日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。ルーマニア発、村社会の醜悪さを描いた辺境サスペンス!

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『おんどりの鳴く前に』

評点:★3.5点(5点満点)

© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production © 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

人間関係に波風を立てないことは「正義」に先行するのか

人間は関係性の網の目の中に存在する。人間関係の網目の交点に個人がある、と言ってもよい。あくまでも「本来的には」と条件をつける必要はあるが、法律やルールというものも、その関係性の網の目がこんがらがったときの交通整理のためにある。

日常の多くの場でいわゆる学級委員的な「正義」が煙たがられるのは、それが「関係性の網の目」をないがしろにするものだからだ。とはいえそれも程度問題で、「関係性の網の目」だけがどこまでも優先された先には閉鎖的で息苦しいコミュニティと、果てしない腐敗が待ち受けている。

本作の主人公は、つつましく平凡で、一見、何の問題もないかのように見える、ルーマニアの田舎の村落で巡査を務める中年男性。だがその「つつましく平凡」な日常を支えているのもまた「関係性の網の目」を上位に置いた事なかれ主義である。

そんな村で時ならぬ殺人事件が発生、思わぬ犯人が村落を支える関係性のうちに事件を有耶無耶にしようとする中で、巡査の心に「正義とは何か」という問いかけが頭をもたげてくる。

どのような関係性があろうと、許されざる罪は存在する。自分はそういう職業のはずではなかったか。そして男は立ち上がるのだ。

STORY:ルーマニア・モルドヴァ地方の静かな村。ある日、惨殺死体が見つかったことをきっかけに、中年警官のイリエは美しい村の闇を次々と目の当たりにすることになる。正義感を手放した警察官がたどり着く、衝撃の結末とは......

監督:パウル・ネゴエスク
出演:ユリアン・ポステルニク、ヴァシレ・ムラル、アンゲル・ダミアンほか
上映時間:106分

全国公開中

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