ラパルフェの尾身智志(左)と都留拓也 ラパルフェの尾身智志(左)と都留拓也

『M-1グランプリ2024』準々決勝でニューヨークの漫才を完コピし、大きな爪痕を残したラパルフェのと都留拓也(つる・たくや)と尾身智志(おみ・さとし)彼らが語る、あの"禁断ネタ"真意と大学時代から続く"邪道"の闘い、そして 『M-1』に懸ける思いとは。

■ニューヨークさんには許可取ってない(笑)

――『M-1グランプリ2024』準々決勝ネタが大反響。2019年の『M―1』決勝でニューヨークが披露したネタ「ラブソング」を完コピしようと考えたのはいつ頃?

都留 毎年『M-1』の1回戦が始まる頃にやるネタを考えるので、たぶん9月には「準々まで行ったらニューヨークさんやりたいな」と思ってましたね。その時期にニューヨークさんとYouTubeのコラボ動画を撮って、初めてご本人たちの前でものまねを披露したのもあったし。

尾身 都留が「今年、準々まで行ったらやりたいやつがある」と言ってたのは僕も覚えてます。だから、当初の計画どおりというか。

都留 営業とかでも、ネタはやったことがなかったんですよ。尾身が、嶋佐(和也)さんの宣材写真を顔まねするのは営業とかでやってましたけど、一瞬芸みたいなものだったし。

それこそ、「ニューヨークさんのYouTubeに出る」となってから、初めてコンビで掛け合うものまねをいっぱい作りました。本ネタ丸々は、『M-1』準々が初おろしです(笑)。

尾身 本当に一回もやってません(笑)。急に「このネタ覚えて」って言われましたね。

――それはすごい(笑)。どんなふうにネタを仕上げていったんですか?

都留 まず僕がニューヨークさんのネタのセリフを文字に起こした台本を作って尾身に送ったんです。「映像はアマプラで見れるから」って。

尾身 そこから、僕は決勝のそのシーンを何回も見て覚えました。電車の移動中も、スマホの画面は見ずに、ずっと嶋佐さんの「ラブソング」を聴いて。

あの絶妙なカツラはちょうど宣材写真の嶋佐さんぐらいの黒い短髪のカツラを見つけて、それにプラモ用の金の塗装スプレーを吹きかけて金髪にしました。

左の嶋佐の髪は、黒い短髪のカツラにプラモ用の金の塗装スプレーを吹きかけて作ったという 左の嶋佐の髪は、黒い短髪のカツラにプラモ用の金の塗装スプレーを吹きかけて作ったという

都留 もともと僕らはネタ合わせのためだけに会うのとかが性に合わないから、ニューヨークさんのネタも準々決勝当日にいつもより早めに集まって練習した感じですね。

――ちなみにご本人たちに許可は取ったんですか?

尾身 取ってないです(笑)。まあ、コラボ動画で「ものまねやってます」っていうのは伝えてましたしね!

都留 ニューヨークさんなら面白くしてくれるかなっていう(笑)。21年の準々決勝でも、『ドラゴン桜』(TBS)の阿部寛さんに扮して「『M-1』の結果は、もう吉本がすでに決めてある!」みたいなことを言うネタをやったんですけど、僕としては「ここで何をやったら会場にいるお客さんが一番笑うか」を真剣に考えて作っているつもりなんです。

今回はニューヨークさんでしたけど、もともと僕の中に「やられてないことをやりたい」って欲求があるんですよ。

僕ら以外にもキャラに扮して『M-1』に出る芸人はいるけど、他人のネタを丸々やってる人はいないから「やったらどうなるかな?」って好奇心に駆られてやったところが大きいですね。本当は4分丸々ニューヨークさんのネタをやろうかと思ってましたもん(笑)。

ラパルフェ

――4分オーバーの警告音が絶妙なタイミングで鳴ることも想定して作った?

都留 あれは当日に決めました。ネタ合わせしながら、「『吉本』って言うか、言わずに僕が止めるか」で悩んでて、「『吉本』って言ったタイミングで警告音鳴るのが一番面白いかも」となったのが、本番の3時間前ぐらい。

尾身 「『吉本』の『よし』ぐらいで警告音が鳴るのが理想だよね」ってことになったんですけど、今度は「本番のタイム計測のスタートはどこなんだ?」って疑問が湧いちゃって。

一般的にはしゃべり始めてからだと思うんですけど、今回はセンターマイクに着いてからニューヨークさんの宣材写真のまねを挟むし、本番は練習より早くなることのほうが多いし、逆に笑い待ちで遅くなる可能性もあるから微妙だったんです。

都留 だから、「編集したのはどこの誰なんだよ!」ってセリフの後にタイミング良く鳴らなかったら、一応足すセリフは決めてました(笑)。

尾身 最初は「まさか......」で、その後は「運営と言えば......」とかね(笑)。

ただ、本番直前の舞台袖で都留が「無理に延ばさなくても、『吉本』って言っていいよ」と言ってくれたので、ちょっと安心して、引っ張りながらではあるんですけど、奇跡的に僕が「吉本」って言った直後ぐらいに鳴ったんですよね。あのとき、心の中では「今鳴ってくれ......!」って思ってました(笑)。

都留 賭けだよね(笑)。僕、前半の頭で思った以上にウケて笑い待ちしちゃったから、後半は時間を気にしてけっこう巻いたんですよ。あのネタは「吉本」って言う前に鳴るのが一番つまんないから、僕は僕で意外と鳴らなくて焦ってました。

■俺らにとっての優勝は『M-1』で売れること

――大学時代は早稲田大学のお笑いサークル「お笑い工房LUDO」に所属(当時のコンビ名は「リレンザ」)。16年の「大学芸会」では令和ロマン(当時は「魔人無骨(まじんぶこつ)」)とラランドを抑えて優勝しています。

都留 われわれは優勝こそしましたけど、あの時点で「ラランドと令和ロマンのほうがネタが強くて売れそうだなあ」となんとなく思ってました。

僕は一生懸命頑張って面白いことを考えてるんですけど、(ラランドの)サーヤは湧き出てくるタイプだし、音楽とかファッションとか元からのセンスの部分が絶対にある。そういうカリスマ的な部分は一生サーヤには追いつかないですしね。あんなふうになりたかったですよ。

尾身 へえ~、サーヤに憧れがあったんだ。まあ、大学時代からそうなんですけど、僕らがウケるときって邪道なネタが多いんですよ。

都留 「大学芸会」で優勝したときも、僕が社長、尾身が社長の部屋で金庫をあさってるやつって設定のコントで、「何してんだ!」って言うと尾身がおまんじゅうを盗んでて、僕が「おまんじゅうなんだー!」って顔芸するネタなんです(笑)。そんなことやる人が周りにいなかったので。

尾身 さっきも「やられてないことをやりたい」って言ってたから、てっきり「邪道に誇りを持ってる」と思って聞いてたんですけど、まさかサーヤになりたかったとはね。

ラパルフェ

都留 正面から戦って勝てる自信がないんだよね。普段はコントをやってるから、自分の中では漫才も「やってないほうに逃げてる」って表現のほうが近いし。去年、『M-1』王者になった令和ロマンもすごいですよね。髙比良(くるま)って昔からずっとあのフォーマットでネタを作ってて。

本人も大学生の時点で「僕は超面白いことは言えないけど、ボケを連発する漫才はかなり作れるから、それで行くしかない」って割り切ってたんです。

それ聞いたときに「やってるうちに面白くなるネタだから、この人はいつかすごく強くなる」と思って。だから、時代が来たんだなと。

尾身 僕は去年の『M-1』決勝と同日に開催された有馬記念で大負けしたんです。その夜に令和ロマンが『M-1』で優勝して、一度は人ごとみたいに「すごいな」と思ってたんですけど、布団に入ってからいろいろグルグル考えて眠れなくなっちゃって。

翌日に「令和ロマンのおかげで競馬の悔しさを忘れられた」と思ったら、後から有馬記念の悔しさが来て、また眠れなくなる2日間がありました(笑)。

都留 差してきたんだね、令和ロマンの後に(笑)。僕も今は達観できてますけど、令和ロマンが優勝した日は悔しかったですね。

――いろんな賞レースがありますが、おふたりにとって『M-1』はどんな大会?

都留 僕、『M-1』が大好きなんですよ。最初にお笑い芸人を目指したのもサンドウィッチマンさんが優勝した回(2007年)を見てですし。そんな番組に参加できるのがうれしい。あと年々、何やっても許されるみたいな立ち位置になってきているので、いい意味で力まずに楽しませてもらってます。

尾身 僕は売れるための一番の大会。いろんな賞レースがありますけど、『M-1』は準々とか準決に残っても仕事が増える可能性があるから、ありがたい番組って感じですね。そもそも僕らが求められてるのって、ものまねとか邪道なネタでしょうし。

都留 そう、全然強さとかじゃない(笑)。勝ち上がるネタじゃなく、会場のお客さんを笑わせるネタだから、優勝には固執してないよね。

ラパルフェ

尾身 とはいえ、地上波でネタをやりたいから、ストレートの準決勝進出は目指したいですね。決勝に行けなくても、敗者復活戦は確実に地上波で放送されますし。

都留 今まで準々が僕たちのMAXだと思ってネタを作ってたんですけど、TVerのネタ動画の「いいね」がすごい数になって(12月3日時点でラパルフェは断トツの「3.4万いいね」を記録)。

それ見て、「準決で負けて敗者復活戦で一番面白いことをやる」って目標ができました。その先で、決勝とか優勝を目指すようになるかもしれない。

尾身 僕は優勝よりも「『M-1』で売れたい」って気持ちのほうが強いかな。

都留 確かに。「『M-1』で売れる」が優勝かな、俺らにとっての。

尾身 そうそう!『M-1』王者は賞金以外で1000万円以上稼げるようになるからチャンピオンなわけで。そのレベルで稼げるようになったら、優勝したも同然ですから!

●ラパルフェ
千代田区立九段中等教育学校の同級生として出会う。早稲田大学のサークル・お笑い工房LUDOに所属し、大学お笑いのコンテスト「大学芸会」2016で優勝。2018年にデビューしてすぐに都留の『トイ・ストーリー』のウッディや俳優・阿部寛のものまねで話題に

鈴木 旭

鈴木 旭すずき・あきら

元バンドマンのフリーライター/お笑い研究家。1978年生まれ、静岡県出身。多くのメディアでコラム、インタビュー記事を執筆。著書に『志村けん論』(朝日新聞出版)

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