ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた7回目のテーマは「顔がいいとやはり得なのか」。そして「人に好かれたり、慕われたりする技術には、どんなものがあるのか」。なぜか、俳優の東出昌大さんの話も出てきます。
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ひろゆき(以下、ひろ) 最近はルッキズムが問題になっていますが、事実として「顔がいいと得をする」みたいなデータってあるんですか?
中野信子(以下、中野) はい。いろんな研究や実験から顔がいいと得をすることはわかっています。ただ、女性の場合は「顔はいいけど実力がない」と思われることも多いんです。特にリーダーシップが求められる役職では「能力がない」と決めつけられる傾向があります。
ひろ 「ジジイ転がしがうまい」「なんか裏があるはず」みたいなことを言われるんでしょうね。
中野 ええ。ひどいと「誰かと寝たの?」なんてセクハラを言われることもあります。リーダーではなく「副◯◯」のようなサポート系の役職なら、能力があると認められやすいのですが......。
ひろ 女性の場合は注釈付きだけれど、見た目がいいほうが得することは間違いなさそうですね。
中野 人が評価されるときに、見た目は必ず影響します。例えば「性格がいい」とホメられるとき、別に性格の精密な検査をしているわけではないですよね。では何で判断しているかといえば、表情です。表情とはつまり外見のことです。そして、その表情の重要性は意外と気づかれていないんです。
ひろ 話し方や表情で「この人についていこう」と思わせる力を持っている人がいますよね。
中野 信者の多い宗教指導者は表情の作り方が上手ですよね。あと、政治家では元首相の田中角栄さんもそのタイプです。
ひろ よく「涙は女の武器」とか言われることがありますが、実際には男性の涙のほうが効果的だと思うんです。どんなにヒドいことをしても、男性に泣かれると許してしまう女性は少なくないです。
中野 おっしゃるとおりです。女性が泣くと、「また泣いている」と思われがちですが、男性が涙を流すと「本当なんだ」と思って信じ込んでしまう人は多いですね。
ひろ 俳優の東出昌大さんが、舞台で怒った直後に涙を流すという演技をしていたんですよ。それを見て「うわ、すげえ」と思いました(笑)。東出さんが本気になれば、コロっとダマされる人は多いんじゃないですか?
中野 東出さんは本当にすごい方ですよね。批判されてもファンを増やし続ける力がある。「東出さんならしょうがない」と許される雰囲気や魅力があるのはすごいことです。
ひろ 僕は「ABEMA」の番組でアフリカと南米でそれぞれ1ヵ月くらい東出さんと一緒に過ごしたんですよ。東出さんってカメラが回っていないときでもまったく愚痴をこぼさないんです。すげえいい人なんです。
中野 人に慕われたり、好かれたりする技術がもともと備わっているように思えます。「いい人」が最初からインストールされているんじゃないでしょうか。
ひろ もしくは自己洗脳のように自分の思考や感情を書き換えているのかもしれないです。役者さんって、あるキャラクターを演じるときにセリフを覚えるだけでなく、「この人ならこうするだろう」という性格まで作り上げるっていうじゃないですか。で、役が終わってもその設定を消し忘れていると、いい人のままでいられる。
中野 東出さんが主演を務められた映画『Winny』(2023年公開)は素晴らしかったですね。
ひろ 特に裁判シーンなんて「憑依している」とホメる意見もありましたよね。僕は東出さんが演じた金子勇さんも知っているんですけど、金子さんっていい人なんですよ。金子さんも他人の悪口や文句をほとんど言いません。だから、東出さんは役を演じるときに金子さんをインストールしたのかも。ただ、役者さんってみんないい人になれるのかと思いきや、実際には性加害をする人もいるじゃないですか。
中野 そういう人は、逆に悪い人の役を消し忘れているのかもしれませんね。
ひろ ああ。ただ、もしいい人をインストールできるなら、それだけで魅力的に見えるし、モテるようになりますよね。みんな整形にはお金をかけるのに、表情とかしぐさにはあまり関心を向けない。
中野 本当にそうですね。整形するよりもずっと手軽だし、たぶん効果的です。
ひろ なんとなくですけど、表情を作る能力って男性のほうが高い気がするんですよ。男性はその場では表情に出さないけれど、後から「実はアイツのことが大嫌いなんだ」と打ち明けられてビックリしたことがあります。一方で、女性は嫌なことがあると瞬時に顔に出てしまうことが多い気がする。
中野 それは育ってきた環境が影響しているかもしれません。女性は、感情を表に出したり表情が豊かなほうが「子供らしい」とか「女性らしい」と評価されやすいんです。逆に無表情だと「無愛想だね」と言われてしまう。一方、男性の場合は同じ無表情でも「あの子は動じない子だね」と評価されることが多い。同じ特徴でも男女で評価が変わるんです。
ひろ 女性で表情に変化がないと、冷たく見られて人気が出ないことがありますよね。「美人なのに、なんで人気がないんだろう?」と思うことがあります。
中野 やはり、愛嬌がある人のほうが、容姿が整っているだけの人よりも好かれる傾向があるのかもしれません。
ひろ 東出さんレベルまでいかなくても、後天的に表情や感情の出し方を変えることはできるんですか?
中野 完全に変えるのは難しいかもしれません。でも、挑戦する価値は十分あると思います。実は私もかなり試行錯誤して表情の出し方を学んだんです(笑)。
ひろ どうやったんですか?
中野 大学時代にいろんな人の表情や笑い方、話し方をそのまままねするところから始めました。それで「誰々ちゃんの話し方に似てるね」と言われるくらいやったので、学生時代は少し気持ち悪がられたかもしれません(笑)。
ひろ 話し方をまねするんだ。
中野 言葉遣いや話し方のリズムまで全部コピーしました。ただ、完全コピーだと不自然なので、3人くらいの話し方を混ぜるといったやり方です。
ひろ それって、やっぱり人気のある人の話し方をまねしたほうが、周りからの好感度が上がるんですか?
中野 そうですね。ただ私は理系の大学にいたので、周囲は男性が多かった。それで結果として男性の話し方をまねすることになり、バイセクシュアルの女性の友達から告白される事態にもなりました。
ひろ そうなっちゃうんだ。
中野 私の意図とはちょっと違う効果が出ちゃいました。
ひろ でも、そうやってインストールがうまくできる人だとしっかり効果が出るものなんですね。
中野 私の場合は、ある程度成功したといえるかもしれません。
ひろ じゃあ、いい人をインストールしてみるのもありですね。んで、そのスキルが身につけば、いわゆる美人やイケメンではなくても得をする可能性は上がると。
中野 そうですね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など