映画『若き見知らぬ者たち』で総合格闘家役を演じた俳優、福山翔大(左)と、UFC世界ランカーの平良達郎 映画『若き見知らぬ者たち』で総合格闘家役を演じた俳優、福山翔大(左)と、UFC世界ランカーの平良達郎

10月11日より全国公開の映画『若き見知らぬ者たち』で総合格闘家・風間壮平役を演じた俳優、福山翔大と、翌12日にアメリカで試合に臨む無敗のUFCファイター、平良達郎のスペシャル対談(全3回の2回目/1回目はこちら)。

映画の見どころのひとつに「リアルすぎる」と評判の格闘シーンがある。壮平が王者・ファビオ(ファビオ・ハラダ)に挑戦するタイトルマッチだ。〝格闘技の聖地〟東京・後楽園ホールを借り切り、フロア中央に金網に仕切られた試合場──オクタゴンを設置。観客を入れ、試合を追う動画クルーまでセッティングして撮影は行なわれた。国内の映画でこれほどまでに本格的なMMA(総合格闘技)シーンを撮影した映画はほかにないだろう。リング上の攻防のリアリティも白眉だ。平良と福山の対談は、格闘シーンを中心に話が弾んだ。

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──福山さんは、MMAのテクニックはどうやって学ばれたのですか?

福山 総合格闘技という競技はやったことがなかったので、トライフォース赤坂で最初はブラジリアン柔術のクラスに参加させていただき、それからキックボクシングとMMAと3つのカリキュラムで学ばさせていただきました。

──子供の頃は剣道(二段)やフルコンタクト空手をやっていたと聞きました。これらの経験は今回の役作りに活きましたか?

福山 小1から中2くらいまで極真空手をやっていました。剣道は小4~小5のときに始めて、中3まで部活動と町道場でやっていました。

平良 僕、沖縄生まれの沖縄育ちなので、よく空手をやっていると思われがちなんですけど、1ミリもやっていない(笑)。アメリカに行くと沖縄のことを知っている人が多くて、「お前はカラテキッドか?」と突っ込まれるけど、本当に未経験なんですよ(笑)。

福山 僕は空手ベースだったので、監督ともお話する中で、普通に(キックボクシング流の)ハイキックを打ち込むより(空手特有の)ブラジリアンキックを蹴っているほうがいいということになったんです。自分の役柄を膨らませるという意味でも、空手をやっていた経験は風間壮平を演じるうえで助けになったと思います。

MMAファイターを演じていて僕が最初に感じたことは、距離感や間合いを作ることがすごく難しいということ。打撃もタックルもあるMMAの試合では、最初に相手の体のどこかにポイントを定めて目線を決めると、流動的な動きに対応できないと思いました。剣道の目線もMMAに近いものがあって、小手と面と胴を意識しなければならないから、相手の全体をボヤッと見る。剣道で培った目線の作り方はMMAにも活きたのではないかと思っています。

──第2ラウンド、ギロチンチョークをボンフルーチョークで切り返す場面はマニアックだと思いました。平良選手の動きを参考にしたりも?

福山 もちろん、平良選手の試合はできる限り拝見させてもらっています。もっというと、世界中のMMAファイターのいろいろな動きを取り入れさせてもらいました。その動きは(技術指導をしてくれた)佐藤ルミナさんだったり、内山拓也監督であったり、皆さんの意見も共有して、微調整を重ねながら本番シーンに臨んだという感じですね。

――平良選手は、福山さんの試合シーンをどう見ましたか?

平良 僕から見ても、ローキックとか痛そうだなと思いました。グラウンドの攻防でスクランブル(もつれ合い)になっても見入っちゃうというか、ホンモノの試合そのものでした。フィニッシュとなったバックチョークも、狙っていたかどうかわからないけど、ちゃんと相手の腕を一本殺した(封じて動かなくした)うえでのバックチョークだった。僕もフルバックをとったときに、まず相手のリストをコントロールして、足を一本挟んでとかもやるので、「あっ、俺もよくやるテクニックだ」と感心しました。

福山 (手を叩きながら)ありがとうございます。

平良 そういう部分も含め、本当に試合のシーンは見応えがありました。間違えて(出会い頭に)ヒザがゴンとぶつかったりしないか、見ているこっちがソワソワしてしまいました。

福山 確かに、そういう衝突事故みたいなアクシデントが起こる可能性はたくさんある展開だったので、そこはファビオ選手と徹底的に稽古を重ね、どちらかがアドリブのような動きになったとしても、すぐに呼吸を合わせられるようにしてから本番に臨みました。

──格闘シーンは長回しでの撮影が印象的でした。一度も休憩を入れることなく、撮影を続けたんですか?

福山 試合は5分3ラウンドありましたが、1ラウンドから3ラウンドが始まる直前――父親(風間亮介=豊原功補)の回想が出てくるシーンまでは一気に撮りました。それ以降はもう一度セッティングし直してという流れでした。

平良 ほかに印象的なシーンとしては、ちょっとケージ(金網)を背負いすぎていたかな。

福山 (笑)。

平良 (本職もMMAファイターである)ファビオから強いプレスをかけられていると思いました。それからの逆転なので、フィニッシュのバックチョークも光ったと思う。一般の寝技を知らない人にも伝わるんじゃないかと期待しています。

本職もMMAファイターであるファビオとのリアルな試合シーン©2024 The Young Strangers Film Partners 本職もMMAファイターであるファビオとのリアルな試合シーン©2024 The Young Strangers Film Partners

福山 平良選手にそこまでおっしゃっていただけるとは。監督とずっと話し合っていたことは、実際のMMAファイターの方たちに失礼のないように、最大限のリスペクトを持って恥ずかしくない試合運びを焼き付ける、というのがひとつの目標だったんです。

実はもともと1ラウンド目はもっと静粛に包まれた中、お互い距離を保ったまま終える予定だったんですけど、オクタゴンの中に入って360度の全方位から大歓声をもらった瞬間、相手との距離感がバグって(狂って)しまいました。

平良 (納得した面持ちで)ア~ッ。

福山 それで最終ラウンドのような気持ちになって、すごいインファイトになってしまったんです。平良さんはラスベガスの会場で大歓声を受けたとき、そういう気持ちになることはありますか?

平良 それはありますね。特に序盤は「当てよう、当てよう」と気負いすぎちゃう。それにお客さんに囲まれたケージの中で、上半身裸で、対戦相手と1対1で向き合う感覚は練習のときとは違いますからね。

福山 (頷く)。

平良 いい意味でも悪い意味でも試合になったらいつもと違う感覚みたいなのはありますね。試合が進むにつれ、少しずつ体が馴染んでいく。

福山 やっぱりそうですよね。

平良 デビュー戦から3戦目くらいまで、セコンドの声は聞こえなかったですから。だからセコンドからは「達郎、落ち着け!」という指示がよく飛んでいました(笑)。

修斗時代の平良達郎 修斗時代の平良達郎

福山 僕がケージの中に入って闘ったのは一日だけですけど、セコンドからの指示は台本と同じなので耳に入っていました。でも、歓声は闘っている者にとってパワーになるし、なんだろうな......本当にわけがわからなくなるというか、歓声によって制御が効かなくなるような......あれは不思議な体験でした。

平良 そうですよね。僕も相手の攻撃などで会場が盛り上がっていたら、無意識のうちに「やり返さないといけない」という気持ちになる。なんかちょっとフワフワする感じがしましたね。

(第3回につづく)

●福山翔大(ふくやま・しょうだい) 
1994年、福岡県出身。映画『クローズEXPLODE』(14)のオーディション参加をきっかけに芸能界入り。エキストラから出発し、下積みを経て、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」(TX)で俳優デビュー。 2017年には「おんな城主 直虎」(NHK)で大河ドラマに初出演。その後もドラマ「スカム」(MBS)「MIU404」(TBS)「恋はDeepに」(NTV)「明日、私は誰かのカノジョ」(MBS/TBS)「にがくてあまい」(THK)と出演を重ねる。映画では『JK☆ROCK』で映画初主演を務め、その他『花束みたいな恋をした』(21)『ブレイブ -群青戦記-』(21)『砕け散るところを見せてあげる』(21)など。2024年春クールのドラマ「ACMA:GAME アクマゲーム」にはレギュラー出演している

●平良達郎(たいら・たつろう) 
2000年、沖縄県出身。高校1年のとき、パラエストラ沖縄に入会し、総合格闘技のトレーニングを開始。アマチュア修斗を経て、2018年8月プロデビュー。同年11月、修斗フライ級新人王に輝く。破竹の快進撃を続け、2021年7月に修斗世界フライ級王座獲得。2022年5月からUFCに参戦し、現在7連勝中でUFC世界フライ級ランキング5位。10月12日(日本時間13日早朝)に、同級1位のブランドン・ロイバルと対戦

■『若き見知らぬ者たち』 
10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開 
©2024 The Young Strangers Film Partners

布施鋼治

布施鋼治

1963年生まれ、北海道札幌市出身。スポーツライター。レスリング、キックボクシング、MMAなど格闘技を中心に『Sports Graphic Number』(文藝春秋)などで執筆。『吉田沙保里 119連勝の方程式』(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。他の著書に『東京12チャンネル運動部の情熱』(集英社)など。

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