『週プレ』復活シリーズ、JC40巻をおぎぬまXがレビュー!! 『週プレ』復活シリーズ、JC40巻をおぎぬまXがレビュー!!

この巻ではいよいよ我らの主人公、キン肉マンが試合開始へ!! しかしその前に収録されているアトランティス戦も、キン肉マンの復活戦に負けないくらい見どころ超満載です!

●キン肉マン40巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX

★★★★★ 星5つ中の5

30年越しに明かされたアトランティスの実像

敗北して自害を図ろうとした完璧(パーフェクト)超人ダルメシマンの首をブラックホールが一刀両断、という衝撃展開で幕を閉じた前巻でしたが、この残虐行為でついに判明したのは悪魔超人が本当に、ただ正義超人の助太刀に現れたわけではないということ。そして直後、彼らの口から明かされた真の目的......それは「あらゆる完璧超人の粛清」というあまりに壮大なものでした。

しかし、なぜ彼らがそこまで完璧超人を目の敵(かたき)にしているのか。急襲してきた完璧超人たちに続いて、悪魔超人たちも何やら組織レベルで、確固たる信念を持って動いていることだけはわかりました。ですが、その理由まではテリーマン、ジェロニモらにはいまだ見えず、この三つ巴(どもえ)の混戦の中で正義超人陣営だけがまったく事態を把握できぬまま、仕掛けられた闘いへの防衛戦に徹するしかないという状況です。

思えば過去ずっと『キン肉マン』という作品は「超人オリンピックで優勝する」「バラバラにされたミートを助ける」「キン肉星の王位を目指す」など、誰にもわかりやすい理由のもとに闘いが繰り広げられてきましたが、そこを明かさないまま話を進めていくという手法が取られるようになったのは、新章以降の大きな特徴のひとつかと思います。とはいえ、やがてはその裏に潜む、過去最大級に重くて深い"闘う理由"が判明していくことになるのですが......。

さてそんな今シリーズに隠されたテーマの片鱗も感じつつ、世界同時進行バトルの注目はイギリスのアトランティス対マーリンマン戦へと移っていきます。

まず、水棲超人対決というのが非常に面白いですよね。それにアトランティスは過去にあのロビンマスクも倒した試合巧者ですから、ブラックホール戦の良い流れから続くこの闘い、アトランティスの勝利もかなり希望が持てそうです。かつてキン肉マンを苦しめたセントヘレンズ大噴火など、序盤からド派手な技も続々飛び出しテンション爆上げです。

しかし、マーリンマンもさすがに強い。最大の特徴であるカジキ通しを活かした攻撃も脅威ですが、何より僕が感動したのは防御ですね。陸に水揚げされた魚がピチピチと飛び跳ねる姿は誰もが想像しやすい情景かと思いますが、それを格闘技において重大な要素である〝受け身術〟に昇華させるとは...! 前試合に引き続き、ゆでたまご先生の発想力には底がありません!

やがて、試合はリングの下の水中戦へ。しかしアトランティスが水中へ向かうとなると、往年の読者なら思い出さずにいられないのが、水の底からロビンの仮面を剥いで浮かんできたトラウマ級のあのシーン! みんな大好きロビンマスクを葬(ほうむ)ったことで、昔は散々嫌われたであろう彼ですが、その闘いの中で見えてきたのは、彼がその因縁のロビン戦をずっと誇りに思い続けていた、という意外な事実です。

「え、アトランティスってそんなヤツだったんだ...!?」と最初は僕も驚いてしまいましたが、思えば、強すぎるが故に闘う目的を見失っていたマンモスマンに真剣勝負の醍醐味を教えたのはロビンマスクでした。悪魔である彼もまた仮面の貴公子に魅了された一人だったというわけです。そんなアトランティスの心境を知り、彼への見方を変えた人は多かったんじゃないでしょうか。その極め付きが、観客の中にいたポール少年との心温まるやりとりです。

昔の彼の蛮行を知る多くの大人の目にはこの試合、ただただ相手を殺したがっている者同士の汚れた闘いにしか見えません。しかし、ポール少年だけは違いました。目の前の超人ふたりに予備情報も偏見もない子供の目には、アトランティスの闘いにはマーリンマンにはない、何か心動かされるものがあったのです。

だから彼は、アトランティスを応援します。ただひとり心からの声援を送ります。しかし、そんな少年の声に、アトランティスはこう返します。

「悪魔なんぞ応援してたらろくな大人にならなねぇぞ」

悪魔は、決して人間の理解を得たくて闘っているのではない。そうは言ってもアトランティス、唯一応援してくれるこのポール少年の声に奮起します。心臓を貫かれても最後の力を振り絞り、彼が少年に見せた大逆転の大技は地元の英雄ロビンマスクの必殺技タワーブリッジ! これぞ少年マンガ!と叫びたくなる熱さです! 

しかし最後は、その技を出すと同時に力尽きてしまいアトランティスはマーリンマンと共に絶命。この大勝負、両者引き分けという結果に終わってしまいましたが......勝利以上の大きな功績を残したと言っても過言じゃありません。それは、長らく本編に登場していない超人が、空白期間の特訓次第で第一線に復帰できるかもしれないという希望です。

7人の悪魔超人の中で、バッファローマンに次ぐ存在感を放っていたブラックホールはともかく、姑息な手段を好んでいたアトランティスが、完璧超人相手に差し違えるという結果は、改めて絶妙な采配です。これによって、読者は全ての未登場超人のポテンシャルを見直すことになったでしょう。

さて、いよいよ次はお待ちかねの我らが主人公・キン肉マンの試合です。本当にこの巻、もうずっとワクワクが止まりません!

●バトル作品の背負いし宿命へのアンチテーゼ

とはいえこの先、複雑な不安もあります。なぜならキン肉マンはかつての最終章「キン肉星王位争奪編」で名実ともに宇宙最強の地位を確固たるものとしたはずです。そんな彼に、今さらどんな相手をぶつければ、ピンチを迎えるような面白い試合になるというのでしょうか? 無論、ブランクを理由にキン肉マンが弱くなったなんて理由も受け入れられません。キン肉マンに匹敵する強敵との試合は見たい! その一方で、キン肉マンが積み重ねてきたことを蔑(ないがし)ろにして欲しくない......というジレンマがあるのです。

しかしその解決法はしっかり用意されていました。キン肉マン復帰戦の対戦相手は、赤ちゃんのような異様な容姿の完璧超人ピークア・ブー。

一見、ギャグ展開で終わらせるのかと思いきや、これがとんでもない強敵でした。その正体は"急成長超人"。つまりまっさらの無垢な赤ん坊が周りの大人から言語や習慣を猛スピードで学習していくように、対戦相手の能力すべてをスポンジのようにどんどん吸収し、やがて試合中に追いつき超えていく。

そうなるとその相手は強ければ強いほど、ピークア・ブーは厄介な相手に成長を遂げるというわけです。これはなるほど、そう来たかと唸らされました。

そして、ピークア・ブーは48の殺人技など、キン肉マンの高等技をどんどんマスターしていきます。やがては最強奥義マッスル・スパークさえも使いこなしそうな勢いで...。しかしこれに対するキン肉マンのアンサーが実に見事でした。

センセーショナルに満ちた新技、高等技、応用ばかりに目が行く者は、基礎をおろそかにしてやがて土台から崩れていく。そしてそう説くキン肉マンがピークア・ブーに最後に仕掛けたフィニッシュはなんと、地味な基礎技の集合体"風林火山"という技だったのです。

攻略のヒントをくれたのはカメハメ師匠だった 攻略のヒントをくれたのはカメハメ師匠だった

結果、キン肉マンの読み通り土台部分の勝負で負けたピークア・ブーはこの技で陥落。かくしてキン肉マンは苦戦の末に見事、復帰戦で勝利を飾ることができました。

この試合を見るにつけ、改めて僕が感動させられたのは『キン肉マン』というバトル作品における、強さのインフレ対策の盤石さであります。

一般的にバトル作品での主人公は、どんどん成長強化されていきますから、周りも後出しキャラほど強さが増して、初期に輝いた強敵はやがて置いてきぼりになっていくことが起こりがち。もはや逃れられない宿命のような難題となってます。しかし、このピークア・ブー戦でゆでたまご先生が見せてくれたのは、その問題へのアンチテーゼだったともいえます。

特に、新章以降の『キン肉マン』で顕著なのは、昔に出た様々な超人が新たな見せ場をしっかり獲得できるところ。誰も周回遅れにはならないのです。それをこんな一線級のバトルマンガがやって見せてくれていることは、業界全体的にも大きな意味があるのではないかと僕は本気で思います。

『キン肉マン』には、読者の数だけ推しの超人がいます。たとえ自分の推し超人が世間的には人気はイマイチなマニアックな超人だとしても、あるいは、すでに死んだことになっている超人だとしても、ひょっとしたら次の試合でリングインしてるかもしれない......『キン肉マン』はそんな希望を抱かせてくれる稀有(けう)な漫画なのです!

そして試合後、例によって完璧超人の掟(おきて)に従い自害を図ろうとするのですが、それを思いとどまらせたキン肉マンの言葉は圧巻でした。なぜ彼は闘うのか、真にわかりあうとはどういうことか、そこにキン肉マンの強さの秘密があることを改めて思い起こさせてくれる、爽やかなエンディング...かと思いきや「惑わされるな!」と待ったをかける声が。その主こそが最後の一戦を展開中の大物、ストロング・ザ・武道です。

彼の本領がいよいよ発揮されるのか、という底知れぬ不安感を醸し出しつつ、物語は次巻へと続きます。

●こんな見どころにも注目!

今回は本編以外の話になりますが、ぜひ触れておきたいのが巻頭の登場人物紹介コーナー。これまでは主要超人の名前とイラストがさらっと掲載されているだけでしたが、この巻から大幅に構成が変わって、三つ巴の各軍の前巻までの戦況が詳細に記されるようになりました。

これが見ていて非常に楽しい。ここからこの勢力図がどう変わっていくのかとワクワクせずにはいられない内容になってます! 作品をよく知る人ほど読み飛ばしがちなところかとは思いますが、改めてこのページ、皆さんにも注目し直してみてほしいです。

おぎぬまXOGINUMA X
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中

●JC『キン肉マン』第87巻、25年1月4日(土)発売!!

TVアニメ『キン肉マン』完璧超人始祖編Season 2
CBC/TBS系全国28局ネット「アガルアニメ」枠
毎週日曜夜11:30~放送

*放送時間は編成上の都合などにより変更となる可能性がございます。

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