U-NEXT Piratesの船長・小林剛 U-NEXT Piratesの船長・小林剛
9月16日、Mリーグの2024-25シーズンが開幕した。年々その熱気は高まっており、麻雀好きはもちろん、麻雀(マージャン)のルールがわからないビギナーさえもとりこにしている。

Mリーグをきっかけに麻雀を打ちたくなってきたあなた、ツキや流れを意識して河で迷彩を作り、手役を重視。そんな"昭和式"の麻雀を打ってませんか? 膨大な対局データを基に構築された最新セオリーをインストールして勝ちまくれ! 昨年優勝チーム「U-NEXT Pirates(ユーネクスト パイレーツ)」の船長・小林剛が語る。【Mリーグは今が一番アツい!④

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■運重視の時代から確率重視の時代に

――小林プロは麻雀界きっての理論派として有名です。ロジック重視のスタイルはいつから身についたんですか?

小林 麻雀を始めた頃から、「これは確率のゲームだな」と感じていました。しかし昭和の頃はツキをいかに引き寄せるかという非科学的な考え方が一般的で、どうすれば運気が上がるかを考える人が圧倒的に多かったんです。

――確率論で麻雀を語るのは、当時は少数派だったんですね。

小林 そうですね。ところが1990年代後半にネット麻雀が登場したことで、膨大な数の牌譜データを分析して生み出されたセオリーが急速に広まりました。そして現在は、このスタイルに影響を受けたプロが多数派となっています。

――ツキのやりとりを語るのは、すでに古い考え方になっているわけですね。

小林 麻雀というのは牌がランダムに積まれているのが大前提で、ゲームの構造を正しく理解すれば、偶然は偶然として片づけることができるはず。要はそこで"良い偶然"を起こりやすくするために、使えるセオリーは使い、知恵を絞る方向に変わってきたんですよ。

所属するU-NEXT Piratesは2023-24シーズン、圧倒的な成績を残し優勝した。写真は左から瑞原明奈、小林剛、仲林圭、鈴木優(敬称略) 所属するU-NEXT Piratesは2023-24シーズン、圧倒的な成績を残し優勝した。写真は左から瑞原明奈、小林剛、仲林圭、鈴木優(敬称略)
――なるほど。つまりオカルト麻雀から科学麻雀の時代にシフトしたわけですね。では、具体的に最新のセオリーをレクチャーしてください!

小林 まず重要なのは、麻雀というのは4人のうちひとりしかアガれないゲームだということです。だから手作りのスピードが大切で、昔のようにできるだけキレイで高い役を作ろうとしていると間に合いません。時間をかけて三色同順や一気通貫を作るのも、リーチ、ドラ1でアガるのも点数は変わらないですから。

――確かにそうですね。

小林 また、昔はいかにも使えそうな牌を捨てて迷彩を敷く(待ち牌をわかりにくくする)のがはやっていましたけど、そんなことをするよりも、真っすぐ手作りするほうが確実です。迷彩も過去のものといっていいでしょう。

――リーチをしないダマテンは、今は推奨されなくなっているのでしょうか?

小林 誰よりも先にリーチをする「先制リーチ」の最大の効果は、ほかの人が普通に打てなくなることです。人の手作りを邪魔できるのは、大きなメリットだと思いますよ。自分のリスクを減らし、得点の可能性を高めるわけですから。

現代麻雀ではリーチの価値が見直されており、役なしで愚形の手牌でも先制ならリーチをかけたほうが得とされている 現代麻雀ではリーチの価値が見直されており、役なしで愚形の手牌でも先制ならリーチをかけたほうが得とされている
――まさしく先手必勝ですね。

小林 そうです。例えば2ピンと4ピンが手牌にあって、もし5ピンを引くことができれば3・6ピン待ちで平和(ピンフ)が作れるような場合(図参照)、昔はリーチをせずに待つのが主流でしたよね。

でも実際、都合よく5ピンを引くことなんて確率的には極めて低い。それに、待っているうちに3ピンをツモろうものなら、ツモのみの安手になってしまいかねません。だったらリーチをかけたほうがいいんですよ。リーチには一発や裏ドラというメリットもありますから。

――ほかに小林プロがオススメする役はなんでしょう?

小林 最近はホンイツを好む人が多いですよね。鳴いても2翻(ハン)役なので攻撃力もそれなりにありますし、プレッシャーを与えて周囲の手を遅らせられる可能性もあるので、守備力も高いといえます。

■昔とは大きく異なる役牌の使い方

――配牌に役牌があった場合は、積極的に集めに行くべきでしょうか?

小林 役牌の価値も、昔とはだいぶ変わってきました。特に後づけを狙うケースが増えていて、以前であればほかの牌を先に鳴いてしまったら、もう手持ちの役牌でしかアガれないから効率が悪いといわれていました。

しかし最近では、手牌を見て、トイツの役牌に頼らなければアガリは難しそうだと判断したら、チーから入ってもいいのではないかという考えが主流になっています。どのみちその役牌でしかアガれないなら、手が早いほうがいいですからね。

最近は、ペンチャンやカンチャンから先に鳴いて、いざというときはトイツの役牌を安全牌として逃げ道に使う手法も増えてきました。

――なるほど~。では、配牌で風(かぜ)牌が複数ある場合、自風を残し、オタ風から先に切るのが昔のセオリーでしたが、これについてはいかがです?

小林 白發中(ハクハツチュン)もそうですが、今は役牌から先に切っていく人が増えています。特にダブ東(トン)などは、親の手元にふたつ重なる前に捨ててしまったほうがいいということですね。

配牌として役牌に頼らざるをえないなら残すべきですが、そうでないなら1巡目で役牌を切ってしまったほうが、他人の手作りを邪魔できます。

どんな場面でも慌てず、大物手をアガっても手痛い振り込みをしても表情を変えないことから、小林氏は「麻雀サイボーグ」の異名を持つ どんな場面でも慌てず、大物手をアガっても手痛い振り込みをしても表情を変えないことから、小林氏は「麻雀サイボーグ」の異名を持つ
――それでもなかなか手作りが進まなかった場合、形式テンパイについてはどう考えるべきでしょうか。

小林 ほかの誰かがテンパイしているなら、昔はたかが1000点、1500点のために無理をするのは邪道とされていました。ところが最近は、振り込んでしまう確率とテンパイ料をもらえる確率を比較して、多少危ない牌を勝負してでもテンパイを狙うプロが増えています。

例えば、最後の一打さえ通せればテンパイで終えられる場合。20%ほどの確率で満貫を振り込んでしまうと仮定しても、残る80%の確率でテンパイ料を1500点もらえるのだとすれば、期待値的にはテンパイを選んだほうがいいとされています。

――なんだか強くなった気がします。ありがとうございました!

●小林剛 Go KOBAYASHI 
1976年生まれ、東京都出身。競技麻雀のプロ団体「麻将連合(マージャンレンゴウ)」に所属し、獲得タイトル多数。MリーグではU-NEXT Piratesに所属。プロ入りした20代の頃からツキや流れを根拠とした麻雀論に異を唱える、業界きってのデジタル派

友清 哲

友清 哲ともきよさとし

ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
Instagram【satoshi.tomokiyo】

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