ステージ上のセルフプロデュースのみならず、ライブのブッキングや新譜のデータ入稿などの裏方作業まで、全てひとりで行なっている完全フリーランスのソロアイドルがいる。名前は文坂なの(あやさか・なの)。
「昭和と令和を股にかける懐かしくも新しいアイドル」をコンセプトに掲げ、地元・大阪を拠点にライブ活動中。ファーストシングル『愛わずらい』が2021年1月に発売されると、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2(以下、アトロク)」にて紹介されRHYMESTER・宇多丸が絶賛。人気は瞬く間に全国へ広がった。
今年1月には初のオリジナルアルバム『だけど、わたし、アイドル』がリリース。表題曲がシングルカットされ、本人念願の7インチのリリースも叶った。そして10月23日(水)、3rd EP『I am AYASAKA』が発売。来年1月には、80年代アイドルソングのカバーアルバムも発売される予定だ。彼女に直撃し、着々と夢を叶えるフリーランスアイドルの活動の実態に迫ってみた。
* * *
■ライブハウスに直談判しソロアイドルデビュー
――どこか懐かしさを感じるクオリティの高い楽曲をコンスタントに発表し、関西を拠点としていながら東京のライブにも度々出演。完全フリーランスとは思えぬほど精力的に活動されている印象を受けますが、本当にお一人なんですか......?
文坂 はい、本当にお一人です(笑)。今日(取材当日)は、東京初開催となる生誕ライブのために大阪から来ましたけど、自分で新幹線を予約してきました。ステージ衣装や会場で販売するグッズなどの荷物も、すべて自分で運んでいます。遠征時は海外用のキャリーバッグに手提げ、リュックがマスト。エレベーターがない施設の移動にいつも苦戦しています。
――ほ、本当にお一人なんですね......! 疑ってしまい、大変失礼しました。コンスタントに楽曲リリースもされていますが、その辺りもご自身で?
文坂 基本的にはそうですね。作詞・曲や振り付けなどはプロの方に発注していますが、依頼の連絡や誰にお願いするかを決めるのは自分です。衣装に関しては、デザイナーさんと一緒に生地を見に行くこともあれば、イラストを描いて細かくイメージを共有することもあります。だからこそ、好みのクリエイティブを見つけたら、スタッフクレジットは確認必須。今やクセになっています。
一人でやっていくうちに自分でできることも増えてきて。例えば最近は、シングルやアルバムのデータ入稿(CDの帯や盤面に文言を配置する作業など)は自分で作業していますね。
――スゴい! とはいえ、一人だと何かと大変じゃないですか。なぜ、あえてフリーランスで?
文坂 フリーランスしかアイドルになれる道がなかったからですね。本格的に「アイドルになりたい」と思い始めた高校生の頃、メジャーなアイドルさんのオーディションを片っ端から受けたのですが、全然ダメで。その後、勢いで飛び込んだ大阪の地下アイドルの世界でいえば、事務所に所属しているコのほうが少ないくらいで、フリーランスアイドルは特に珍しい存在でもなかったんですよね。普通の感覚でした。
――そうだったんですね。では改めて、文坂なのとして活動を始めた経緯を教えてください。やはり、もともとアイドルがお好きだった?
文坂 はい。中学1年生の頃、人間関係がうまくいかず学校に行けなくなったときに、心の拠り所となってくれたのが80年代のアイドルソングだったんです。家に引きこもり、インターネットで知らない時代の音楽にアクセスする日々。すぐ、のめり込みました。
――世代的にアイドル=AKB48ですよね。どうして80年代アイドルだったんでしょう?
文坂 AKB48さんの楽曲もよく聴いていました。どうして、なんだろう。いろいろ聞いた結果、深く心に刺さるのは中森明菜さんをはじめとする80年代のアイドルソングだったんですよね。親の影響? とよく聞かれますが、そうでもないです。本当、運命みたいなものだと思います。
――にもかかわらず、高校生の頃にメジャーアイドルのオーディションを受けたのは?
文坂 当時はテレビに出ているアイドルさんしか知らなかったんです。地下アイドルの存在を知ったのは、アルバイトしていたコンカフェで地下アイドルをやっているコと出会ったのがきっかけ。実際にライブを観に行かせてもらい「ここでなら私も夢を叶えられるかもしれない」と、その場でオーナーさんに直談判。急遽、来月のライブに出させていただくことが決まり、ソロアイドルとしての人生が始まります。
――いきなりの展開! まだアイドル活動も何もされていない時期ですよね? 直談判する勇気もスゴいです。
文坂 どうしても出てみたかったので、言うだけ言ってみるか! という感じでした(笑)。完全にオーナーさんのご厚意です。
――初ステージの思い出は?
文坂 緊張しすぎてあまり覚えていないんですよね......。15~20分のステージだったと思います。当然ながら自分の持ち歌もなかったので、昭和アイドルさんのカバーを4曲ほど披露しました。終わってから楽屋で大号泣。あー、もう全然ダメだった......って。
――あまり手応えがなかった。
文坂 と思っていたのですが、オーナーさんに「来月もお願いします」と言われ、再びステージに立てることに。その翌月のライブを観に来ていたイベンターさんにお声がけいただき、また別のイベントにも立つようになり、少しずつ活動の幅が広がっていきました。自分でも理解が追いつかないくらい、恵まれたスタートラインでした。今振り返っても、運が良かったとしか言いようがないです。
■デビュー曲『愛わずらい』に詰まった、文坂なのの世界
――活動が本格化した2016年当時は"エスパーなのたん"として。2020年に現在の"文坂なの"名義に改名されます。何か理由があって?
文坂 エスパー時代は、特にコンセプトがなくて。オリジナル曲含め、ジャンル問わず幅広く歌っていたのですが、場数を踏んでいくにあたり、改めて自分をプロデュースしなくては、と思うようになったんです。2020年、「昭和と令和を股にかける懐かしくも新しいアイドル」をコンセプトに掲げ再スタートし、今に至ります。心機一転したものの、ちょうどコロナが流行り始めた時期で。思うようにいかないことが多く、大変でしたね。
文坂 改名を発表した直後に緊急事態宣言が出て、予定していたワンマンも中止に。お先真っ暗でしたよ。それでも、再スタートとしてシングルを出すことは決めていたので、配信で無観客ライブをやったり、ツイキャスでオンラインチェキ会を開いたりして、コツコツ制作費を貯めました。
――そして2021年1月、文坂なの名義として初のシングル『愛わずらい』が発売されるわけですね。作詞・曲は、アイドル界隈で人気の佐々木喫茶さん。掲げているコンセプトの通り、どこか懐かしい、だけど新しい感じがするポップな楽曲です。
文坂 もともと喫茶さんの作る楽曲が大好きだったので、再スタートとなるファーストシングルは絶対に喫茶さんにお願いしたいと思っていました。全くの初対面ながら、「初めまして、フリーランスアイドルの文坂なのと申します」と、とにかく失礼がないよう何度も文面を読み返してご依頼のメールを送った記憶があります。
――ファーストの時点で、文坂なのとして徹底したい世界観がハッキリ伝わるクオリティの楽曲が仕上がっていると感じました。
文坂 そこはもう、本当にこだわりました。喫茶さんには、まず「コールを入れない楽曲にしてほしい」と伝えていたんです。喫茶さんに限らず、アイドルへの楽曲提供となると、こちらからオーダーせずともライブで盛り上がることを想定して、コールを入れやすい尺の間奏を作ってくださる方が多いんですよ。ただ、私の理想は昭和のアイドル歌謡曲。間奏でコールを煽(あお)るのは、少しイメージと違いました。
こうした楽曲のオーダーは喫茶さんも初めてだったと、のちにお聞きしました。デモをいただいたとき、最高すぎて一日中聴いていました。この曲があれば、文坂なのは大丈夫だって、すぐに確信しましたね。
――当時、TBSラジオ『アトロク』でも紹介されました。幸先の良いファーストになりましたね。
文坂 実際、アトロクで私を知ってライブに来てくださった方もスゴく多いんです。本当にありがたいです!
■80年代の隠れた名曲をカバー
――10月23日に発売されたニューEP『I am AYASAKA』についても聞かせてください。
文坂 収録曲はevening cinemaの原田夏樹さん提供の「真夏のリュミエール」、LASTorderさん提供の「私以外の王子様」、そして今年8月にGOOD BYE APRILさんの「missing summer」という楽曲をカバーさせてもらったんですけど、ボーカルの倉品翔さんに作っていただいた「俯(うつむ)かないで」、それから先ほどもお話しした佐々木喫茶さん提供「AYASAKA」の計4曲です。様々なご縁で繋がった素敵なクリエイターさんたちに楽曲提供いただき完成したEP。われながら、最高の仕上がりです。
――今年1月に初のオリジナルアルバム『だけど、わたし、アイドル』をリリースされたわけですけど、次作となるニューEPで「I am AYASAKA(私は文坂です)」と堂々宣言。改名から約4年間、昭和と令和を股にかけ駆け抜けた文坂さんの"第二章幕開け"を感じるタイトルだと感じました。
文坂 ありがとうございます。実際に、これまでの文坂らしさを見せつつ新しい文坂にも挑戦していくのが、今回のEPのテーマでもあって。なかでも喫茶さんに書いていただいた「AYASAKA」は、文坂史上最もアイドルらしいノリの良い楽曲と言っても過言ではないんです。
※MVの画面比率はこだわりの4:3。昔のアニメのOPを見ているような気分になる
――「ナノナノナノ かもかもかも」と繰り返す中毒性の高いサビパートに、「『ぶん』でも無くって 『もん』でも無くって 『ふみ』でも無くって」と"文坂の読み間違え"をネタにした歌詞もキャッチーで。一度聴くだけで耳に残る、かわいらしい楽曲でした。
文坂 素敵な楽曲ですよね! 実はこれ、喫茶さんのほうから「今までにないくらい、明るい楽曲にしていいですか?」と提案していただいたんです。普段は私からイメージをオーダーしているのですが、今回は喫茶さんのアイデアに身を委ねてみることにしました。
おっしゃる通り、曲中にたくさん私の名前が出てくるんですが、私からそのようなオーダーをしたことは一度もないというか。このタイミングで私の名前を歌詞に活かした新しい曲調の楽曲をくださったことに、喫茶さんの愛をひしひしと感じました。これまではムードのある楽曲がメインだったので、新しい扉を開いてくれた喫茶さんには感謝しかありません!
――来年1月には80年代アイドルソングのカバーアルバムも発売予定です。先日、無事にクラウドファンディングが終了。完成が楽しみです。
文坂 カバーアルバムを出すことは、かねてからの夢でした。権利関係をクリアするのがかなり難しく、YouTubeにカバーをアップするくらいしかできなかったのですが、音楽プロデューサー・加茂啓太郎さんのおかげで、ようやく制作の目処がたちました。
※YouTubeでは中森明菜『スローモーション』などをカバー
――加茂さんといえば、ウルフルズや氣志團、NUMBER GIRL、Mrs GREEN APPLEなどを発掘された方ですよね。出会いは?
文坂 加茂さんがTBSラジオ「CITY CHILL CLUB」で『新都市遊泳シルエット』という楽曲を紹介してくださったことに始まり、その後、偶然イベントでお会いしたんです。そこから加茂さん主催のイベント「Great Hunting Night」に呼んでいただくなどして、カバーアルバムに繋がりました。
※『新都市遊泳シルエット』は、最新EPでも楽曲提供をしているLASTorder氏が作詞を担当
――発表されているカバー候補アイドルには、アニメ『魔法の天使クリィミーマミ』の主題歌で知られる太田貴子さんなど、少々ニッチなお名前が並んでいます。
文坂 加茂さんのお知恵を借りながら、サブスク化されていない楽曲を中心に選曲を考えています。私のカバーをきっかけに、80年代の隠れた名曲を若いコに届けたくて。お馴染みの喫茶さんや原田さん、倉品さんにはアレンジャーとして参加してもらっています。絶賛レコーディング中なので、完成を楽しみに待っていてほしいです。
――期待しております。さて、今年1月にファーストアルバム『だけど、わたし、アイドル』が、4月にはアルバム表題曲がシングルカットされ初のアナログ盤として7inchレコードを発売。最新EPでは新たなサウンドに挑戦し、来年は念願のカバーアルバムのリリースを予定......と。こうしてご活動をまとめると、今スゴく順調な印象です。
文坂 応援してくださる皆さん、様々なご縁で出会ったクリエイターの皆さんが支えてくださったからこそ、フリーランスでここまで突っ走って来られたんだと思います。次なる目標は、LIQUIDROOM(リキッドルーム)でのワンマン実現。あとは、ずーっと一人で歌ってきたからこそ、デュオにも興味があるかも......。来年、また違った文坂を見せられたら良いな。とりいそぎ、発売中の最新EP『I am AYASAKA』はサブスクでも配信されているので是非聞いてくださーい!
●文坂なの(あやさか・なの)
8月18日生まれ 大阪府出身
○"昭和と令和を股にかける懐かしくも新しいアイドル"をコンセプトに関西を拠点に活動する完全フリーランスのソロアイドル。
公式X【@ayasaka_nano】
公式Instagram【@ayasaka_nano】
■ニューEP『I am AYASAKA』 定価/2,000円(税込)
「平成生まれ昭和育ち」。懐かしくも新しい楽曲を歌い、セルフプロデュースで突き進むソロアイドル"文坂なの"。2024年春にはヒャダイン氏作曲の「明治プロビオヨーグルトR-1」CMソング歌唱担当に抜擢される等、巷で話題沸騰の中、2024年10月23日(水)待望の3rd EPをリリース! evening cinema 原田夏樹、佐々木喫茶ら書き下ろしを含む、全4曲収録の大注目作!