寺西ジャジューカてらにし・じゃじゅーか
1978年東京都生まれ。数年間の異業界での活動を経てライターに転身。得意分野は芸能、(昔の)プロレス、音楽、ドラマ評。『証言UWF』『証言1・4 』『証言 長州力』『証言「橋本真也 負けたら即引退」の真実』(すべて宝島社)でも執筆
「しばらくは一行、一文字も書きたくなかった」とさえ口にしていた大槻ケンヂが、私小説的エッセイとしては10年ぶり、小説としては実に18年ぶりとなる最新刊を発表した。『今のことしか書かないで』というタイトルどおり、ここ2週間にあったことだけを書くという内容だ。58歳になった「今」のオーケンの心境を聞いた。
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――この本は"限りなくエッセイに近い幻想私小説"と銘打たれています。実体験に基づいたエッセイとも、架空の物語である小説とも違うのでしょうか?
大槻 身辺で起こった事実しかエッセイに書かない人もいますが、僕は実際に起こったことをヒントに話を膨らませるタイプなんです。そうして話を盛っているうちに「もうこれはエッセイというより小説だな」と感じることが多くて。
いっそのこと最初から"限りなくエッセイに近い幻想私小説"なんだと宣言して書くことで、まだ誰も見たことがないジャンルの文章になるのでは?と思って、今作ではそう銘打ったんです。
――大槻さんが影響を受けたと公言する寺山修司は「実際に起らなかったことも歴史のうちである」という言葉を好んでいました。そんな〝寺山節〟を踏襲した部分もある?
大槻 そうですね。だから、(連載)初回から実際には起きていないことを書きました。若い女のコと六本木の鳥貴族に行く話なんですが、本当は行ってないんです。
――行ってないんですか(笑)。その女のコから「今のことしか書かないで」と言われたシーンがそのまま今作のコンセプトになっていますが?
大槻 もちろん実際には言われていません(笑)。僕は梶原一騎直撃世代なので、虚構と現実が入り交じった漫画『四角いジャングル』の影響も強いかもしれません。空想が現実を追い抜いてしまうという。
――「この話は真実である」というひと言から始めておいて、ホラを吹くみたいな(笑)。
大槻 前田日明さんもアントニオ猪木の舌出し失神事件を振り返って「(前田のマネをしながら)俺が身代わりで担架に乗ったんだよね」と言っていたけど、本当は乗ってなかったって話じゃないですか? あれは前田さんの空想がリアルを追い抜いたんだと思います。
まさに、僕と同じ方式だなあって(笑)。結果的に、梶原一騎や寺山修司など、いろんな人からの影響が一緒くたになって、今回の作品になったという感じです。
――でも、0から1にしているのではなく、元となるエピソードがあってそれを広げて盛るという書き方ですよね。
大槻 そうですね。例えば、僕はたまに母の介護施設へ面会に行っているんですね。それは非常にロック的じゃないけども、ロックの現実として親や自分が老いていくという実際の問題を本にも盛り込みました。
――以前、大槻さんは「歌詞を書くと、どうしたらいいかわからない、という精神状況が整う」とおっしゃっていましたが、今作の執筆にもヒーリング的な効果はありましたか?
大槻 ありました。箱庭療法じゃないけど、書きながら自分の心理状況を俯瞰して「どうすればそれが整うか」ということを文章にしているんだろうな、と。
肉体の衰えや老後、孤独死への不安など、自分を取り巻くあしき現実に対抗するために、理想や夢を反映した前向きな物語をどんどん作っていく。良い物語を書くことでしか、現実は乗り越えられない気がします。
――自分と向き合って文章を書いていくと『踊るダメ人間』の歌詞みたいにネガティブなほうへ話が進んでいくこともあるわけじゃないですか。それは意識的に変えたのでしょうか?
大槻 はい。特に、今回の執筆では「嫌いな人間を描かなければ精神的にいい」という事実に気がつきました(笑)。
――なるほど。今作を読むとバンギャやコンカフェで働くコたちなど、大槻さんの興味が若い女性へ強く向いていることもわかりました。何かきっかけが?
大槻 それこそ『週刊プレイボーイ』に載っている若い女性のグラビアなんかを見ると、有無を言わさぬ"未来力"を感じますよね。今の自分にはそれが一番ないから憧れるんです(笑)。
コロナ禍の頃はコンカフェで働く女のコが元気に配信しているツイキャスをよく見ていました。自分の手のひらの中にいる女のコがたわいもない話をし、それを自分がのぞき見ている。
一度、寺山修司はのぞきで捕まったことがあるので「これは寺山修司的だよなあ」と(笑)。
――今作には、若いファンに「あなたは現代のソクラテスです」と声をかけられるエピソードも登場します。大槻さんは一方でリスペクトの対象でもあります。
大槻 最近、若いミュージシャンとフェスで一緒になると、緊張している人が多いんです。「俺、敬われている!」と思うとありがたくはあるけど......でも、困っちゃうんだよなあ(苦笑)。年は違っても同じところで切磋琢磨しているミュージシャン同士だから、もっと一緒にセッションとかしたいのに。
その点、この本にも出てくる、亡くなった頭脳警察のPANTAさんは本当に包容力がありました。いい人で、スマートに後輩の気を使わせないんです。ああいう先輩にならなきゃいけないなと思って。
――それにしても、オーケンが還暦間近という事実は驚きです。
大槻 僕、オカルトが好きなんですけど、UFO研究家にジョージ・アダムスキーって人がいるんですね。彼は「宇宙人に会った」と公表することで世界一有名なUFOコンタクティになったんですが、アダムスキーが初めて宇宙人に会ったのは61歳のときなんです。
それがすごい励みで。アダムスキーでたとえたら、僕はまだ金星人にも会っちゃいねえんだと思うと「これからじゃん!」って。
......という空想の部分がありつつ、自分と同世代のミュージシャンが亡くなってきているという現実もあります。この本を書いているうちに、同い年だったBUCK-TICKの櫻井(敦司)さんも亡くなりました。今、僕はあしき現実と良き空想の物語のはざまにいるんですね。
だからこそ、「さあ、これからどうなる!?」という気持ちが僕にこの本を書かせたのだと思います。80代であれだけ踊ってるミック・ジャガーみたいなどうかしているジジイもいるし(笑)。だから、自分でもこれからが本当に楽しみですよ。
■ 大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)
1966年生まれ。82年に中学校の同級生だった内田雄一郎と共にロックバンド「筋肉少女帯」を結成。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビュー。筋肉少女帯のほか、バンド「特撮」のメンバーとしても活動。また、作家としても、94年『くるぐる使い』、95年『のの子復讐ジグジグ』で、日本SF大会日本短編部門「星雲賞」を2年連続で受賞。ほかにも『グミ・チョコレート・パイン』『ロッキン・ホース・バレリーナ』『ゴスロリ幻想劇場』『ロコ! 思うままに』など
■『今のことしか書かないで』 ぴあ 1760円(税込)
ロックミュージシャン・作家の大槻ケンヂが、ここ2週間以内に起こった個人的なトピックをつづるクスッと笑える連載エッセイ......だったはずが、章が進むにつれ"限りなくエッセイに近い幻想私小説"へと、その内容は思いも寄らぬ変化を遂げていく! リアルとフェイクが入り交じった、著者も仰天のナゾ面白い最新刊。大槻にとって私小説的エッセイとしては10年ぶり、小説としては実に18年ぶりとなる"現在進行形のオーケン"が詰まった一冊
1978年東京都生まれ。数年間の異業界での活動を経てライターに転身。得意分野は芸能、(昔の)プロレス、音楽、ドラマ評。『証言UWF』『証言1・4 』『証言 長州力』『証言「橋本真也 負けたら即引退」の真実』(すべて宝島社)でも執筆