SFとジャッキー・チェンを原点にシリーズに新風を運び込む、杉原輝昭パイロット監督 SFとジャッキー・チェンを原点にシリーズに新風を運び込む、杉原輝昭パイロット監督

『仮面ライダーゼロワン』でシリーズ初のメイン監督を務め、以降の令和ライダー全作に監督として携わる杉原輝昭が、最新作『仮面ライダーガヴ』にかける思いとは?

■無理難題だからこそ前のめりになれる

――第1話はグミ、第2話ではポテトチップを食べて得た力で、お菓子が大好きな主人公のショウマが仮面ライダーガヴに変身。お菓子の力で変身するガヴは、歴代ライダーの中でも前代未聞です!

杉原 プロデューサーから「仮面ライダーとお菓子」という組み合わせを最初に聞いた瞬間、やっぱりパッと結びつかないし、正直どうすればいいんだろうと思いました。仮面ライダーには戦いがありますけど、お菓子には戦いとは無縁のハッピーなイメージが強いですから。

でも、令和になってもう6作目だし、前作までとは違う新しいことをしたいという気持ちは、僕の中にもともとあったんです。だとしたら、仮面ライダーとお菓子という組み合わせは、ちょっと面白いんじゃないか。そう感じて、前のめりになって取り組み始めました。

――もしかして、無理難題に燃えるタイプですか?(笑)

杉原 そうなんです。ドMかもしれないですね(笑)。無理難題もそうですし、斬新すぎること、誰もやってないことに燃えるんですよ。僕が昔、この道を目指そうと思ったきっかけが、いろんな映画を見て、今まで見たことのない、斬新でとんでもない世界観に魅了されたことなので。

ポップなカラーリングと食べるお菓子によって形態が激変するのがガヴの特徴だ ポップなカラーリングと食べるお菓子によって形態が激変するのがガヴの特徴だ

――特に魅了されたのは?

杉原 荒唐無稽というか、それまでの自分が想像さえしていなかった世界を表現して、ワクワクさせてくれる作品です。例えば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター2』『エイリアン』。冒険活劇として最高に面白い『インディ・ジョーンズ』や、『ポリス・ストーリー』などのジャッキー・チェン作品も大好きですね。

観客の想像を超える世界観を頭の中でイメージして、それをリアルに映像化するって、本当に難しいことだと思うんです。でも、それをあそこまで魅力的な作品として見せられたら、僕もやってみたいって憧れずにはいられなかった。

『仮面ライダー』シリーズで監督をさせてもらえるようになった今も、誰も見たことのない、ワクワクする世界観の映像化が、自分の中での大きなテーマのひとつです。

――確かにお菓子が戦いの道具になるなんて想像もつかないし、ワクワクしますよね。

杉原 まったくそう。だから今すごく燃えています。

■仮面ライダー1号と共通項が多いガヴ

――主人公のショウマは、謎に包まれた異世界から人間の世界にやって来た青年です。

杉原 今作は、ショウマが人間界でいろんな人と出会い、自分の居場所を見つけて成長していく物語です。実はここ何年かの作品の中では、仮面ライダー1号との共通項が多い作品だとも思っています。

――というと?

杉原 1号はショッカーによって改造人間にされますが、ショウマも人間ではない知的生命体・グラニュート。どちらも変身前から人間ではないという意味で、周りの人間とは異なる"孤独な存在"です。

また1号はショッカーから与えられた力でショッカーを倒す。ショウマは、人間をさらう同じ種族のグラニュートを倒す。そのあたりの設定も、1号とガヴはリンクしています。

主人公のショウマは食べることが大好き。特に人間界のお菓子が大好物 主人公のショウマは食べることが大好き。特に人間界のお菓子が大好物

ショウマがお菓子を食べると生まれる眷属(ケンゾク)="ゴチゾウ"(写真)たちでガヴに変身し、闇菓子を求めるグラニュートから人間界を守ろうとする ショウマがお菓子を食べると生まれる眷属(ケンゾク)="ゴチゾウ"(写真)たちでガヴに変身し、闇菓子を求めるグラニュートから人間界を守ろうとする

――「ショウマが人間界で居場所を見つけていく物語」という言葉がありました。言い換えると、どちらも"人ならざる者"がアイデンティティを見つけていく物語というか。

杉原 そうです。あとは、プロデューサーの武部(直美)さんや脚本の香村(純子)さんとも話したんですけど、ショウマが戦う力を得てそれを使うためには、どういうハートを持っているかが重要だと。

ただ力を持っているから、変身して戦う。そうではなく、どんな敵にやられても諦めずに何度でも立ち向かっていく勇気があるからこそ、仮面ライダーに変身して戦える。そういう描き方も、1号とガヴは共通点があると思います。

――『仮面ライダーガヴ』の設定が斬新だからこそ、原点を意識した部分もありますか?

杉原 それはあるかもしれません。ただ、今作に限らず1号という原点は、どの作品の監督も常にどこかで意識しているものだと思いますけどね。

――杉原監督が、作品づくりで心がけているのは?

杉原 小学生ぐらいの子供がメインターゲットなので、難しい表現をやりすぎても伝わりづらいし、かといって簡単な表現だけだと、子供に対して失礼だと思うんです。

だから、わかりやすく伝わる部分もありつつ、僕が子供の頃に影響を受けた映画のように、細かい設定や伏線、深みや重みのあるドラマも盛り込んで、子供の感性の可能性に訴えかけたり、大人になって見返したときに新たな発見がある作品にしようと、監督として心がけています。

――撮影現場では、どんなことを大事にしていますか?

杉原 『仮面ライダー』シリーズでは、演技経験の少ない若いキャストが多いです。それもあって、監督として納得できるシーンがなかなか撮れない場合もあります。それでもとにかく根気強く、若いキャストたちと話し合いながら、時間をかけて丁寧に、成長していく芝居をしっかり撮っていく。

それが、大河ドラマと同様に1年間をかけて撮影する『仮面ライダー』シリーズでは大事だし、特徴で魅力でもあるし、監督としての醍醐味だとも思います。

――今後の展開が楽しみです。

杉原 物語的にはどんどんディープでエグい人間ドラマが展開されていきます。隠されていたショウマの過去なども明らかになりますが、映像はガヴらしくポップでカラフルに描いていきたいですね。

●杉原輝昭(すぎはら・てるあき)
1980年生まれ、岡山県出身。大学卒業後、『仮面ライダー555』に助監督として参加し、以降は東映特撮作品を中心に助監督や監督として参加。主な監督作品は、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』『仮面ライダーゼロワン』『仮面ライダーギーツ』など

■『仮面ライダーガヴ』
異世界からやって来た青年・ショウマが、人間界で少年と出会ったことをきっかけに仮面ライダーガヴに変身する力を得て、人間たちを襲う知的生命体・グラニュートとの戦いを繰り広げる。毎週日曜午前9時からテレビ朝日系列で放映中