『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス36巻を熱く語る 『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス36巻を熱く語る

『週刊少年ジャンプ』での連載時代『キン肉マン』第1期シリーズもこの巻でラスト! 

8年の長きにわたって歌い紡がれてきた超人たちの友情讃歌、とうとうここに完結です!!

●キン肉マン36巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX

★★★★★ 星5つ中の5

●経歴に傷がないのは、清廉と同義ではない

長かったキン肉マン・チームとフェニックス・チーム両軍による闘いも、ここまで来てついに残ったのはその両チームの代表たるただふたり。

つまり、この36巻はまさに最終巻と呼ぶにふさわしく、キン肉マンとフェニックス、どちらが王位を継ぐかをかけての、小細工なしの1対1の真っ向勝負1冊かけて描かれていくわけですが、シーンとしては前巻ラスト、ビビンバが競技場スタンドから身を投げ、砕けて醜くなったその顔面にキン肉マンが奇蹟の光"フェイス・フラッシュ"を照射。彼女の傷を治癒していくところから始まります。

以前にも触れましたが、この「キン肉星王位争奪編」がこれまでの他のシリーズと決定的に違うところは、この闘いが王者を競うものではなく、王位を競っているものであるという点です。

要するに、相手をただ倒して勝てばいいだけではない。肉体的な強さは"王"としての資質の一部でしかないのです。その他たくさんある資質を随所で示しつつ、闘いに勝利できてはじめて、王として認められるというわけです。

そういった背景もあり、このシリーズはリング内だけではなく、場外でのアクシデントが発生する頻度も高く、"試合"と"試練"がこうして同時にやってきます。

そこにどう対処していくかという描写にも大きな比重が置かれていると思うのですが......ビビンバの美しさが失われた瞬間、フェニックスは掌(てのひら)を返すようにそれまでささやいていた彼女への興味を示さなくなってしまいました。

キン肉マンはそれでも、懸命にビビンバを支えようと手を差し伸べ、奇蹟の光で彼女に救いをもたらしたのです。結果、ビビンバの顔は元通りに戻り、かくしてキン肉マンはまたもや場外での試練をクリアしました。先の35では最後の壁であった師プリンス・カメハメを越え、この36巻ではヒロインの危機まで救った。

そうやって次々と様々な試練を跳ね除け乗り越え、王への階段をキン肉マンが順調に駆け上り続けていくにつれ、それまで盤石の経歴を誇り続けたフェニックスに足りなかったものが徐々にあぶり出されていくというこの対比!

そうなんです、フェニックスは記録に残る経歴だけを見ると、大きな失敗や汚点もなく、とても綺麗です。王という地位を得る上ではむしろ、フェニックスのほうがクリーンで適格なのではないかと思えるほどです。では、フェニックスの経歴はなぜそれほどまでに綺麗なのか......? 

それは汚いものをすべて切り捨ててきたからです。土が付きそうなもの、自分を裏切りそうなもの、醜(みにく)くなったもの、用なしになったもの、すべて自身が実害を被(こうむ)る直前に切り落として清潔を保ってきたのがフェニックスのクリーンさの正体なのです。

一方のキン肉マンは、救いを求める者をどんな状況でも決して切り捨てやしません、すべてを受け入れる。傍(はた)から見れば、その姿がドジでマヌケに映ることもあるでしょう。味方だけならまだしも、なぜ敵にまで情をかけるのかと首を傾(かし)げられることもあるでしょう。

人生の評価が減点方式なら、王にふさわしいのは、より失敗をしてこなかったフェニックスなのかもしれません。しかし、今......最終決戦の舞台となったここ大阪城には、かつてキン肉マンの前に立ちはだかった数々のライバルたちが駆けつけています。

一方、フェニックスの背後には自信を傀儡(かいらい)にしようとたくらむ邪悪の神たちの姿しかありません。

フェニックスはそんなキン肉マンの堂々とした振る舞いを目の当たりにして、本当に王にふさわしいのは自分ではなく、キン肉マンなのではないかとまで心の中で自問自答し始めます。

そこへ邪悪五大神が結託、なんと全員がフェニックスに力を貸すというまさに最終手段に打って出て、究極のパワーアップを果たすのです。

思えば『キン肉マン』という作品は、これまで主人公であるキン肉マン側は常に挑戦者側で、怖い相手に勇気を振り絞って立ち向かっていくという作品でした。しかし、今や立場は大逆転。キン肉マンの強さに恐れをなしたラスボスが神々の力を借りて挑んでくるのです。完全に主人公とラスボスの役割が逆転してしまいました。ついにキン肉マンもここまでたどり着いたんだと、これまでの長い道のりを感じずにはいられない感慨深い演出だと思います。

ややもすると、次第に追い詰められていくフェニックス側を読者も少し応援したくなってくるような絶妙な最終展開。そんな流れに拍車をかけるように、ここから先は挑戦者フェニックス視点で語られていくことが多くなっていったようにも思います。

●ラスボス渾身の告白を、告白返しで潰す残酷さ

まず、フェニックスが繰り出したのはキン肉マンと同等の王の証"フェイス・フラッシュ"。続けて邪悪神の力を借りて繰り出してきたのが、キン肉族三大奥義"マッスル・インフェルノ"。あえて彼は、次々と新たな"王の証"を繰り出し、不死鳥のごとく取り戻し、何度でも蘇ってはキン肉マンの前に最後の壁として立ちはだかってくるのです。キン肉マンもそれに負けじと応戦してきます。

まさに炎の逆転ファイターVS邪悪なる不死鳥。しかし、その不死鳥のごときフェニックスの闘い様は、実はこれまでキン肉マンが散々、他の悪の超人たちに向けてやってきたことのようでもあって、やはりこのふたりは同じ日に生まれた運命のライバル。似た者同士であるという思いも感じずにはいられません。

しかし、キン肉マンが何度も立ち上がるのは他者のためであり、フェニックスが何度も立ちあがるのは己のため、その違いだけは拭(ぬぐ)いようがないんですよね。そこが如実に描かれるのが、その後のフェニックスの出生の告白。貧しい家に生まれ、幼き日からキン肉マンとの待遇の差に抱き続けた人生の恨みつらみの数々です。 貧しい幼少期を過ごすフェニックスのもとに、裕福なキン肉マン一家の高級車が止まる 貧しい幼少期を過ごすフェニックスのもとに、裕福なキン肉マン一家の高級車が止まる しかし、これを聞いたキン肉マンは、その恨みを圧倒的に凌駕するほどの壮絶な幼少期を語ります。幼き日にブタと間違われて地球に捨てられ孤児になり、人間たちにいじめられながら、それでも人々を恨むことなく強くたくましく生きてきた。恵まれない生い立ちを盾に悪行を正当化してきたフェニックスを黙らせる完璧なアンサーです。

少年漫画では、悪役が悪の道に走った理由が明かされ読者の共感や同情を得る、というのは古今東西、様々な作品でやられてきたことだと思います。しかし、その悪役以上に"悲しい過去"を主人公が背負っていたとしたら......? 怒りや恨みをパワーに変えてきた悪人がヒーローに絶対勝てない理由がここにあります。

もはや、"少年漫画"のアンサーともいえることをキン肉マンは教えてくれました。しかも初期にはギャグとしてコミカルに描かれてきたエピソードの数々が、最終所のラスボス・フェニックスを黙らせる最強のアンサーとしてぶちかまされた! いやはや、やはり『キン肉マン』は恐ろしい作品です。こんな神がかった展開をやられてしまったら、もはやフェニックスは立つ瀬がありません......。

しかも、追い打ちをかけるように登場するフェニックスの母、シズ子です。母親に改心するように説得され、わずかに心が揺らぎますが、それでも不死鳥は王の座をあきらめません。キン肉マンの兄である、あのアタルも苦しめた超人牛裂き刑レイジング・オックスをここで発動! 江戸時代の罪人処刑法を超人プロレス技へと発展させたという発想の泉から湧き出てきたようなこの技が、このクライマックスで飛び出してきたのがまたニクい。 ここへ来て追い込まれたキン肉マンを最後に支えてくれたのは、彼がこれまで最も大事にしてきた仲間たちでした。大阪城へ応援に駆けつけた仲間がズラリと見開きで描かれるシーンは圧巻の一言! そして彼らの声援のみならず、キン肉アタル、ジェロニモ、ロビンマスク、ネプチューンマンといった死んだ仲間たちまでもがキン肉マンのために動くのです。

この世ではない邪悪大神殿にたどり着いた彼らの力で、封印されていたキン肉マンの火事場のクソ力が解放! キン肉マンは見事、完全復活を果たしました!

「長かった戦いよさらば!!

この名言とともにキン肉マンは最後の奥義、マッスル・スパークを決めて圧倒的な無敵感でフェニックスを撃破。ミラクル、ラッキー、これまで幾度もささやかれてきたそんな単語は何ひとつ浮かばない、ラスボスへの完全勝利で最後の闘いを終えたのです。

その余韻のまま、後日談すらなくリングの上でフェニックスを抱きかかえて終わるラストシーンのなんと詩的にして潔く爽やかなこと。第1巻の時点でこのラストを想像できた人がいたでしょうか。それなのに......とてもこの作品らしい! 不思議とそう思える最高の終幕だと思います。

最後に、昨今の少年漫画は、ラスボスを倒した後の平和となった世や、登場人物のその後を描く、いわゆる後日談で締めることが多いですが......なぜ『キン肉マン』ほどの超大作がエピローグを描かずに終わったのでしょうか。

これは僕の推測でしかありませんが、祝賀会やド派手な凱旋パレードなんて始めたら必ずそこにまた新たな敵が現れてしまうからではないでしょうか。永遠に闘い続ける、それが『キン肉マン』という作品なのだから......。そんな想像にも思いを馳せつつ、第1期の最終巻、この36巻レビューをここに終えたいと思います!(涙)
*37巻以降もレビューしていきます!

●『キン肉マン』4コマ

●こんな見どころにも注目!

この巻は、どうしてもキン肉マンとフェニックスの動向だけに目が行きがちですが、その中にあって僕がホロリとせずにはいられないのがこのオメガマン最期のシーン。ホンの少し前の第33巻レビューで語らせていただいたように、僕はオメガマンという超人が大好きなのですが、キン肉マンを倒すべく現れた最後にして最強の刺客とあれだけ鳴り物入りで出てきた彼が闘いの中で逝くでもなく、まさか予言書を燃やされ消滅していくだけのこんな哀れすぎる切ない最期を迎えるだなんて......。短いシーン、小さなコマではありますが、ここも間違いなく僕の脳裏に強烈に刻まれた名場面でありました。

おぎぬまXOGINUMA X
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中

●原作生誕45周年&アニメ放送直前記念3冊発売中!!!

●漫画サイト史上最強機能!! 超人・技検索追加!!

●毎週日曜23:30よりCBC/TBS系列アガルアニメ枠
TVアニメ『キン肉マン』完璧超人始祖編放送中

アニメーション制作:Production I.G
原作:ゆでたまご(集英社『週刊プレイボーイ』・『週プレNEWS』連載中)
監督:さとう陽 シリーズ構成:深見真 
キャラクターデザイン:丸藤広貴 音楽:高梨康治

●TVアニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』超豪華声優陣インタビュー&PV

【漫画あり】もしも週刊誌の事件記者が「キン肉マン」の事件簿を書いたら...
集英社オンラインでは「ミートくんバラバラ事件」を特集!


コミックス78巻発売記念!!
昨年のM―1チャンピオン・錦鯉の「キン肉マン漫才」&キン肉マントークをYouTube「ジャンプチャンネル」で配信中!