オリジナル・ラブの田島貴男、くるりの岸田繁、ハナレグミの永積タカシ、スカートの澤部渡ら実力派ミュージシャンたちからリスペクトされる、なんと平均年齢67歳!の12人編成ビッグバンド・吾妻光良& The Swinging Boppers。彼らがニューアルバム「Sustainable Banquet」をリリースする。スウィングジャズ、ビッグバンドジャズ、リズム&ブルースをベースにしたサウンドに、人生の悲喜こもごもを明るく楽しく歌い上げた、じつにパーティ感あふれる一枚だ。
そこでバンドを率いるボーカル&ギター・吾妻光良にインタビューを敢行。ニューアルバムについてから、45年という長い間バンドを続けてこられた理由、そして68歳を迎えた現在地を、自由気ままに語ってもらった。
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──音楽ファンの喜ぶ声が聞こえてきそうです。およそ5年半ぶりのニューアルバム。今回もスウィング、ビッグバンドジャズ、リズム&ブルースをベースにした心が弾むサウンドといい、人生の悲喜こもごもをユーモラスに綴った歌詞といい、相変わらず味わい深い内容です。
吾妻 ありがとうございます。レーベルのスタッフさんに声をかけていただいて始まったんですけど、自分たち的にはあまり気負いなく制作しました。
──そうなんですね。それにしても特に歌詞は最高で、年金などについて歌った「俺のカネどこ行った?」も、年金を支給される年齢だからこその説得力があるし、ほかにもIT社会を皮肉ったような「誰もいないのか」など、共感もしつつクスッと笑ってしまう魅力があります。
吾妻 最終的には曲も含めてバンドのみんなで仕上げるんだけど、歌詞の書き直しはほとんどないんです。俺がよっぽどひどいのを書いてきたときだけ、「ここは直したほうがいいんじゃない?」って言われます(笑)。
──結成45年、平均年齢67歳のバンドになった今、歌詞を書く視点、内容などは変わってきましたか?
吾妻 意識はしてないけど、その年齢ゆえに変化しちゃうものはあるんじゃないですか。自然とトイレが近くなるみたいな(笑)。でもずっと意識しているのは、昔のリズム&ブルースの歌詞なんですよ。ルイ・ジョーダン(1940~1950年代にかけて活躍したアメリカの歌手、サックス奏者。ビッグバンドジャズとブルースを融合させたジャンプブルースの代表的存在)が歌っているようなことを書けたら、一番うれしいなと思っています。やっぱり面白いんですよ、ルイ・ジョーダンみたいな昔のリズム&ブルースの人の歌詞は。
──どういうことを歌っているんですか?
吾妻 「お前、自分のことをスマートな人間だって言ってるけど、じゃあどうして金持ってねーんだ?」みたいな(笑)。シビアでシリアスな歌もあるんですけど、どんな境遇に身を置いていたとしても、常にその状況を笑い飛ばすみたいな、ユーモアあふれる歌詞が多い。僕は大好きですね。
──昔のリズム&ブルースの歌詞からの影響と、今の日本で暮らしている吾妻さんが感じていることが融合されて歌になっていく?
吾妻 そう。結構、身近なこともネタにしますよ。この間も居酒屋で見かけた若いやつが嫌だなと思って、「若いやつが嫌いだ!」って歌を書きそうになったり(笑)。結局、書かなかったけど。
吾妻 遠くに離れてる相手と乾杯するとき、「ブルートゥース!」って言って乾杯してて、それが嫌だなって(笑)。
──あははは。世代間ギャップがありますね(笑)。
吾妻 時代が変わったなと思った(笑)。でもね、僕が好きなリズム&ブルースが生まれていた時代からすっごい年月は経ってるし、アメリカと日本で国も違うけど、人間が思ってることって案外そう変わんない部分もある。昔のリズム&ブルースの歌詞で今も通じる内容っていっぱいあるし、そのへんに気づくとまた面白いですよね。
──そうしたユーモラスな歌詞に加え、愛嬌のある吾妻さんの歌い方、8人のホーンセクションから生まれる軽快なムードなど、バッパーズの音楽には常に楽しさが盛り込まれています。ライブではみんなニコニコしながら心地良さそうに体を揺らしています。
吾妻 以前、ルイ・ジョーダンが、インタビューでこう言ってたんですよ。「私は、自分のライブを見に来てくれた人に暗い気分になってほしいんじゃなく、ただただ楽しい気持ちで帰ってほしいんだ。だから、悲しい歌を歌わないんだよ」って。俺も同じで、自分たちのライブもそうなればいいなみたいなとこはありますね。ま、自分たちだけでできることには限界がありますから、ライブでは女性のゲストを呼んだりしますけどね。女性ゲストがステージにふっと登場したら、華やかで楽しいじゃないですか。俺たちみたいなじじいばっかが、ずっとステージに出ててもね(笑)。
──女性ゲストという意味では、今作にはEGO-WRAPPIN'の中納良恵さんとシンガーソングライターのLeyonaさんが参加しています。
吾妻 EGO-WRAPPIN'は、ギターの森(雅樹)くんにも参加してもらってます。よっちゃん(中納)は相変わらずパワフルですし、森くんのプレイも一発オッケー。Leyonaは、今回歌ってもらった「L-O-V-E」って曲を昔から何回も歌ってるから、すごくスムーズでした。みんな素晴らしかったなと思います。
──ニューアルバムのタイトルの「Sustainable Banquet」は、"持続可能な打ち上げ"という意味なんですよね?
吾妻 というか、俺たちは昔からライブのあとは打ち上げをして飲んでるからね。これからも何があっても打ち上げを持続していくぞって意味合いもあるかな。
──意気込みみたいな(笑)。吾妻さんは普段もしっかり飲んでるんですか?
吾妻 昔ほど量は飲まなくなったけど、嗜(たしな)む程度ですとは言えない(笑)。それでも体のことを考えて、週に1回は休肝日にしてますよ。昨日は飲まなかったから、今日は飲む日!
──さすがブルースマン。吾妻さんの人生の中で、お酒は大きな意味を持っている?
吾妻 お酒を飲むといい感じになれるというか、演奏するために飲まなきゃいけないし、飲むために演奏するところもありますね。35年前ぐらいかな? バンドのベースのやつと「人生は縦・横・高さの三次元じゃなくて、縦・横・高さ・酒の量の四次元なんだ! 酒の量が違うと、違う空間に生きていることになる!」なんて話したこともありました(笑)。
──若さと酒の勢いに乗って、そういう話になることはありそうですよね(笑)。
吾妻 でもね、今もそんなに変わんないんです。65歳を過ぎて、自分がこんなに子どもだとは思わなかった(笑)。もっとちゃんとしたほうがいいよね。あははは。
──年齢を顧みて、酒のこと以外でもご自身の健康で気づかっていることは?
吾妻 週1で酒を抜く以外は、毎日8000歩をメドに散歩してるのと毎朝家でやるラジオ体操ぐらいかな。タバコも2010年に値上がりしたとき、バカらしくなってやめたしね。タバコやめたから、声は前より良くなってる感じがしますよ。ライブでも、あんまり衰えは感じない。ギターはちょっと下手になってるかもね。昔のほうが早く指が動くから。......とまぁ、そんな感じですかね。たまに段差も何もないところでつまずくと、なんとなく年齢は感じるけど(笑)。
──吾妻さんはミュージシャンとして活動する一方、長年、会社勤めをし続けてきたとか。今回のアルバムは定年退職されてから制作した初のアルバムでもあるんですよね。
吾妻 僕はメディア関係の会社でずっと働いていて、2022年の夏に退職しました。退職の挨拶状を300人ぐらいに送ったんだけど、「退職後は、学生の頃からの夢だったプロのミュージシャンになることとなりました(笑)」って、冗談めかして書いたりしました。
──ほかのメンバーも結成以来ずっと職を持ち、現在、その全員が定年退職されたとか。そんなベテランバンドは日本になかなかいないですよね。吾妻さんご自身、会社を辞めて音楽活動は変わりました?
吾妻 フルバンド以外に、ソロやトリオでのライブの本数も明らかに増えました。会社に勤めていた頃は土日祝日だけライブだったけど、今は平日でも呼ばれたらライブができますから。後輩に呼んでもらうライブも楽しいし、ブルース業界の諸先輩方に呼んでもらったライブも楽しいです。特に先輩に呼んでもらったライブはじじいばっかりで、じじいの中で俺が一番年下っていう楽しさがある(笑)。
──ブルースの世界ってロックなどに比べ、圧倒的にベテランの方が多いですもんね。ちなみに会社勤めとバンドの両立の裏側には、見えない苦労もあったんじゃないかと思います。
吾妻 うーん。会社での苦労は普通にあったけど、バンドは正直ないですね。仕事でどんなつらいことがあっても、ライブがあるからたくさん救われた。そう考えると、二足の草鞋(わらじ)で続けてきて良かったと思います。会社勤めで収入が安定しているぶん、変に売れることを狙った音楽を作る必要がなくて、本当に好きな音楽、自分がやりたい音楽だけやってこれましたし。
──45年も同じバンドを続けてこられた秘訣なんてあるんですか?
吾妻 まぁ、運が良かったんですよ。でなければ、バンドは続けられない。それは間違いないと思います。あとは音楽以外、ほかに好きなことがあんまりなかった。だから続けられたということに尽きると思います。なんか普通の答えになっちゃったな(笑)。
──いやいや「好きだから続けられた」という言葉は、吾妻さんがお話しされるからこそ、シンプルだけど深みと重みがある気がします。純粋な思いだけで、ここまで長きにわたってバンドが続いていることが奇跡的ですよね。
吾妻 自分では意識したことがないけど、周りから見たらそうなのかもしれないですね。奇跡といえば、やっぱり奇跡なのかな。いや、ちょっとすごいことをやってきたっていうことにしても良いですか?(笑)
──これからの音楽活動についてどんなことを考えているかを教えてください。
吾妻 今まで通り、昔のリズム&ブルース、ジャンプブルース、ジャイブをベースにした音楽性は、これからも揺るがないですね。だって、そういう音楽が好きでこのバンドを始めたんですから。あとは適度にやっていくこと。無理をして苦しくなるのは嫌なので。あとはなんだろう......。う~ん、特にないかなぁ。普段、あんまり先のことは考えないようにしているんですよ。結局、68歳でまだモラトリアムなのかもしれないですね(笑)。
●吾妻光良 & THE SWINGING BOPPERS Profile
Vo&G、Dr、Ba、Pf、Bsax、Tsax、Asax×2、Tp×3、Tb×1による12人編成バンド。1979年秋、吾妻光良が音楽仲間とともに大学の卒業記念の思い出づくりとしてビッグバンドのコンサートを企画し結成。以降、サラリーマン稼業を行いつつ、週末と有休休暇を利用してマイペースで活動。現在、ワンマンライブは即日完売、大型フェスにも多数出演。2024年で結成45周年を迎え、平均年齢67歳。気力充実、老いてますます血気盛んに活動中。
2025/1/11(土)ビルボードライブ東京、2/1(土)ビルボードライブ大阪、4/5(土)ビルボードライブ横浜、3/1(土)Gate's7(福岡)にてそれぞれライブを開催!
『Sustainable Banquet』吾妻光良 & The Swinging Boppers(ソニー・ミュージックレーベルズ)\3300(税込)