑)! ふんどしの方々はモノホンのゲイの方たち。サマソニでゲイの神輿をやろうってなった時に20人ぐらい集まった。ただふんどしでマッチョじゃだめ。やっぱり、ならではの体つきってものがあるんだよね。
――本物志向! SMの女王様や昭和歌謡のようなMCもいるし、まるで怪しいショーのようで、お客さんもこの日だけは常識も忘れようという勢いで熱狂的に踊りますよね。ライブのコンセプトは?
柳家 「日常の中にある非日常」がコンセプトです。結局、世の中にあまりいないような人間が俺の周りにはたくさんいたから「じゃあちょっと来いよ」って誘ってたら、もうパンチパーマだらけ!
ライブでも変なヤツが来ますよ。この前はおじいちゃんが女物の格好にTバックで「鞭で打ってもらいたい」って来た(笑)。仕事どうしてるのって聞いたら「年金」って。おい! 俺たちの払った年金、そのTバックになってんのかよ!って。
――柳家さんはもともとバトル・オブ・ニンジャマンズという人気サイコビリーのバンドのリーダーで、サイコビリー界では"番長"とも呼ばれ崇められていていたとか。そこから今の「芸人一座」みたいなバンド形態への変化は想像がつきません。どのような変遷があったんですか?
柳家 最初はフォークから始めたの。ロカビリーとかサイコビリーにはアコースティックの要素もあるし、ジョニー・キャッシュとかジョー・ストラマーみたいに哀愁を表現したくて。でも結局、お調子モンがやってるから、気が付けばこんなバンドになっちゃった(笑)。
柳家 4人。ドラムもいなかった。前のバンドが活動停止になって、「若いやつちょっと手伝えよ」みたいなノリで始めただけで、まさかこんな大所帯になるとはね!
そこから、ライブハウスでやるには音圧的にやっぱりドラム入れなきゃとか、だんだんと増えていった。ドラムは最初3人いて都合つくやつが出てて、逆に3人みんな来ちゃったこともある。ギターが6人来たこともあったし(笑)。
今は俺を合わせて8人が基本。ゲストによってはトランペットやサックスの「ラットホーンズ」を入れたり、踊り子とか新キャラを誘ったり、だんだん増えてきた。
――基本的にやりたい放題の番長ノリで誘うんですね!
柳家 「ヒマだろ」って(笑)。昔は番長ノリが過ぎていろんなものがダメになっていったけど、酒をやめてまともになったのもあるし、今はみんなのおかげでこうなっていて、俺は担いでもらってるだけ。担ぎ手とはしっかり連携とってますよ!
――もともとジョニー・キャッシュのような男の哀愁を歌いたかったとおっしゃいましたが、今の楽曲はキャッチ―なメロディで、ムード歌謡やエレキ歌謡などの昭和のレトロな雰囲気が混ざっています。歌謡曲のエッセンスを入れたのはなぜ?
柳家 初期の曲で「売れない男の夜明け唄」っていう哀愁の歌があって、「ああ売れないバンドマン 心配するな俺も売れてない」って歌ったら、客が笑ったんですよ。その時、「こういうのイケるのかもな」とひらめいたんです。今までやってきたサイコビリーとかパンクに乗せて「人生ってさあ」なんて歌うより、美空ひばり辺りに寄せた方が、人を惹きつける可能性があるなと。そんなことを考えていたら、歌謡曲の奥深さに気付いちゃって。すげえ、ここにはいろんな音楽の要素が全部入ってるぞって。
――確かに美空ひばりにはジャズやラテンが混ざってたり、越路吹雪ならシャンソンの要素があったりしますよね。そこにシンパシーを感じて、歌謡曲というフィルターが出てきたんですね。
柳家 そう。ラテンをやるならキューバを真似るよりリズム歌謡を真似た方が、手っ取り早いし、むしろキューバ「風」にできちゃう。「和製プレスリー」みたいにただ真似るよりも、俺らの聴きこんできた音楽を隠し味にアレンジを作り込んで「和風プレスリー」にすれば、何かが起こるだろうと。
たとえば、ディック・デイルみたいなアメリカのサーフロックに、橋幸夫の「恋のメキシカンロック」みたいなラテンっぽい歌謡曲を入れてみようとか、村田英雄みたいにどっぷり昭和の男らしさに浸らせてみようとかね。楽しみながら音楽をカスタムしているんですよね。
あと昭和の歌謡曲っていまどきのJポップとは違い、ケレン味があって、どこかいかがわしい匂いがしますよね。それもスパイスになるというか。
――つまり昭和の歌謡曲にパンクやレゲエなどのレベルミュージックをブレンドしてオリジナルのサウンドを作っていると。
柳家 俺たちの音楽って、自分たちでは「レベル歌謡ミュージック」って言っています。他にそんなジャンルの人たちいないから独占状態。でもあまりに唯一すぎると売れないから、もうちょっといい呼び名がないか考えているけど。
――怒髪天の増子さんはラットボーンズを「シンナー吸い過ぎたサザンオールスターズ」「横浜を乗り過ごしたクレイジーケンバンド」と呼んでいますね。歌謡曲的な大衆性を持ちながら、独自のロックや多様な音楽へのアプローチも持っているところが、どちらのバンドとも近いものを感じます。影響はあるんですか?
柳家 もちろん。大衆性は大事にしているし。同じ神奈川県のバンドだからね。
――柳家さんは神奈川出身なんですね。
柳家 そう。サウンドとしてくくると、横須賀、横浜サウンドの横山さん、茅ヶ崎、湘南のサザン、僕は湯河原だから、湯河原、箱根、熱海の温泉サウンド!
――温泉サウンド(笑)。同じ神奈川でも、横浜、湘南のオシャレなイメージとはかけ離れてますね。
柳家 湯河原は神奈川だと思われてないし(笑)。でも甘酸っぱい青春の時代って、暴走族だって部活やってたって、誰にでもあるじゃないですか。そこをどうアレンジするかですよね。
もっというと俺は芸者置屋の息子で、熱海で生まれて湯河原で育ったみたいなところがあって、いわゆる温泉地育ちなんですよ。温泉地って外から見たら"秘境"みたいなところがあるから、そのイメージは面白いなと。
――ラットボーンズの「温泉街の一座」というキャラはそこがルーツなんですね。
柳家 一座のイメージとしては、寅さんとか、流れ者の踊り子たちがマイクロバスで旅するようなジプシー感とか、イージーライダー的なフリーダムな感じ。できればそこに表参道のおしゃれ感とかを合わせたかったんだけど、「熱海秘宝館」みたいな歌を歌ったら、もうどっぷり温泉サウンドですね(笑)。
●柳家睦(やなぎや・むつみ)
"レベル歌謡ミュージック"の第一人者としてたった一人で業界を牽引する唯一無二の存在。サイコビリーバンド「バトル・オブ・ニンジャマンズ」のボーカリストを経て、現在は「柳家睦とラットボーンズ」として精力的に活動中。
柳家睦とラットボーンズ billboard LIVE YOKOHAMA 6月21日(金)18:00~/21:00~
ほか、LIVE情報は公式サイトにて【https://www.yanagiya-ratbones.com/】
公式X【@ninjamanztokyo】
洋楽ロック雑誌出身のエディトリアルライター。ビジネスからカルチャーまで幅広く取材・執筆に携わる。旅と本とルチャリブレ好き。バイクのスタントもこなす。
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