日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! ロシア発、チャイコフスキー夫妻の愛憎と狂気の物語!

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『チャイコフスキーの妻』

評点:★3点(5点満点)

©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES - CHARADES PRODUCTIONS - BORD CADRE FILMS - ARTE FRANCE CINEMA ©HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES - CHARADES PRODUCTIONS - BORD CADRE FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

構造も画作りも面白いがドラマは平坦

現在のロシアは同性愛者が非常に生きづらい国で、悪名高い「同性愛宣伝禁止法」を筆頭に、LGBTQ当事者に対する(リンチや殺人を含む)ヘイトクライムも頻繁に起きている。

そんなロシアが誇る大作曲家チャイコフスキーは同性愛者だった。スターリン時代以降のソ連そしてロシアにとってこれは都合が悪い話で、そこで彼らは「チャイコフスキーは異性愛者だった」と喧伝した。

が、本作はまさに同性愛者としてのチャイコフスキーと、彼に恋い焦がれ強引に結婚に持ち込んだ「妻」アントニーナの確執に焦点を絞った作品であり、一方通行の「愛情」が双方の精神を蝕んでいくさまが描かれる。

それぞれの台詞や手紙の内容はもとより、劇中に登場する記念写真など、細かいディテールに至るまで丁寧に史実をなぞりつつ、アントニーナが自ら仕掛けた罠の中で身動きがとれなくなっていく過程には映画独自の解釈と想像力が活かされており、絵画的な画作りと相まって見応えは十分ある。

悲惨でカオティックな市街地描写の数々にも多様な解釈の余地があり、それがロシアの「現在」を浮かび上がらせる仕掛けになっているところも良いが、肝心のドラマにさほど起伏がないのが惜しい。

STORY:同性愛者だという噂が絶えなかったロシアの天才作曲家ピョートル・チャイコフスキー。彼は熱烈に求愛してくる娘アントニーナと世間体のために結婚するも、結婚生活はすぐに破綻。アントニーナは狂気の淵へと堕ちていく......

監督・脚本:キリル・セレブレンニコフ
出演:アリョーナ・ミハイロワ、オーディン・ランド・ビロンほか
上映時間:143分

全国公開中

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