「文字エフェクト」など斬新な手法で革命を起こす、特撮アクションの若き新旗手、藤田 慧監督 「文字エフェクト」など斬新な手法で革命を起こす、特撮アクションの若き新旗手、藤田 慧監督

『仮面ライダーギーツ』で初めてアクション監督を務め、若さあふれる感性で注目された藤田 慧(さとし)が新作『仮面ライダーガヴ』へ再登板! その意気込みから特撮アクションへのこだわり、そして今後の展望に迫った!

■ポップと野性味の共存を図りたい

――最初に"アクション監督"というお仕事について教えてください。

藤田 作品や監督によって違いはありますが、今回は主にアクションシーンの演出から編集まで、杉原監督からアイデアをもらいながらひと通りを担当しています。あと監督の演出をサポートしたり、安全面だけを受け持つこともあります。

ある場所で監督が難しい撮影を行なう場合、どんな設備と何人の補助が必要か指示するというような。僕はスタントマンで、特に安全のことはよくわかっているので。

――『仮面ライダーガヴ』はお菓子の力で変身する仮面ライダー。アクションシーンで意識していることは?

藤田 ひと言で言えばポップと野性味の共存ですね。お菓子だけに仮面ライダーのデザインはカラフルでぷにぷにしていたりとすごくポップ。アクションではそのポップさを出すため、文字エフェクトを出しました。

グミのフォームでパンチをするときは「ムニュ」、ポテチのフォームで剣を使うときは「ザク」といった具合に、それぞれ絵文字が画面に現れる。視覚的に楽しいと思います。

2号ライダーはチョコを身にまとった仮面ライダーヴァレン(左)。今後のふたりの出会いにも注目だ 2号ライダーはチョコを身にまとった仮面ライダーヴァレン(左)。今後のふたりの出会いにも注目だ

――絵文字をアクションの一部としてしまうとは斬新です。

藤田 それでいて今回の仮面ライダーは敵と同じモンスター界から現れたという設定なんです。なので、動き自体は野性味を意識しました。低い姿勢のファイトスタイルをとったり、変身ポーズで前に倒れ込む動作を入れたり。そうしたポップさと野性味の振れ幅を楽しんでもらえたらいいと思いますね。

――アクションといえば現在はCGが欠かせませんが、今回、生身のシーンとのバランスはいかがですか?

藤田 めちゃくちゃ気を使っています。視聴者の方が見て「ここは肉弾戦だ」「ここはCGだ」などとわからないよう、グラデーションにして、融合を目指したりとか。

――どちらかには偏らない?

藤田 そうですね。特に最近はCGが進化し、しかも仮面ライダーは面をかぶっているので「アクションはすべてCGでいいのでは」と言われることもあります。でもそこには陥らない。

例えば第1話で巨大なコンテナが並ぶ場所で戦うシーンがあるのですが、実際に高いコンテナの上に立ち、塀を蹴るなど激しく動いています。不思議なもので、そうすると画面から演者やスタッフの熱が伝わってくるし、CGも生きてくる。

僕は『仮面ライダー』シリーズが50年以上守り続けてきたスーツアクターのいる現場を大切にしたいんです。CG合成は不可欠だけど、生身のアクションをその歯車にしちゃいけない。令和だからこそ、デジタルだけでなく、生身の良さも大事に、絶妙なバランスを図っているんですよね。

■ジオラマを作りたいと思ってほしい

――ある記事によれば、藤田監督が『仮面ライダーギーツ』で初めてアクション監督を務めたとき、仮面ライダーを人間の数倍のパワーに設定して演出されたとか。

藤田 仮面ライダーは1年続く番組なので、どうしてもパワーインフレが進むんです。でも最初から強すぎると視聴者に響かない気がするので。

――では今回も?

藤田 同じ程度に考えています。圧倒的なパワーがあるから、なんとなく勝っちゃった的な展開が好きじゃない。「瞬間移動」や「バリア」などパワーゆえの圧倒的な技も今は極力抑えたいと考えています。

――少し弱いくらいがいい?

藤田 どちらかといえばそうですね。あるいは弱点やつたなさを出すとか。今回でいえば、ガヴガブレイドという剣がベルトから出てきます。ただそれをカッコよく抜くのではなく、ポロンと落とし、慌てて手に取るんです。

――あえて、つたなさを出したと。

藤田 そう。カッコいい演出を引き算で削って、むしろぶざまな姿を見せているんですよ。でもだからこそ、必死さや頑張る姿が伝わって、視聴者は一緒にドキドキできるし、うまくいった瞬間はワクワクする。それがいいんです。何かと派手なものが記憶に残りがちですけど、求められているのは、そんな引き算じゃないかと思いますね。

ポテトチップフォームでの戦闘シーン。砕けずに威力が増すよう、絶妙な角度で斬撃を連発。仮面ライダーのフォームに合ったアクションが考案されている ポテトチップフォームでの戦闘シーン。砕けずに威力が増すよう、絶妙な角度で斬撃を連発。仮面ライダーのフォームに合ったアクションが考案されている

――監督自身、アクションシーンを演出する上で最も大事にしているのは?

藤田 「まねしたい」「再現したい」と思わせることですね。例えば変身ポーズでいえば「子供が15分考えてギリできないレベル」のものを考えています。今回は右手でベルトのレバーを回しながら、左手を体の前方で大きく回す。最後のキメだけはわかりやすくしたけど、パッとはできないと思う。でもそれくらいがちょうどいい気がします。

――「15分で」というのは絶妙な気がします。一方「再現したい」とは?

藤田 わかりやすく言えば『機動戦士ガンダム』第1話のザクを刺すシーンのジオラマがあるじゃないですか。僕の演出したアクションシーンもあんなふうにしてもらえれば。自ら形に残したい、再現したいと心を突き動かすのがいいシーンの証し。

そのためにワンシーンに印象的なしぐさなり、必殺技の決めポーズなり、あるいはシチュエーションなど取り入れるよう意識しています。それこそ文字エフェクトなんてジオラマに向いていると思いますけどね(笑)。

――最後に今後のアクションの見どころは?

藤田 新しいアイテムや必殺技が登場するのはもちろん、あとはやはり主人公ショウマ役の知念英和くんらがどう成長していくかでしょうか。何より素直で、運動神経も高いから期待がかかります。アクションは仮面ライダー作品の中で最も生身で自由度の高い部分。1年を通し、進化し続けるところを毎週楽しんでもらえたらうれしいですね。

●藤田 慧(ふじた・さとし)
1987年生まれ、大阪府出身。2009年『仮面ライダーW』でスーツアクターとして活動開始。以降『仮面ライダーシリーズ』や『スーパー戦隊シリーズ』に多数出演。2022年『仮面ライダーギーツ』でアクション監督を務める。ジャパンアクションエンタープライズ所属

■『仮面ライダーガヴ』
異世界からやって来た青年・ショウマが、人間界で少年と出会ったことをきっかけに仮面ライダーガヴに変身する力を得て、人間たちを襲う知的生命体・グラニュートとの戦いを繰り広げる。毎週日曜午前9時からテレビ朝日系列で放映中