日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 「フェラーリ」創業者の物語を名監督マイケル・マンが描く!&海を舞台にした密輸品を巡るだましだまされのクライムサスペンス!

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『フェラーリ』

評点:★3.5点(5点満点)

© 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. © 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ペネロペ・クルスの熱演は見事だが......

元レーサーで自動車メーカー「フェラーリ」の設立者エンツォ・フェラーリについての伝記的な映画で、1957年の公道自動車レース「ミッレミリア」への道のりと並行して、その私生活と仕事ぶりが描かれる。

眼目となるのは不幸な成り行きで公私共に確執ばかりが募るフェラーリ夫人との関係性で、演じたペネロペ・クルスの熱演がギリギリの緊張感をうまく引き立てている。

その軋轢の背後にあるのは1950年代イタリアの家父長制である。

だがその問題点はもっぱらペネロペ・クルスの演技のみによって浮かび上がるだけであり、フェラーリ本人の内面がそれとわかる形で示されることはないため、映画自体がある意味、倫理的に宙ぶらりんの状態になってしまっている。

夫人の対立項になるのはフェラーリの愛人だが、彼女との関係においては「子供を認知するか、しないか」だけが焦点なのでそこにも感情的な繋がりについての手がかりはない。

フラッシュバックで「昔は愛があった」的なことはこの両者について描かれるが、そのことでキャラクターの深みが増しているかといえば疑問だ。

ライバルやお抱えのレーサーたちもおしなべてキャラクターの描き込み不足で印象が薄い。

STORY:1957年、イタリアの自動車メーカー「フェラーリ」社の創業者エンツォ・フェラーリは、息子を亡くし、妻との関係も冷え切っていた。会社も破産寸前。再起を誓うエンツォは、イタリア全土1000マイルを縦断するロードレースに挑む。

監督:マイケル・マン
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
上映時間:132分

全国公開中

『密輸 1970』

評点:★4点(5点満点)

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興奮と感動に満ちた「てんこ盛り」エンターテインメント

1970年代の韓国の貧しい漁村を舞台に、海女で生計を立てているお姉さんたちが密輸業に手を出してしまい、さまざまなトラブルを乗り越えて堅い友情を築いていく「てんこ盛り」エンターテインメント映画。

何が「てんこ盛り」かといえば、本作はまず一種のピカレスク・ロマンであり、猥雑で野蛮な1970年代の熱気をムンムンに漂わせた「時代もの」であり、さらに海洋映画であり水中アクション映画であり、手に手に刃物をもったヤサグレ軍団のとんでもないバトル場面もあれば、人食いザメも登場するのだ。

公害がもたらす環境悪化による漁村の貧困化や、輸入自由化前の韓国における密輸の問題、公権力の腐敗など、シリアスな社会的テーマがちりばめられた作品にもかかわらず、かなりコメディに寄せた明るいトーンでまとめ上げているのも良いし、全編を彩る70年代韓国歌謡曲もおおいにその雰囲気づくりに貢献している。

そして何より本作が痛快なのは、主人公たる海女さん軍団が彼女たち自身で充足しているところだ。今よりずっと男尊女卑の激しかった時代を舞台にしつつ、「男をめぐってどうこう」という要素ゼロで、すっくと自分の足で立っているのが実にクールである。

STORY:韓国の漁村クンチョンでは化学工場の廃棄物で海が汚染され、海女たちは失業の危機に。リーダーのジンスクは仲間の生活を守るため海底から密輸品を引き揚げる仕事を請け負う。だが、税関の摘発によりジンスクは逮捕されて......。

全国公開中
監督:リュ・スンワン
出演:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソン、パク・ジョンミンほか
上映時間:129分

全国公開中

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