ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた8回目です。
英語を話すだけでも難しいのに、世の中には何ヵ国語も話せる人がいますよね。あれ、どういう頭の構造になっているんでしょうか。そして、英語から国語の問題にも移っていきます。
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ひろゆき(以下、ひろ) 外国語の勉強法について聞いていいですか? 15ヵ国語以上を話せる双子が、1週間でトルコ語を覚えるというユーチューブの企画があったんですよ。一見、無謀そうに思えるんですが、普通に会話ができるようになってました。どういう頭の構造になってるんですかね?
中野信子(以下、中野) 驚異的に速く外国語を習得する、いわゆる〝スーパーラーナー〟と呼ばれる人たちですね。学歴とは関係なく、耳で聞いたことをそのままコピーする能力が高いといわれています。
ひろ なるほど。普通の人は外国語を聞くと何を言っているのかまったくわからない状態からスタートしますが、スーパーラーナーは、意味というより音として言葉を認識しているんですね。普通の人とは覚え方がまったく違うんだ。
中野 ええ。それから、英仏独日の4ヵ国語を話す通訳の方にお話を聞いたことがあるんですが、文章を「プレハブ小屋」のようにイメージしているといってました。
ひろ プレハブ小屋?
中野 プレハブ小屋は、基礎となる土台に工場などで造られたパネルを現場で組み立てて小屋を建てるんですが、同じように通訳も基礎となる文章に単語をはめ込んでいくイメージだそうです。そのはめ込む単語を頭の中で瞬時に検索しているとのことでした。
ひろ ほうほう。
中野 そして、外国語の自然な言い回しができるのも、プレハブ作業をやっているからだと思います。もともと基礎となる文章は自然な言い回しですからね。
ひろ 文章のテンプレートに単語を入れ替えているだけですよね。
中野 そう考えると、構文などを細かく勉強する日本の英語教育がどれだけムダかあらためて考えさせられますね。
ひろ テンプレートを覚えるみたいに、もっと効率的で実践的な勉強方法があるはずですよね。例えば、教科書をクソ真面目に読むよりは、人と会話をしながら使い方を学ぶとか。
中野 はい。ただ、それには注意点もあるんです。よく「外国語を上達させるには恋人をつくるのが一番」と言われますよね。でも、恋人をつくって学ぶと「相手のしゃべり方」になるんです。
ひろ つまり、日本人男性がアメリカ人女性と付き合って英語でコミュニケーションをしていると、女性っぽい英語になると。
中野 なので、同性の友人をつくって、日常的な会話を重ねたほうが自然な表現を身につけやすいと思います。
ひろ でも、異性とコミュニケーションしたほうが、モチベーションが上がる気がしますけど(笑)。中野さん的には、どういう英語の教育が理想ですか?
中野 そもそも、英語は半年あれば基礎は身につくはずなんです。
ひろ さすが東大に行く人は(笑)。
中野 今、「おまえだからできるんだろ」とか思ったでしょ!? 違いますよ(笑)。
ひろ え、違うんですか(笑)。
中野 実は、私も英語は苦手なほうでした。
ひろ では、どうやれば半年である程度は身につくんですか?
中野 実践的な状況をつくることが重要です。例えば、「あなたは不倫事件を起こしました。みんなに非難されています。英語でどう釈明しますか?」といった具体的なシチュエーションを想定して、自分でどう話すか考えてみる。こういったトレーニングが英語が一番身につくと思います。そのときに、例えばこれまで不倫が発覚した政治家の釈明をベースにして、自分なりにアレンジしていくとか。
ひろ やはりテンプレートを探してきて、それを少し変えて使うということですね。
中野 そうです。コンピューターのプログラミングも同じですよね。サンプルコードをいじりながら学んでいくじゃないですか。だから外国語も基本的なテンプレートさえわかれば、使いこなせるようになります。これなら半年で十分習得できると思います。
ひろ あとは、場面に応じてテンプレートを変える力をどう育てるかですね。
中野 ただ、言い換えや状況に合わせた表現の工夫などは、英語よりも国語の領域だと思います。
ひろ 確かに。国語で言い換えや表現の違いを勉強していないと、英語でも応用できませんよね。
中野 これを言うと怒られるかもしれませんが、今の国語教育も本当にムダだと思います。
ひろ よく古文や漢文がやり玉に挙がりますけど、現代文も考えものですね。国語教育で何を学んだかと聞かれると、教科書を読んだ記憶くらいしかない(笑)。
中野 教科書をただ読むだけの授業は、なんのための時間だったんだろうって思います(笑)。
ひろ それから、あれだけ英語を勉強してもまともに話せない人が多いように、あれだけ国語の勉強をしたのに契約書を読めない大人も多いですよね。
中野 そうですね。
ひろ 契約書って難しいイメージを持つ人が多いと思いますが、大したことは書かれていないですよ。でも、なんで難しく感じるかというと、単語の意味がわからない人が多いからです。だから、単語の意味を調べて、少しずつ分解していけば理解できるのに、ほとんどの人がその方法を教えてもらえていない。
中野 漢字や単語の意味は教えられても、文章の構造や論理の組み立て方を教えられる教師が少ないからでしょうね。しかも、現実で役立つ技術や知識となると、もっと教えられる人は少ない。例えば、実生活では詭弁や論理のすり替えなどが頻繁にあるじゃないですか。だから、そのメカニズムを知っていれば、生きていく上で役立つことも多いのにほとんど教えてくれません。
ひろ まあ、そういう内容を教科書に載せるといろいろ問題がありそうですもんね。
中野 ええ。教科書がきれいに整いすぎているんですよ。そもそも「詭弁を使ってはいけない」と教えられがちですが、それだと実生活では役に立ちません。
ひろ そうですね。「手作り風」と書かれていると、「これは手作りではないんだ」と思う人となぜかありがたがる人がいますよね。
中野 あるいは「お若いですね」と言われて、それを額面どおりに受け取る人もいれば、嫌みだと受け取る人もいます。日本人は、もう少し皮肉を察する感覚を磨いてもいいと思います。
ひろ じゃあ、教科書に京都風の「いけずな表現」を載せたらいいんじゃないですか(笑)。
中野 「『お若いですね』と言われたら皮肉として受け取るのが普通です」みたいな感じで(笑)。
ひろ 本来は、そういう感覚を学ぶほうが社会で役立つんですけどね。でも、そんなことは絶対に教科書には載せられない。
中野 じゃあ、私たちで「実生活で役立つ〝裏〟の教科書」でも出しますか(笑)。
ひろ 絶対に教科書には載らないけど、生きていく上で大切なことが書いてある教科書。必要とする人は多いと思いますけど、めっちゃ炎上するでしょうね(笑)。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など