日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。つげ義春原作! 独創性あふれる数奇なラブストーリー

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『雨の中の慾情』

評点:★2.5点(5点満点)

©2024 「雨の中の慾情」製作委員会 ©2024 「雨の中の慾情」製作委員会

リビドーの発露が「戦争」だとしたらその逆は...?

つげ義春の短編マンガを起点に、さまざまな要素を貪欲に取り込んで構築された夢のような、あるいは悪夢のような作品である。

多彩な映画的技巧がちりばめられていて目に楽しいし、また台湾でロケーション撮影をしたことが、そのユニークな世界観を作るにあたって大きな効果を上げているのは間違いない。

いろいろと仕掛けがある作品なのでいわゆる「ネタバレ」を避けるとあまり立ち入ったことは書けないが、題名にもあるとおりストーリーの中心は「性愛」ではない「欲情」であり、本作は主人公のリビドーとその喪失にまつわる物語だとみなすことができる。

しかし、そこで考えなければならないのは劇中に登場する戦争場面である。そのシーン自体は極度にゴアではないが一定の誠実さを持って描かれており、製作者の気概を感じさせるものではあるが、それが主人公のリビドーの喪失と結びつけられているがゆえに引っかかるものが残る。

戦争自体がリビドーの最悪の形の発露である、という前提で考えれば腑に落ちないこともないが、その後の歴史的経緯を考えるに、そこを「リビドーの喪失」と接続してしまうと、否応なく無数の問題が浮上してしまうのである。

STORY:売れない漫画家・義男は小説家志望の知人・伊守と一緒に引っ越しの手伝いに向かった先で、一糸まとわぬ姿で眠る美しい未亡人・福子と出会う。やがて伊守と福子が義男の家に転がり込み、3人の奇妙な共同生活が始まるが......

監督・脚本:片山慎三
原作:つげ義春
出演:成田凌、中村映里子、森田剛、足立智充ほか
上映時間:132分

全国公開中

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