日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 孤独な男と子犬の絆を描いた"踊らないインド映画"と、実在の怪奇作家の伝記を基にした心理サスペンス!

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『チャーリー』

評点:★2点(5点満点)

©2022 Paramvah Studios All Rights Reserved. ©2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

2時間44分にわたってとにかく犬がかわいい映画

南インド・マイスール。孤独な男ダルマの家に、子犬が住み着く。心を通わせ子犬にチャーリーと名づけたダルマだったが、犬が病気で余命わずかと判明。雪が好きなチャーリーのため、ダルマはチャーリーとヒマラヤを目指す旅へ

2時間44分にわたってとにかく犬がかわいい映画

タイトルロールにもなっているラブラドールレトリバーの「チャーリー」を演じた犬が最高にかわいいので、かわいい犬が飛んだり跳ねたり走ったりじゃれついたり腹を見せて横になったり時折寂しげな顔をしたりする様子を2時間44分にわたって観たい!という全国の犬好きの皆さんには全力でおすすめできる。

また本作は主人公がチャーリーを連れてインド南部マイスールから最北部のヒマーチャル・プラデーシュ州まで旅をする〈ロードムービー〉でもあるため、インド各地の雄大で美しい風景や雄大で美しい日の出や雄大で美しい日没も存分に味わうことができる。

「泣ける映画」でもあって、早い話が主人公の旅路は難病の犬の「最後の願い」(それは雪を見ることである)を叶えるためのものであり、その途中にはさまざまな苦労があり、諦めかける瞬間があり、人々の温かい人情がある。主人公の心情は主に挿入歌が歌詞で全部説明してくれるので、そこも安心である。

「チャーリー」の名前はチャップリンに由来するがそれほど映画と関係ないので(『黄金狂時代』と関連をもたせようとしているが、あまり機能していない)、チャップリン作品を観ていなくても大丈夫だ。

STORY:南インド・マイスール。孤独な男ダルマの家に、子犬が住み着く。心を通わせ子犬にチャーリーと名づけたダルマだったが、犬が病気で余命わずかと判明。雪が好きなチャーリーのため、ダルマはチャーリーとヒマラヤを目指す旅へ。

監督・脚本:キランラージ・K
出演:チャーリー、ラクシット・シェッティ、サンギータ・シュリンゲーリほか
上映時間:164分

新宿ピカデリーほかにて全国公開中

『Shirley シャーリイ』

評点:★3点(5点満点)

© 2018 LAMF Shirley Inc. All Rights Reserved © 2018 LAMF Shirley Inc. All Rights Reserved

「現実」パートが最大のファンタジーなのは欺瞞的

劇中、とある人物が若い研究者の論文を評して「ひどい出来なら逆に面白く思えただろう/優れているが平凡なんだ」という場面がある。意地悪に聞こえるのを承知でいえば、まさにそういう映画である。

本作は『ずっとお城で暮らしてる』『山荘綺談』『たたり』などで知られる作家シャーリイ・ジャクスンを題材とした「かなりフィクション性の高い」小説(スーザン・スカーフ・メレル作)をもとにしているので、そこに一定の強引さや牽強付会が生じるのはやむを得ないのかもしれないが、作品内で「現実」のはずの部分が実のところ最大の「ファンタジー」である、という構造はやはり欺瞞的だ。

タイトルロールを演じたエリザベス・モスの(いつものごとく)見事なパフォーマンスが豊かさと広がりをもたらしていることは間違いないし、そのことで作品自体の「格」が引き上げられてもいる。

だがジャクスンが自作『処刑人』の執筆に当たり、1946年に起きた女子大生失踪事件について調べ始める......のはいいとして、彼女の心情を「追体験」し、彼女の見た光景を「幻視」し始める、という展開がすべて映画的なギミックでしかないのが明々白々すぎて鼻白んでしまうのだ。

STORY:作家シャーリイはスランプ中。夫は寝てばかりのシャーリイに嫌気が差し、若い夫妻フレッドとローズを自宅に居候させて彼女の世話や家事を任せる。最初は嫌がっていたシャーリイだったが、献身的なローズと絆が芽生え始め......。

監督:ジョセフィン・デッカー
出演:エリザベス・モス、マイケル・スタールバーグ、ローガン・ラーマン、オデッサ・ヤングほか
上映時間:107分

7月5日(金)からTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開予定

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