武井壮いわく「パリ五輪では新競技のブレイキンが楽しみ」 武井壮いわく「パリ五輪では新競技のブレイキンが楽しみ」

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。〝百獣の王〟武井壮さんとの対談8回目は、7月26日に開幕するパリ五輪について。多くの競技があるが、武井さんが注目するのは「ブレイキン」。「ただ踊るだけでしょ」と思っていたら、採点方法や歴史的背景が複雑でちょっと面白そうかも!?

***

ひろゆき(以下、ひろ もうすぐパリ五輪が始まりますね。

武井壮(以下、武井 ひろゆきはパリに住んでいるんだし、直接、見に行ったりしないの?

ひろ 柔道とモトクロスのチケットは取りました。テレビ中継でも見られますけど、生で見るとどんな感じなのかなぁと思って。

武井 俺は今回から始まるブレイキンが楽しみなんだよ。

ひろ へー、意外です。武井さんが得意とする速く走ったり、ものを遠くに飛ばしたりする運動とはちょっと違いますよね。

武井 でも、ブレイキンは肉体だけで戦うから、そういう競技は俺の専門分野なんだよ。特にブレイキンは技の難易度がもう異次元!

ひろ 人間離れした技という意味では、上海雑技団の人が入ったら無双じゃないですか?(笑)

武井 あはは(笑)。でも、ブレイキンは技だけでは勝負が決まらないから。

ひろ え、じゃあ、ほかに何で評価されるんですか?

武井 DJがランダムに曲を流すのよ。で、選手はそのイントロを聴いて、即興でその曲に合わせて自分の持っている技を美しく見せるわけ。つまり、音楽と技の調和も採点に含まれる。だから、ものすごい難易度の大技を決めても音楽と全然合っていなければ評価は低くなる。

ひろ 曲はどうやって決まるんですか? フィギュアスケートとかは自分で選ぶじゃないですか。

武井 それが、事前に知らされていないらしい。

ひろ え、本当に始まるまでわからないんですか?

武井 そう。しかもリストの中から選ばれるんじゃなくて、地球上にあるすべての曲の中から選ばれるみたい。

ひろ ものすごい〝運ゲー〟じゃないですか。

武井 だから、ブレイキンは技と曲がバチッとハマったら、最強のムーブメントが起こる。そこがすごい見どころだよね。

ひろ 曲がガチのランダムっていうのがくせものですよね。ヒップホップやロックだったらなんとなくわかるし、リズムのパターンもダンスと合わせやすいと思うんですよ。でも、例えば日本の浪曲や演歌だとほかの国の人にはわからない。そもそもリズムを刻めるかも怪しいし、曲の展開だって読めないじゃないですか。

武井 まあ、DJもブレイキンを回してきた人だから、浪曲を選ぶことはないと思うけど(笑)。でも万が一選ばれたときに、日本人選手が「あ、この曲知っている。じいちゃんがいつも聴いてたやつだ!」となってバチッとハマったら、そりゃあ大盛り上がりだと思うよ。

ひろ 確かに(笑)。でも、欧米の曲ばかりだと予定調和感もあるので、やっぱりマイナーな曲も交ぜてくるわけですよね。例えば、東南アジアやアフリカの曲が出てくる気もするんですよ。

武井 DJがそういうふうに考えている可能性もあるよね。あとは、開催地がパリだから、フランスの歴史的な曲は入れてきそう。だから、選手たちもそれを予想して、そういう曲を練習している可能性はある。

ひろ 確かに観客ウケを狙うなら、フランス人のわかる曲のほうがいいですもんね。

武井 世界中から観客が集まるといってもフランスの人は多いだろうし、知っている曲だと盛り上がる。日本でいう「懐メロ」みたいな感じで、フランスの「あのときにはやった曲ね」がたくさんかかるかもしれないね。

ひろ DJも超一流の人ですし、客を乗せようとすると自然にフランス人を意識した選曲にはなりそうですよね。

武井 だから、そういう選曲も含めてブレイキンがどうなるか楽しみだよね。でもさ、こういうルールを知っている人は、まだ少ない気がするんだよ。

ひろ 僕も今回初めて聞きました。というか、武井さんから聞かなかったら、ずっと知らなかったかもしれない。

武井 でも、これで2倍楽しめるでしょ?

ひろ いや、2倍どころじゃないと思いますよ。さすがにテレビ中継では解説してくれるんでしょうけど、会場で見ているとわからないと思うんです。で、フィギュアスケートみたいに「自分でセレクトした曲ね」と思ってしまう。

武井 だよね。だから、競技を見て、ただ「うまい」と思うか、「え、この曲で踊るの?」と思うかで楽しみ方はずいぶん違ってくると思う。ブレイキンを盛り上げるために、フランスにいるひろゆきの友達にこの知識を広めておいてよ。

ひろ わかりました。まあ、見に行く人が何人いるかわからないですけど(笑)。でも、ブレイキンって、ほかの競技とかなり違っていますよね。

武井 それは文化的な背景があるからだよ。ヒップホップやブレイキンは、争いが起こったときに拳銃や拳で戦わずにダンスやラップでケリをつけたというルーツがある。だから、よく腕組みをするポーズをするでしょ? あのとき、手を拳銃の形にしているのよ。

ひろ それって、拳銃をしまっているという意味なんですか?

武井 そう。「銃はここに隠してるぜ」というポーズ。あとはスラム街で生まれたという歴史もあって、自分たちはこのカルチャーで成り上がるんだという歴史的意味も込められている。だからこそ、そういう文化をよく知っていて、今日はこの服を着てきましたということが評価されたりもする。

ひろ でも、ブレイキンっぽくない服の人もいますよね。

武井 動きやすいただのスポーティな服装で来る選手もいるよ。そういう選手はアスレチックな能力を見せても「やっぱり服装がクールじゃないよね」と高得点が出づらくなったりもするみたい。

ひろ ちなみにフィギュアスケートって、衣装は別に点数には換算されないですよね?

武井 換算されないけど、露出が激しいと減点の対象にはなるよね。フィギュアスケートは芸術点があって、自分の選んだ曲の内容と振り付けと衣装がマッチしていて、美しく見えることまで審査されてると思う。でも、ブレイキンは歴史的な背景が複雑に絡み合っているし、選曲はランダム。そういうところを含めて見てみると面白いなと思うよね。

ひろ 文化的な知識も採点に影響するというのは、なんかスポーツの幅をだいぶ広げてきた感じですよね。

武井 そうだね。

ひろ 果たして、それはスポーツの大会の審査基準としてふさわしいのかという気もしますけど。

武井 もうスポーツの定義が広がっているじゃん。ゲームだってeスポーツといわれる時代だし。

ひろ 武井さん的には寂しくないんですか?

武井 もちろん、100mの世界最速を決めるのも楽しいよ。でも、身体能力以外の要素がある競技も面白い。いろんな知識や能力が必要になるということは、そのぶん可能性が広がるわけだから。新時代のスポーツってそういう広がりも楽しいし、もっといろいろ競い合えるといいよね!

***

■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■武井 壮(So TAKEI) 
1973年5月6日生まれ。東京都出身。タレント、元陸上十種競技日本チャンピオン。格闘技、野球、ゴルフなど様々なスポーツの経験を持つ。公式Webサイトは【https://gogotakei.com】、公式Xは【@sosotakei

★『ひろゆきの「この件について」』は毎週火曜日更新!★