キン肉マンの闘いは終わらない! 『週刊少年ジャンプ』連載終了から『週プレNEWS』連載再開に至るまでに描かれた、あまりにもアツすぎる短篇集を今回はレビューいたします!!
●キン肉マン37巻
レビュー投稿者名 おぎぬまX
●漫画構成力の凄みを存分に感じてほしい
今回レビューさせていただく37巻は『週刊少年ジャンプ』時代の最終巻である36巻が発売されてから実に22年ぶりに発売されたジャンプコミックスということになります。
もちろんその間は長年のファンの皆さんならご存じの通り、全くの空白期間というわけではなく、シリーズ作の『キン肉マンⅡ世』など他作品の連載をゆでたまご先生は手掛けられていたのですが、それらの連載中にも周年イヤー企画などの単発読切で初代キン肉マンの活躍が描かれることはたびたびありました。
それらの短篇を一挙にまとめたものがこの巻でして、これがもうとにかくアツい!
収録各話の内容が激アツなのもさることながら、本としての背幅まで激厚です! ページ数が通常のジャンプコミックスと比べてたっぷり1.3倍以上ある上、すべてが珠玉の一話完結エピソード。そこに収録された4つの読切はいずれも甲乙つけがたい名作ですが、今回はその中から2篇を選んで、ご紹介させていただきたいと思います。
まず最初に語らせていただくのは、本書の中で唯一、主人公のキン肉マンではなくウォーズマンが主役の短篇『ウォーズマンビギンズ 仮面の告白!の巻』です。
氷の精神で闘い続けた初期のウォーズマンがどうやって生まれたのか、その真相に迫るダークヒーロー誕生秘話なのですが、まずはその冒頭。あの名勝負......キン肉マン対ウォーズマン、超人オリンピック ザ・ビッグファイト決勝戦直前のウォーズマン陣営控室の様子から物語は始まります。
これまで、常にキン肉マン側の目線で描かれてきた闘いの内幕をウォーズマン側の視点から描いていく、という仕掛けが面白いですよね。この決勝戦にかけるウォーズマンの思いがいかほどのものであったか......というのが彼のモノローグで最初に語られたところで、そこから物語は遥か過去、ウォーズマンの幼少時代へと遡ります。
それはまだ、ソビエト連邦が存在していた時代、東西冷戦がますます激化していた1970~80年代前半にかけての話なのですが、そんな時代の社会情勢をウォーズマンの過去にうまく組み込んでいく構成がたまりません。
ちなみに、この読切が実際に描かれたのは2008年、DCコミックスやマーベル・コミックに代表される、いわゆるアメコミヒーローものが大人の視聴に耐えうる実写映画へ続々リファインされ一大ムーブメントを巻き起こしていった時期とも重なるかと思うのですが、この短篇もそのような重厚な雰囲気を強くまとっていますね。
プロローグが終わるやいなや、強烈なエピソードが絶え間なく羅列されていきます。のちのウォーズマンこと――ズタ袋の少年ニコライの出生の秘密にはじまり、永遠の強さを求めてロボ超人となった父ミハイルマンの過去、母の死、祖国からのスカウト、過酷な特訓、そして親友だと思っていたカマーンダスとの死闘から、運命を変えたロビンマスクとの出会いまで。
よくぞこれだけ多彩なエピソードを一話の中に詰め込んだもので、全57ページという大作なのに息つく暇がどこにもない。しかもそれらすべてを読者に飽きさせることなく一気に最後まで読ませ切る、まさしく達人の手腕に惚れ惚れしてしまいます!
ゆでたまご先生の漫画構成力の高さが存分に感じられる一話なのですが、それに加えてコマ割りの演出も素晴らしいんですよね。
僕が特に感動したのは、それまで頭にズタ袋をかぶって過ごしていたニコライ青年が祖国の用意した新たなコスチュームに身を包み、そしてページをめくった先で初めて、みんながよく知る今の姿となって描かれた一枚絵の大ゴマ。
彼が初めて"ウォーズマン"という名を授かった決定的瞬間を切り取ったこのカットは、思わず脳内で壮大なBGMが流れてきそうな映画的迫力を感じます。シビれるほどにカッコいい......。このあまりに印象的なカットからいよいよ彼の、ウォーズマンとしての人生が始まるわけです。
物語中盤からは、超人育成施設「狼の部屋」での地獄の猛特訓パートへ突入していきます。ほとんどデスゲームのような特訓方法でバッタバッタと死んでいく同期たち。苛烈に派手に描かれていくそんな日常の中にあって、不思議と心にしみるのはそれらと全く対極に位置している静かな要素、ウォーズマンの胸の内の優しさでした。
無口な彼が、落ち込む仲間を励ましたり、コップに生けている花の水が少なくなっていることに気付いて足しに行ったり、純粋無垢で繊細な彼の本質が随所に垣間見えるのは非常に心に残ります。
しかし結局、彼が身を寄せたその超人育成機関の裏には、「ロボ超人兵士量産」という国家の陰謀が隠されていたのです。怒りの脱走劇とともに、後半は『キン肉マン』らしく、超人オリンピック時代の初期ウォーズマンの恐怖を存分に思い起こさせる大迫力バトルもしっかり入って、最後は彼のさらなる未来を切り拓いてくれた師匠ロビンマスクとの邂逅シーンまで!
振り返ってみると、ウォーズマンという魅力あふれるキャラクターのすべてを詰め込み、新たに明かし、まとめあげたあまりに壮大なエピソード。僕自身、漫画家のひとりとして想定すると正味、本来なら前・後半に分けて100ページあっても描き切れるかどうか......というほどの内容の濃さだと思います。それを半分ほどの57ページで、大ゴマもふんだんに使った上でなんら過不足を感じさせることなく見事に収めきっています。
繰り返しになりますが、この読み切りのズバ抜けた構成力は、『キン肉マン』ファンだけではなく、多くの方々に体感していただきたいです。案外、このエピソードから『キン肉マン』という世界に触れるのもアリなんじゃないでしょうか!
●キン肉マンの闘いは終わらない......ゆえに
さて、ここまで語ってきた『ウォーズマンビギンズ』以外に収録された3篇は、いずれも『週刊少年ジャンプ』時代の最終シリーズ「キン肉星王位争奪編」以降のキン肉マンの後日談を描いたものなのですが、今回のレビューではそこからもう1篇『キン肉マンVSテリーマンの巻』を取り上げさせていただこうと思います。
なぜ僕がこのエピソードを選んだかと言いますと、まずこれを読むとついつい『キン肉マンⅡ世』を読み直したくなるんですよ。というのもそもそもこの話は『キン肉マンⅡ世』連載中に、その枠組みの中で過去のキン肉マンの活躍を思い起こす......というコンセプトで描かれた物語でした。
ゆえにここにはミートが話すその逸話の聞き手として『キン肉マン』には出てこないはずの彼らの息子、キン肉万太郎、そしてテリー・ザ・キッドも出てきます。
そのため、自ずといつもの『キン肉マン』とは似て非なる『キン肉マンⅡ世』らしさもこの読切内には感じられます。たとえばここに出てくるミートのファッション、無印『キン肉マン』の中では絶対に着ないようなオシャレな服装をしていたり、万太郎とキッドがオフの日にギャルにナンパしてたり、今となっては懐かしい平成の風景が詰まってますね。II世を未読の方にとっては、スグルやテリーと瓜二つの新世代超人たちが気になって仕方ないんじゃないでしょうか。
そして本題、ミートの口から語られるのは、過去に一度だけクローズドで実現したという幻の闘い、キン肉マンとテリーマンによる宿命の対決エピソードです。
王位争奪戦を制したキン肉マンが母星に帰ろうとする冒頭のシーン。多くの懐かしい超人たちが見送りに来ている中、テリーマンだけは不満顔。そして彼は宇宙船に乗り込もうとするキン肉マンをそのギリギリ寸前で呼び止め、激しく問い詰めます。何かやり残したことがあるだろう、このテリーマンとの闘いの決着をお前はつけていないだろう、と。
そこからふたりは限られた時間内で最後の対決の約束をかわし、そこに向けての特訓を各々始めるのです。
その闘いの顛末については、ここで僕が語り尽くすより実際に読んでいただくのがいいかと思い、割愛させていただきますが、読まれるにあたって、ぜひ意識していただきたい特筆すべき点があります。先ほどの『ウォーズマンビギンズ』とも共通しますが、物語の流れがいつものキン肉マン視点ではなく、主に挑戦者であるテリーマン側の視点で、〝対戦相手〟としてのキン肉マンが描かれているところです。
それだけに、キン肉マンもいつものようなふざけた素振りは控えめです。むしろ、念入りかつストイックなトレーニングをこなしながら、終始険しい表情。宇宙最強の超人レスラーは伊達じゃありません。対戦対手から見たキン肉マンって、実はけっこう怖いんだ......と感じさせる作りになっていてなかなか新鮮です。
そして着々と対戦準備が進んでいくのですが、対戦の当事者であるふたり以外にも注目です!いつもは一枚岩であるメインの正義超人たちが、今回は各々果たしてどちらのサポートに回るのか。結果、ウォーズマンとバッファローマンがテリーマン側に付くというサプライズ。
さらにスパーリングではあるものの、そこで繰り広げられた夢の対決......テリーマン対バッファローマンの闘いは見逃がせません。特に、テリーマンがバッファローマンに対して放つ、正真正銘のカーフ・ブランディング(仔牛の焼き印押し)は、ここでしか見られない必見のワンシーンでしょう!
以下は総括となりますが、この他の読切2篇『キン肉マンの結婚式!!の巻』『マッスル・リターンズの巻』も含め、例の王位争奪戦の後日談を描くどのエピソードにも共通していることはただひとつ。キン肉マンの闘いは決して終わらない!......ということです。
そして実際、この37巻発売当時には誰もが想像すらしていなかった大事件が約2年後、起こります。それがこの続きとなる新章「完璧超人始祖編」の開始による初代『キン肉マン』まさかの連載復活です!
次回以降はこのレビューでもついに、第38巻以降の新章について熱く語っていくことになります。改めまして来月からも引き続きお付き合いのほど、何卒お願いいたします!
●『キン肉マン』4コマ
●こんな見どころにも注目!
本編でも触れた『キン肉マンVSテリーマンの巻』の中からの一場面。とある事情によりテリーマンはキン肉マンの待つ試合会場へ遅れて来ることになるのですが、その到着シーン......これを見てピンとくるファンの方は多いのでは。そうです、かつて「7人の悪魔超人編」でザ・魔雲天との死闘後、ひたすら待ち続けるキン肉マンのもとに返ってきた、あの日のテリーマンの名場面と表情からポーズまでほぼ同じ!?
読切集であるこの巻には本作を熟知した人ならより楽しめる仕掛けが他にも満載。終わらないのはキン肉マンの闘いだけにあらず、ゆでたまご先生のサービス精神もまた不滅です!
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中