「文庫化したら世界が滅びる」といわれた名著が、まさかの文庫化! 世界滅亡前に読んでもらうために、実は読書家のぐんぴいが立ち上がる! 「文庫化したら世界が滅びる」といわれた名著が、まさかの文庫化! 世界滅亡前に読んでもらうために、実は読書家のぐんぴいが立ち上がる!

46言語に翻訳され、5000万部を売り上げている世界的ベストセラー『百年の孤独』が、ついに文庫化! マコンドという架空の村を舞台に、村の創設者一族ブエンディア家の100年間を描いた小説だ。

そんな本書を「今まで読んだ本の中で一番面白い」と公言するのが、芸人・YouTuberとして八面六臂の活躍を見せている"バキバキ童貞"ことぐんぴぃ氏。いったい何が彼をとりこにしたのか? 伝説の名著の魅力を存分に語ってもらった!

■大ヒロイン級美人が空に飛び、消える......

――ぐんぴぃさんはかなりの本好きとのことですが、ガルシア=マルケス【解説①】の『百年の孤独』とはどう出合ったんですか?

ぐんぴぃ 最初に知ったのは大学生の頃に読んだ『考える人』(新潮社)という雑誌の「海外の長編小説ベスト100」という特集ですね。その第1位が『百年の孤独』で、「ほんとぉ? 聞いたことねえし、タイトルだけはかっけーけど......」なんて思いましたね。

それで、古本屋で『百年の孤独』を見つけて、「どんなもんじゃい」と思ってめくってみたんです。書き出しの「長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくアウレリャノ・ブエンディア大佐は、父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後を思いだしたにちがいない」という一文を読んで、「あ、これ読んだほうがいいやつだ」って思いました。

いきなり「えぇっ、銃殺隊の前に立つってどういうこと?」って引き込まれたんですね。その後に、「マコンドも当時は、先史時代のけものの卵のようにすべすべした、白くて大きな石がごろごろしている瀬を、澄んだ水が勢いよく落ちていく川のほとりに、葦と泥づくりの家が二十軒ほど建っているだけの小さな村だった」と続く。

南米の川辺にある、ボロボロで小さな村の情景が一瞬で目に浮かぶんです。これを長文で一気に描写するところが、カッコいいんですよ~! あと、この時点でこの村が発展することと、主人公が銃殺隊の前に立つような破滅が起こること、この先の期待と不安を一挙に見せてくるんです。このつかみがスゴいですね。


著者・ガブリエル・ガルシア=マルケス 著者・ガブリエル・ガルシア=マルケス

――読み進めていく中で印象的だった場面はありますか?

ぐんぴぃ 小町娘のレメディオスという、めっちゃ美人で大ヒロインになるんじゃないかと思わせる女の子が登場するんですけど、ある日突然洗濯物に包まれて、空に飛んでいって、消えちゃいます。

――え、消える? 死んじゃうとかじゃなくて?

ぐんぴぃ はい、消えちゃうんです。「永遠に姿を消した」で終わって、補足説明がないんですよ。信じられないでしょ(笑)。このエピソードはラテンアメリカ文学の特徴のひとつとされるマジックリアリズム【解説②】の例としてよく挙げられるんですけど、何も知らずに読んだときは「ファーッ! どういうこと?」ってなりました。

でも不思議なことに、こんなに意味不明なのに、読むのをやめようとは思わないんです。『百年の孤独』は、どんな奇天烈なシーンも「まあ、そんなこともあるかもな」って読者に思わせる力があるんです。

――不思議なエピソードのオンパレードなんですね。

ぐんぴぃ はい、村で何年間も雨が降り続けたり、村人がまったく寝られなくなったりするんですが、これは実際の出来事の比喩や寓話らしいですね。

こんな感じで、癖のある登場人物と奇天烈なエピソードが乱暴に積み重なって100年間の歴史が紡がれていく。序盤にマコンド建設の読み応えのあるエピソードがあるんですが、そこでも「村の建設から2年か3年」とか書いてあって、「あと97年もあるの!? スゴいぞこれ!!」って思いました(笑)。

■ぐんぴぃ一家≒ブエンディア一族!?

――癖の強い登場人物が多いとのことでしたが、推しキャラとかいますか?

ぐんぴぃ 巨根すぎるだけのヤツとか好きですね。下ネタとかじゃなく、単純に「巨根のやつが、いた」とかだけ描写されてる男がいて(笑)。

でも、一番好きなのはウルスラですね。マコンドの創設者であるブエンディア一族の始祖に当たる女性で、この物語の肝でもあります。『百年の孤独』に出てくる女性たちは男に負けないたくましい女性が多くて、みんな苦労もするんですが、特にウルスラは自分のおふくろとも重なって、思い入れがあります。

実は僕の親父はとんでもないやつで、すぐ手が出るわ、暴れるわ、自己中で勝手だわで大変だったんです。実家の近所の川辺に、背丈ぐらいに成長する花を勝手に植えて、周囲の景観を一変させてしまったり......。

ぐんぴい

――なんだか、マコンドで起きてそうな話ですね。

ぐんぴぃ そうかもしれない(笑)。理不尽な夫や村の男どもに耐えながら、諦めずに生きていくウルスラの姿が、自分の母親と重なるんですね。

あと、実家には僕が生まれたときから「カーボ」って呼ばれてる半身不随のおじちゃんが居候してるんです。このカーボがめっちゃカッコいいんですよ。僕が親父にぶん殴られていても、カーボが這ってきてくれて「ヒロ君(ぐんぴぃ氏のこと)が......泣いて......ましたよ! 謝って......ください!」って親父に注意してくれたりするんです。

親父もカーボには怒ることができなくて、「わかったよ......」ってなるんです。こんなカーボをはじめ、一族の財を一代で使い果たした「寅」っていう先祖とか、うちの家系には変わり者がたくさんいます。確かにブエンディア一族とちょっと似ているかもしれないです(笑)。

■G・マルケスは「全部しゃべるおじさん」!

――『百年の孤独』は独特の文体やページ数の多さ、同じ名前の人物が複数登場するなど、その「読みづらさ」も有名ですよね。ぐんぴぃさんは読み進めるに当たって何か工夫はしましたか?

ぐんぴぃ 最初に読んだときは「1日30ページだけ読む」と決めてました。1ヵ月弱くらいで読み終えましたが、途中からは面白すぎて「読み終わるのがもったいない!」っていう気持ちでしたね。

――登場人物が同じような名前ばかりで、混乱しませんか? 例えば、名前に「アルカディオ」が入る人物だけで5人いたりもしますが。

ぐんぴぃ 名前が似ていたり同じ名前だったりするのは、もうそういう仕掛けだと割り切ってください。むしろ、記憶がぐちゃぐちゃになっていいんです。気にせず読み進めれば結局面白いんで!

あと、最初のページに登場人物の名前と家系図が書いてありますけど、個人的にはこれを読まずに紙とかで隠して、新しい登場人物が出るたびにめくっていくのがいいと思います。ネタバレ防止にもなるので。

――なるほど、あえて記憶の混同を楽しむということですね。しかし、単行本も文庫もほぼ改行ナシで、見開きがびっちり文字で埋まっていますよね。このボリュームにはハードルの高さを感じる読者もいると思いますが......。

ぐんぴぃ この小説は「このへんは本筋と関係ないからちょっと省略しよう」とか、そういう意識が一切なくて、"全部"書いてあるんですよね。「全部しゃべるおばちゃん」っているじゃないですか。

「こないだスーパーに行ったらね~、どこそこの人がいて、息子が受験失敗したらしくてね~、なんの話だっけ、スーパー行ったらね、野菜のお値段が高くてさ~、アメリカのせいかしらね~」みたいな。これと同じで、ガルシア=マルケスは「全部しゃべるおじさん」【解説③】なんですよ。

でも、そんな話も100年間分聞いたら、めっちゃ面白いんです。省略しない、デオドラントしない良さというか。「コスパ」「タイパ」みたいな価値観とは真逆の思想で書かれたものだと思って、肩の力を抜いて読むといいですよ。

さまざまなバージョンの『百年の孤独』たちに囲まれて、恍惚の表情を見せるぐんぴぃ氏。左は1999年刊行の単行本(ぐんぴぃ氏私物)、右は2006年刊行の単行本、中央が最新版である文庫本 さまざまなバージョンの『百年の孤独』たちに囲まれて、恍惚の表情を見せるぐんぴぃ氏。左は1999年刊行の単行本(ぐんぴぃ氏私物)、右は2006年刊行の単行本、中央が最新版である文庫本

――ある意味、真面目に読まなくていい?

ぐんぴぃ マジでそうです。僕もびっくりしたんですけど、この本が出版された中南米では、みんな笑いながら読んだらしいんですよ。「あははー、女の子が飛んでいっちゃったよ~」って感じで。こういうノリで、ガルシア=マルケスおじさんがずーっと面白い話をしているのに振り回される感覚を楽しんでほしいですね。

――なるほど、「高尚な文学」という先入観は取っ払ったほうがいいわけですね。

ぐんぴぃ あと、芸人さんでたとえると、僕は「『百年の孤独』はランジャタイさんだ」ってよく言ってます(笑)。『百年の孤独』の面白さは、ランジャタイさんが『M-1グランプリ2021』決勝でやってた「猫が体に入ってくる」みたいな、理屈とか一切必要のない面白さに近いと思っています。この本は、読むランジャタイさんなんです。

――ランジャタイさん売れてるので、『百年の孤独』もめっちゃ売れるかもですね!

ぐんぴぃ そうですね。人はつい「わかりやすさ」「ポップさ」を優先してしまうけど、『百年の孤独』もランジャタイさんのネタも、それがなくても大衆に届く。これは本当に面白いものを知っている天才にしかできないことなんだろうなって思いますね。

【解説①】ガブリエル・ガルシア=マルケス 
作家。1927年生まれ、コロンビア出身。1982年にノーベル文学賞受賞。2014年にメキシコにて逝去。彼が作家を志したのは1950年代。当時はアジアやアフリカの国々の独立、キューバ革命の成功などを受けて、西欧以外の「第三世界文学」が評価され始めた時期。その時流の中、1967年に発表された『百年の孤独』は、西欧の言語であるスペイン語で書かれているものの、非西欧的な価値観を含んでおり、世界各地でベストセラーとなった。その影響は根強く、コロンビアを舞台にした2021年のディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』でもオマージュされている。そのほかの代表作としては、独裁者の孤独を描いた『族長の秋』、村上春樹が『街とその不確かな壁』内で引用したことでも知られる『コレラの時代の愛』などがある

【解説②】マジックリアリズム 
別名「魔術的リアリズム」。西欧からすれば魔術的(マジカル)な物の見方が、西欧の科学や合理と同等の"現実"として描かれていることを指す。ラテンアメリカの小説の特徴を表す用語として定着したが、同地の作家たち自身はこの用語を用いてはいない。代表例は、アレホ・カルペンティエル(キューバ)の『この世の王国』、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス(グアテマラ)の『とうもろこしの人間たち』、フアン・ルルフォ(メキシコ)の『ペドロ・パラモ』、ガルシア=マルケス(コロンビア)の『百年の孤独』『族長の秋』など。『百年の孤独』では、女性がシーツに包まれて昇天したり、息子の血が母の元へ帰ろうと地面を這ったりするシーンに顕著。ガルシア=マルケスは「自分の作品に描かれたことの中で、現実に根差していないものはない」と語っている

【解説③】「全部しゃべるおじさん」 
ガルシア=マルケスは10代の頃から『百年の孤独』を書くための素材を持っていたが、それに見合う語り口が見つからなかったという。40歳も近づいたある日、メキシコに住んでいた彼は家族と一緒に海沿いのリゾート地に向かった。そのドライブ中、どこからともなく『百年の孤独』の語り口が思い浮かんだ。それは、彼の祖母の話し方だった。祖母が話をすると、どんなとっぴなことでも自然に聞こえたのだそうだ。その語り口を採用し、あとは流れに任せて『百年の孤独』を書き切った。口承文芸のようにも思える『百年の孤独』は、まさしくおばあちゃんのとりとめのないおしゃべりに着想を得たのだった

●春とヒコーキ ぐんぴぃ
お笑い芸人。タイタン所属。1990年生まれ、福岡県出身。青山学院大学の落語研究会で出会った土岡哲朗と2017年に「春とヒコーキ」を結成。2019年にはABEMA NEWSの街頭インタビューを受け、"バキバキ童貞"として認知されることとなる。2020年から始めたYouTubeチャンネル『バキ童チャンネル【ぐんぴぃ】』の登録者数は155万人超。俳優としても活動しており、日本テレビのドラマ『大病院占拠』『新空港占拠』では、櫻井翔と共演を果たした

●監修・解説 久野量一(くの・りょういち)
東京外国語大学教授。専門はラテンアメリカ、カリブ文学。著書に『ラテンアメリカ文学を旅する58章』(明石書店、共編著)、『島の「重さ」をめぐって キューバの文学を読む』(松籟社)がある。訳書にエドゥアルド・ガレアーノ『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』(岩波書店)、レオナルド・パドゥーラ『わが人生の小説』(水声社)ほか多数。『百年の孤独』の作者であるガルシア=マルケスとは、彼の邸宅で計4回、世間話をしたことがある

■『百年の孤独』
新潮文庫 1375円(税込)
著:ガブリエル・ガルシア=マルケス 訳:鼓直 
世界文学の歴史を塗り替えた伝説の名著が、初訳から50年以上の時を経てついに文庫化!解説は筒井康隆氏!!