尾谷幸憲おたに・ゆきのり
カルチャー系のライター。『週刊プレイボーイ』(集英社)、『ヤング・ギター』(シンコーミュージック)などの媒体で執筆。著書に小説『LOVE※』(講談社文庫/内容みか共著)、『ラブリバ♂』(ゴマブックス)、『J-POPリパック白書』(徳間書店)ほか。「学校法人 東放学園音響専門学校」にて講師も務める。
1970年代、日本や世界各地で大人気を博したテレビアニメ『UFOロボ グレンダイザー』が、約半世紀の時を超えリブート! 今回、原作の永井豪先生と本作の総監督・福田己津央氏による本誌だけのスペシャル対談が実現した。制作秘話やディープな"永井作品トーク"まで、特濃な対談になったぞ!
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――1970年代に放送されたロボットアニメ『UFOロボ グレンダイザー』がまさかのリブート! 地上波アニメ『グレンダイザーU』として公開することになりました。
永井豪(以下、永井) 約50年ぶりのテレビ放映なのでドキドキしています。それと同時に東映アニメ版を制作していた当時のうれしい記憶、惜しい記憶を思い出しましたね。
――総監督・福田さんの今のお気持ちは? 近作の劇場アニメ『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』も大ヒット。時代の機運に乗っている状況だと思うのですが。
福田己津央(以下、福田) 実は、『グレンダイザーU』には、不安な面もあるんです。
ガンダムに関しては冷静な視点で見れるのですが、『グレンダイザー』については、そもそも永井先生のファンであることはもちろん、東映アニメ版の大ファンでして。
アニメはもちろん、永井先生版、後を引き継がれた岡崎優先生版、桜多吾作先生版、石川賢先生版、今道英治先生版と描き手が異なるマンガ版(*)も読んでいました。だから作品を作る上で冷静な判断ができているだろうか、と。好きをこじらせていたらマズイ(笑)。
それと、本作は海外からも注目されています。どういう反応が来るのかがまったく予想できない。正直ビクビクしています。
(*)ほか、秋本シゲル版、さかえはじめ版、馬場秀夫版がある(敬称略)
――まず伺いたいのが、東映アニメ版のアニメ『UFOロボ グレンダイザー』(75~77年)のお話です。本作はどのようにして始まったんですか?
永井 そもそもは『マジンガー』シリーズの制作を担当していた東映さんが、短編劇場アニメ『宇宙円盤大戦争』(75年)を作っていて、そこにデザインの手直しで参加したのがきっかけでした。でも制作期間的にギリギリだったので、僕がやりたかったことはあまりできなかった。心残りでしたね。
すると映画公開後、スポンサーサイドから『宇宙円盤大戦争』を『マジンガー』シリーズの続編として作り直さないか?と打診があった。これは渡りに船、と話に乗りました。
『グレンダイザー』は『宇宙円盤大戦争』にあったUFOとロボットが合体するというコンセプトを残しつつ、もっとカッコいいロボットとキャラクター、もっと深いストーリーを目指しました。主人公は別の星から来た宇宙人。名前は北欧神話に登場する英雄・ジークフリートをもじって「デューク・フリード」としました。
こうして放映されたアニメ版は、当時としては非常に出来が良かった。『マジンガーZ』(72~74年)は男同士が戦う泥くさい世界観でしたが、もう少しナイーブでメロウなセンスが入っていたんです。
福田 当時、自分も拝見しましたが、大人っぽい話だなと思っていました。『マジンガーZ』はロボット同士のプロレスを見ているような印象もありましたが、『UFOロボ グレンダイザー』には大河ドラマ的な連続性があったんです。
――その後、『UFOロボ グレンダイザー』は海外でも爆発的な人気を獲得しました。
永井 そうですね。フランスでは『Goldorak(ゴールドラック)』と改題され、テレビで放映。国民的な作品になっていたそうです。人づてに聞いた話ですが、視聴率が100%の回もあったとか。
さすがに、ありえないと思いますが(笑)。そういう状況になっていたのを知ったのは、後年、現地のマスコミから取材が来てからです。まさに青天の霹靂(へきれき)でした。
――中東諸国でも支持を得ていました。民族構成・宗派が複雑な中東では「共通の話題がサッカーと『グレンダイザー』しかない」といわれていたそうです。
永井 2009年頃、外務省から「中東で『グレンダイザー』が人気なので、現地を訪問して講演会・サイン会をしてくれないか?」という依頼が来ました。中東は行ったことがなかったので軽い気持ちで「いいですよ」と返事をして、それでヨルダンに行ったら、空港の出迎えがなんと首相の息子さんだった(笑)。
福田 もはや国賓待遇ですね。
永井 ヨルダン、カイロ(エジプト)、クウェート、ドバイ(UAE)と中東4ヵ国でイベントをやったんですが、その熱狂ぶりに圧倒されました。会場に入れない人たちが劇場の周りを二重、三重に取り巻いているような状況だった。絶句しましたよ。こんなに人気があったのか......と。
――人気は今も続いています。
永井 最近だと、おととしの11月にサウジアラビアの首都リヤドに全高33.7mのグレンダイザー像が建造されたと聞きました。まだ実物は見ていませんが、いつか見たいですね。
――今回、福田総監督によって『グレンダイザーU』として復活することになったわけですが、そのきっかけは?
永井 リブート企画自体は何年も前から存在していました。何本かパイロットフィルムを作ったりもした。でも、何かしらピースが足りない印象でした。その足りないピースを埋めてくれたのが、福田さんが提案してくれたプロットだったんです。
福田 ただ、「今回は自分のやりたいようにやらせてください」みたいなことも言いました。なぜかというとビジネス的な感覚を優先させて、「今、海外ではこういうストーリーがはやってるから、それをやろう」みたいになるのが嫌だったんです。
僕は東映アニメ版のファンです。『グレンダイザー』というタイトルがついているなら、オリジナル版にある要素は絶対に外したくない。僕がリアルタイムで見て感動した要素を、ぎゅっと詰め込んだ作品にしたかったんです。
福田 いろいろありますが、ひとつはドラマ性ですね。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のような。
ただ、東映アニメ版はキャラクターが次々と死んでいくようなあまりにも悲劇的な展開がありましたが、それは時代に合わないと思い今回は避けています。
――その理由は?
福田 近年、各地で災害が起こったり、戦争が起きたりしていますよね。非常にきなくさい時代になったと感じています。そういう世の中に悲劇的すぎる作品はあまり合わない。
「何度倒れたとしてもみんなで一緒に立ち上がっていきましょう!」という明日への希望、連帯や協調を押し出した作品にしないといけないと考えました。
永井 素晴らしい。どれも今の時代に絶対に必要なメッセージです。
――具体的にはどんな作品を目指しているんでしょう?
福田 『宇宙円盤大戦争』と『UFOロボ グレンダイザー』両方のいいとこ取りです。このふたつは基本的なベースは同じ作品だと考え、その上で面白い要素はすべて盛り込もうと考えています。その結果、オリジナルを尊重しつつもキャラクター、ストーリー、設定を整理しました。
例えば東映アニメ版には前日譚『マジンガーZ』の主人公・兜甲児が登場するんですが、けっこう軽い扱いなんです。兜甲児のファンとしては、これはどうにかしたかった。
永井 僕は当時、兜甲児が登場する案に反対していたんです。でも番組プロデューサーのひとりが「兜甲児が出ないと視聴率が心配だ。必ず出してほしい」と言い出した。
でも兜甲児が出てきてマジンガーZに乗ることになったら、主人公のデューク・フリードやグレンダイザーのキャラが立たなくなってしまう。そう言ったら、彼はロボットには乗せないという話になった。でも、兜甲児を出すなら、やっぱりマジンガーZに乗せたほうがよかったんじゃないかと少し後悔しましたね。
福田 自分は兜甲児を出すなら、マジンガーZはもちろん、弓さやか(兜甲児のガールフレンド)も登場させるべきだと思っていて、今回の『グレンダイザーU』ではそれがかないました。
――福田総監督の熱意は本物ですね。
福田 ただ、冒頭でも話したように冷静さも必要。ストーリーやキャラクターでは絶対に譲れない部分はあるんですけど、あんまり凝りすぎると視聴者を置いてけぼりにしてしまう。だから『グレンダイザー』をリアルタイムで見ていない若手のスタッフと一緒に相談しながら作っています。
――キャラクターデザインには『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクターデザインで知られる貞本義行さんが参加していますね。貞本さんはグレンダイザー世代ですよね?
福田 ええ。ただ、だからといって通じ合ってるわけじゃないんです(笑)。同じものを好きな人間同士は、些細(ささい)な認識の差が気になる。「そこは違うんじゃない?」と激しめの議論をしたこともありました。でも、若手スタッフから見れば、「どうでもよくないですか?」って話ばかりで、そういった視点が入ってくるとハッと目が覚める(笑)。
そうやってこのアニメは貞本さんと話をしたり、若手の意見をもらったりして、作っているわけですけど、本当に迷ったら最終的に「キャラ本人」に聞いてました。
福田 ええ。主人公デューク・フリードのフィギュアに向かって問いかけるんです。「こんなとき、おまえはどう考える? おまえはどうしたいんだ?」って。すると、頭の中でデュークが勝手に話し始めるんですよ。「僕はこうしたい!」と。それをキャラの動き、セリフに落とし込んでいきました。
例えば今回の『グレンダイザーU』では主人公と女性キャラクターの恋愛模様、多角関係も描かれます。その行く末も僕が勝手に決めちゃいけない。デュークのフィギュアに向かって、「おまえはいったい誰と添い遂げたいんだ?」と聞きましたね。もう男同士の真剣な話です(笑)。
――これだけ作品を理解していらっしゃる方が総監督をやられるのは、永井先生もとても安心ですね。
永井 安心ですし、楽しみです。僕は自分の作品がアニメ化するときは、いつも「好きなように作ってください」というスタンスです。それで出来上がったものに僕自身がショックを受けたり、悲しんだりということはない。どんなものができても楽しませていただきますし、「おお、こう来たか!」と唸(うな)らせられることもある。福田さんには安心して作ってほしいですね。
福田 永井先生にそう言われると、逆にいいかげんなことはできませんね(笑)。でも昔から大好きな作品で、それこそ子供の頃に絵を描いていたことがあるような作品に50年たって関われるのは光栄です。
ところで永井先生、ひとつ質問をよろしいですか?
福田 マジンガーZのコックピット「ホバーパイルダー」は戦闘機ですよね。でも永井先生の初期構想ではオートバイで、主人公がバイクに乗ってロボットと合体する設定だった。なぜバイクの案は削られたんですか?
永井 あれはね、当時の番組プロデューサーから「『仮面ライダー』とかぶるからバイクは出しちゃダメ」って言われたんです(笑)。それで戦闘機に変更することになりました。
福田 なるほど! では、ついでに聞きたいんですが......(質問は尽きることなく、以下割愛)。
●『グレンダイザーU』
7月5日(金)からテレ東、BSテレ東、AT-Xほかにて放映開始!
原作:永井豪『UFOロボ グレンダイザー』
総監督:福田己津央 監督:久藤 瞬
シリーズ構成・脚本:大河内一楼 脚本:樋口達人
キャラクターデザイン:貞本義行 音楽:田中公平
声の出演:入野自由、下野紘、上坂すみれ、東山奈央、田中美海、戸松遥ほか
【INTRODUCTION】
1975年から77年にかけて放送され、日本だけでなく海外(特に中東諸国、フランス、イタリアなど)で絶大な支持を得た東映のテレビアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のリブート作。今回の新作では東映アニメ版では登場しなかったマジンガーZが戦うことも話題に
【STORY】
砂漠に堕ちた男には、記憶がない。男は兜甲児に拾われ、大介と名づけられた。穏やかな日々が続くと思われていた中、未確認空中現象が世界中の大都市上空に出現する。絶体絶命の中、砂塵を舞い上げ現れたのは、異星の魔神グレンダイザー。乗っていたのは大介、彼は故郷フリード星を追われた王子デューク・フリードだったのだ──
●永井豪(Go NAGAI)
1945年生まれ、石川県輪島市出身。石ノ森章太郎のアシスタントを経て、67年にマンガ家デビュー。『ハレンチ学園』『デビルマン』『マジンガーZ』など当時の社会に衝撃を与え、その後も語り継がれる名作を次々と生み出した。78歳となった現在も連載を抱える現役のマンガ家。日本SF作家クラブ会員
●福田己津央(Mitsuo FUKUDA)
1960年生まれ、栃木県出身。87年の『機甲戦記ドラグナー』で演出を担当し、91年にスタートした『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』シリーズの監督、2002年にスタートした『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの監督を務め、新作映画『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』(今年1月公開)は大ヒットを記録
カルチャー系のライター。『週刊プレイボーイ』(集英社)、『ヤング・ギター』(シンコーミュージック)などの媒体で執筆。著書に小説『LOVE※』(講談社文庫/内容みか共著)、『ラブリバ♂』(ゴマブックス)、『J-POPリパック白書』(徳間書店)ほか。「学校法人 東放学園音響専門学校」にて講師も務める。