「昔のコント番組もお金がなかったらしく、 いろんな工夫をしていたのを知って、 『なら今でもできるじゃん!』と思って。 コントがもっと見たいって方がいたら、 『大丈夫です、僕が動くんで』と思ってます」と話すハナコ秋山寛貴さん 「昔のコント番組もお金がなかったらしく、 いろんな工夫をしていたのを知って、 『なら今でもできるじゃん!』と思って。 コントがもっと見たいって方がいたら、 『大丈夫です、僕が動くんで』と思ってます」と話すハナコ秋山寛貴さん

2018年の『キングオブコント』で優勝し、現在はバラエティ番組やラジオなどで活躍するハナコの秋山寛貴(ひろき)さん。お笑い芸人になるまでと、その後を綴った初のエッセー集『人前に立つのは苦手だけど』に込めた思いとは?

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――今回の本は『小説 野性時代』電子版の連載をまとめたエッセー集です。連載を始めたときのお気持ちは?

秋山寛貴(以下、秋山) 芸人の本って、超貧乏だったとか超ヤンチャだったとか、壮絶人生のほうが読み物として面白いと思ってるんですけど、僕の人生は全然そんな感じじゃなくて、石橋を叩いて「やめとくか」ってくらいの性格なので、正直、ちゃんと読んでもらえる内容になるか不安でした。

でも、SNSで読者の感想を見ていたら、とある回で「今回は秋山さんをすごく言い表してる」ってコメントがあって。その回は、地方営業の楽屋でも僕がiPadを開いて作業してるのを、よく芸人たちに「ストイックだな~」ってイジられるけど、ひときわ不安なだけだって書いた回で。

そういうことを言うと、周りから「いや、『キングオブコント』で優勝してるじゃん!」とか言われるんですけど、僕としては「6年前の成果を今引き合いに出されてる時点で......」って思っちゃう。今回の本は、そういう性格だってことを初めてはっきり書きました。 

――石橋を叩いても渡らない性格はコントにも表れている?

秋山 めっちゃライブに出てたときは丁寧に修正するほうだったかもしれないです。ネタをやった直後に、岡部(大)と「あそこ早かったかもな」とかって反省する。それで、またそのネタをライブにかけて「あそこ良くなったな」とか「前はウケたところ、なんでスベったんだ?」って仕上げていました。

今回、エッセーを書いて思ったのは、ネタはライブですぐに反応が返ってきて調整できるけど、エッセーだと提出したら更新できないからめっちゃ不安になるってこと。今回の本で初めて読む方もいると思うのでソワソワしてます。

けど、やっぱ正直な感想が聞きたいです。コントの相談をするときも、ストレートに言ってくれる先輩や後輩のほうが信頼できますし。自信がない分、やたらホメてくる人って疑っちゃうんですよ(笑)。

――20年の『お助け! コントット』『東京 BABY BOYS 9』(共にテレビ朝日)、翌年に始まった『新しいカギ』(フジテレビ系)は、秋山さんにとって念願のユニットコント番組だったと思います。

秋山 コント番組が"冬の時代"といわれていたときに、バナナマンさんや東京03さんの単独ライブをサポートしている作家のオークラさんが「コント村」(19年に秋山、元ゾフィーの上田航平、ザ・マミィの林田洋平、かが屋の加賀翔の4人で結成されたユニット)のメンバーをおすし屋さんに誘ってくれたんです。

そこでオークラさんから「テレビコントやりたいんだったら、『やりたい』って言ってったほうがいい」とアドバイスされたのが大きいと思います。

それで、「コント村」の今後の目標を10ステップに分けてプレゼンするっていうトークライブをやって。半分本気、半分冗談で「『コント村』でライブツアーをやって、後にそれがアメリカで放送されて」みたいな目標を恥ずかしげもなく語ってたんですよ(笑)。

その4つ目ぐらいに「コント番組を作る」っていうのを入れてて、それがかなり早い段階で決まったから「言霊ってあるんだ......」って驚きました。番組は短い期間で終わりましたけど、すごくいいトライ&エラーができたし、今もその経験は生きてます。

『新しいカギ』ではスタジオコントもロケ企画もやらせていただいて。僕はどっちもすごい好きなんだけど、お金がかかるからコントが徐々に減ったと思うんです。

レギュラーの初回でやった「屋台崩し」(コント「岡部のプロポーズ」の最後で建物が倒れる大仕掛け)にしても、柱の一本一本がとんでもなく高い。しかも、数百万円かけて1本のコントを作っても、45分流したら終わり。

一方で、「学校かくれんぼ」(『新しいカギ』のメンバーらが学校に隠れて生徒たちが探し出す人気企画)なら、丸々1時間いけたりする。コスパ的にも企画モノは強いんだなって改めて気づきました。

ただ、放送作家の内村宏幸先生の『ひねり出す力"たぶん"役立つサラリーマンLIFE!術』(集英社クリエイティブ)を読んだら、僕が大好きだった『笑う犬』シリーズ(フジテレビ)の頃から「お金がないので、用意できるのは電柱と自販機だけです」とかって言われてたらしくて。

それで生まれたのがネプチューンの堀内健さんと遠山景織子さんのギャル男とギャルのコント「トシとサチ」。今思うと、あれって自販機の前に座ってなんでもない話をするだけなのにめっちゃ面白いじゃないですか。夜の設定で、たまに車のライトが通り過ぎるだけだからコスパもいい。

ほかにもお金をかけない工夫があるのを知って「なら今もできるじゃん!」と思って。だから、「もう少しコントを見たいな」って思ってる方がいたら「大丈夫です、僕が動くんで」みたいな気持ちもあります。

演出の方も「『学校かくれんぼ』という強いコンテンツが1本できたからこそ、コントを差し込んでいきましょう」って言ってくれてるので。

――『なりゆき街道旅』(フジテレビ系)などの進行役はご自身に合っていると思いますか?

秋山 よく初めてお仕事するスタッフさんが「秋山さんツッコミですよね」と進行役を振ってくださるんですよ。ただ、僕ってコントでもズバズバさばくタイプじゃなくて。

それで悩んだ時期もあったんですけど、アメリカに目を向け始めた元ゾフィーの上田さんから「欧米ではMr.ビーンみたいなコミカルなキャラクターをファニー(ボケ)、隣にいる一般人をストレート(普通の人)っていうらしい」って話を聞いたときに「僕はストレートをやってたんだ!」ってすごい腑に落ちたんです。ツッコミじゃないポジションがあることに安心したんですよね。

今回の本は、そんな自信のない不器用な僕の性格をあらわにしています。「芸能界って華やかで、自分とは生きてる世界が違うよな」って斜めからタレントを見ている方とかに、「おまえ、こっち側の人間じゃん! そういうやつもいるのか!」って思ってもらえたらうれしいです!

■秋山寛貴(あきやま・ひろき)  
1991年生まれ、岡山県出身。菊田竜大、岡部大とお笑いトリオ「ハナコ」を結成。トリオの中ではネタ作成を担当。ハナコとして、「AbemaTV presents ワタナベお笑いNo.1決定戦2018」優勝。『キングオブコント2018』優勝。趣味はアートで、自らイラストを描いて個展も開催している。文化放送『ハナコ秋山寛貴のレコメン!』でパーソナリティを務める。『新しいカギ』(フジテレビ系)メンバーとして、『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』で総合司会を務めた

■『人前に立つのは苦手だけど』 KADOKAWA 1595円(税込)  
お笑いトリオ「ハナコ」のネタ作りを担当する秋山寛貴氏による初のエッセー集。文芸小説誌『小説 野性時代』(KADOKAWA)で2022年11月から連載していたエッセーをまとめた一冊で、お土産屋を営む父との話、高校時代の美術部の話、初めてのひとり暮らしの思い出といった話から、『キングオブコント2018』優勝時の秘話まで、自ら描くオリジナルイラストとともにバラエティに富んだエピソードが綴られている

『人前に立つのは苦手だけど』 KADOKAWA 1595円(税込) 『人前に立つのは苦手だけど』 KADOKAWA 1595円(税込)

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鈴木 旭

鈴木 旭すずき・あきら

元バンドマンのフリーライター/お笑い研究家。1978年生まれ、静岡県出身。多くのメディアでコラム、インタビュー記事を執筆。著書に『志村けん論』(朝日新聞出版)

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