日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。トランプ本人が上映阻止を画策! 世界一ヤバい大統領の誕生秘話!

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『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

評点:★4.5点(5点満点)

© 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved. © 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.

人間はどこまでも幼稚で下劣になれる

「勝ちゃあいいんだよイズム」が生理的な嫌悪感を抱かせるのは、それが人間性に対する侮辱であり攻撃だからだ。

「簡単に流されない強い心」とか「目的達成のためならどんな(他者の)犠牲も厭わない」という幼稚な「強さ」への憧れは、他者の尊厳を踏みにじることと常にワンセットだ。

最悪なのはその構造が転じて「他者を傷つけ、尊厳を踏みにじることのできる人間こそが『強者』で『勝者』なのだ」というバカ丸出しの価値観(とも呼べないが)へと至ることにある。

本作は若きドナルド・トランプが、赤狩りで悪名高い弁護士ロイ・コーンの薫陶を受けて、そういう「強者」「勝者」への道をひた走るさまを描いた作品だが、「悪党にもいいところがあった」というような平凡な陥穽にはまることなく、といってピカレスク・ロマンに堕することもなく、「人間はどこまでも幼稚で下劣になることができる」というあまり知りたくもない真実を正面から突きつけて圧倒的だ。

題名の「アプレンティス(弟子)」はトランプが出ていたリアリティTVの題名から来ているが、それがやがて『スター・ウォーズ』の皇帝と弟子(アプレンティス)のダース・ベイダーのように見えてくるのもヤバい。

STORY:父の会社が破産寸前に陥り、危機に瀕した20代のドナルド・トランプ。そんなとき、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーンと出会い、「勝つための3つのルール」を伝授される。やがて彼は数々の大事業を成功させ、怪物へと変貌していく......

監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マリア・バカローヴァ、マーティン・ドノヴァンほか
上映時間:123分

1月17日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国順次公開予定

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