トム・ブラウン 同じ高校の柔道部の先輩・布川ひろき(左)と、後輩・みちお(右)で2009年にコンビ結成。『M-1グランプリ2024』決勝では狂気的な漫才を披露して6位に トム・ブラウン 同じ高校の柔道部の先輩・布川ひろき(左)と、後輩・みちお(右)で2009年にコンビ結成。『M-1グランプリ2024』決勝では狂気的な漫才を披露して6位に

昨年の『M-1グランプリ』で2018年以来の決勝進出を果たしたトム・ブラウン。ラストイヤーでの優勝を望む声も多かったが、有終の美を飾ることはできなかった。唯一無二の漫才師が進む「次なる道」とは――。

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■『M-1』後にダサさの極みを叩き出すみちお

――『M-1』から約1ヵ月、今の悔しさのボルテージはいかがですか?

みちお ここから10年、20年、30年かけてもっと悔しくなっていくだろうなと。でも、悔しさに支配されて仕事もままならないみたいな状態ではなくなって、ようやく平静を取り戻しました。今は「頑張るぞ」という気持ちのひとつとして、悔しさがある感じです。

――M-1直後はお仕事もままならないくらいでしたか?

布川 そうですね。テレビで雛壇に座るときって、自分のターンまで待つ状況があるじゃないですか。一応、僕らもそういうのは多少わかっているつもりですけど、元日の『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ系)でみちおが全員のターンのときに強引に絡んでいったのを見て、「これはまずいぞ」と思いました。

みちお 1月7日に収録したラジオで「(M-1のことを)いつまでも言ってるのダサいぞ」って言われたことに対して、「でも、しょうがないじゃん!」って返すという、ダサさの極みを叩き出しました。

布川 僕は、年末に漫画家のつの丸先生から「みちおはグダグダ言っていてもいいと思うけど、おまえはそんなこと言ってたらダセエよ」と言われたのをきっかけに、M-1をちゃんと見直したんです。

みちお 俺はいいんだ?(笑)

布川 「みちおはそういうやつだから!」って。で、M-1を見直す前は「漫才のクオリティが完璧だったらいけてたかも」と思っていたんですけど、見直してみたら、「うん、6位だわ。ちょうど6位」って感じて。もう考えてもしょうがないなと。だから、僕は割ともう「次だな」って感じになっていますかね。

――M-1後、印象的だったお互いの言葉はありますか?

布川 みちおは「80点台をつけた石田(明)さん、柴田(英嗣)さん、(中川家)礼二さんは格殺します」って言っていました。それは非常に覚えています。「これ、20%ぐらいは本気じゃないか?」って思う感じがたまらないですね。

みちお 僕が印象に残っているのは、布川が水を飲んだときですかね。

――TVerで公開された『アナザーアナザーストーリー』(ABC)で、涙ながらにインタビューに答える布川さんが水を飲んだ瞬間、みちおさんがツッコミを入れたシーンですね。

みちお 僕の空気の読めなさ(笑)。「なんで(このタイミングで)水飲んだの?」って言った後、雰囲気の違いに気づいてハッとしました。

布川 マジでめちゃくちゃムカつきました。「邪魔くさっ」と思いましたね。だから、こいつ結婚できないんだよ、と。別に水飲んでもいい場面だし。

――あれは本気の涙でしたよね?

布川 これは必ず書いてほしいんですけど、あのとき実は重い性病にかかっていて、ち○ぽが痛すぎたんです。

それと、おいでやす小田さんが、あのインタビューの直前に「最高やった」って声をかけてくれたんですよ。

23年の敗者復活戦で負けた後も、(中継リポーターを務めた)小田さんは平等な立場にもかかわらず、「ほんまに最高やった」ってわざわざちっちゃい声で言いに来てくれて。それがあってから、小田さんに会うとちょっとだけ泣きそうになっちゃうんですよね。

■とにかく単独をでかくしたい

――今年も5月から8月にかけて全国10都市で単独ツアーが開催されますが、タイミング的にも明確に次に進む感じがあっていいですよね。

布川 すぐに単独があるので、「違う方向でまた頑張ろう」という気持ちになれました。今回初めて1500人キャパの所でやらせてもらうんですけど、そこも完売したのでかなりうれしいですね。

――単独を大きくしていきたいというのは、布川さんが提案したとのことで?

布川 そうですね。僕、雛壇でしゃべって一番を取れるとは全然思ってないんですけど、ネタは一番を取れるだろうと思ってるんですよ。「別にこっちのほうが面白いでしょ」って思ってるから、誰の後でもやりづらいと感じたことはないし、戦う気持ちとかもあんまりなくて。とにかく単独ライブをでかくしたいんですよね。

――それはM-1が終わる前から思っていたことですか?

布川 はい。とにかくでかくしたいです。東京03さんがコントであんなに人を集めていますけど、ほかの芸人はそれを見てやる気を出している気がするんですよね。でも、それでやる気が出るのは〝しっかりした人たち〟だけだよなと。

例えば、「大嶋の一番弟子」ってピン芸人がいるんですけど、彼は03さんのツアーでは夢を持てないと思うんですよね。でも、僕らが単独でお客さんを集めたら、「トム・ブラウンでもいけるなら、俺も」って感じで、〝カスみたいな芸人〟もやる気が出るんじゃないかなと。

みちお 本人は真剣にやっているけど、周りから飛び道具扱いされている芸人たちの希望になればいいですよね。おこがましさもありつつ。

――ただ、ラジオで布川さんがみちおさんに「単独をでかくしていきたいって気持ちをおまえからそんなに感じたことがない」「俺とおまえ、全然夢とか違うから」と言い放ち、若干揉めていたのが印象的だったのですが......。

布川 30~40分そのことについて話し合って、最終的にみちおがたばこを吸いに行って収録が止まりました。放送ではカットされてましたよね。

僕はテレビとかよりも単独が一番大事なんです。でも、「みちおはテレビが一番好きだろ?」って。それはそれでいいけど、じゃあ、「単独が夢」みたいなことを言うなって話ですね。

みちお 布川は「俺に乗っかってるだけじゃねえか」って言うけど、俺の夢でもあるんだから、別にいいじゃないっていう。

僕はいいネタができた瞬間が一番好きだから、それが生まれる可能性が高い単独は楽しいなって最近ようやく心の整理がついたんですよ。汚くたとえるとですね、僕は便が出た瞬間が好きなんです。みんなは流す瞬間が好きですけど。

布川 流す瞬間、別にみんな好きじゃないから。たとえがおかしい。

みちお M-1も流す瞬間です。つまり、単独ライブってたくさん出すし、たくさん流す。出したからには流さなきゃいけないから、流す瞬間も好きだって話。あったかいのが出た瞬間の湯気が......。

布川 最悪だね。あったかいとか言うなよ。キモいから想像できない。まあでも、向いてる方向が全部一緒のコンビなんていないと思いますよ。一緒だとダメともよく言いますし。同じ方向だけ見てるコンビはだいたい良くなくなる。

みちお 2018年のM-1が終わった後、「やっぱり漫才でもう一回出ていこう」と言ったのは布川だったんです。僕は最初、「もう一回戦うの大変だな」と思ったけど、そのやり方でうまく進んでいったので、僕は〝乗っかるほう〟が実はうまくいくのかなと思っているんですよね。

■『キングオブコント』で優勝したい

――そして、出場を楽しみにしていたファンも多いと思いますが、『THE SECOND』(フジテレビ系)には出場されないと。

布川 はい。ノックアウトステージで大差をつけられて負けたとき、みちおが相手を本当にぶち殺してしまう可能性があるので。

みちお 俺だけのせいにするなよ(笑)。ふたりで話し合いましたからね?

布川 M-1ラストイヤーから「THE SECONDはやめとこう」って話してました。第2回大会を見て、「これは完全に俺たちが出る大会じゃないな」って思いましたね。

――理由を深く聞いてもいいですか?

布川 客投票では絶対勝てないからですねぇ。23年のM-1敗者復活戦でエバースに20対80で負けたのもそうですけど、事務所ライブでもハナフダというコンビに投票で負けたことがあって。「さすがにそんなことあるかな?」と。

みちお それと、THE SECONDはけっこう演芸的な漫才の大会だと思っていて。それこそ、ガクテンソクさんとかザ・パンチさんは寄席でも絶対に爆笑を取っているイメージ。だから、「変なところで戦っている俺たちの漫才の方向性とは違う大会なのかな」とも思っています。

布川 THE SECONDは新しい発想を見せるというよりも、生きざまを見せる感じの大会ですよね。僕らはテクニックでどうのとかは弱いので、厳しいかなと。

みちお あれはあれでカッコいいもんね。漫才師ごとぶつかっていくような大会。僕らはお客さんから(満点の)3点をもらえるかもしれないけど、(最低の)1点も多くなると思うから、やっぱり弱い。家で見るに限ります。

布川 あとは単純に、M-1に出られなくなった後、漫才熱がなくなっている先輩とかがけっこういて、その人たちをライブで見るのが僕は嫌だったんですよ。昔は面白かったのに、ジジイが漫才やってるだけみたいになっちゃって......。

でも、そういう人たちはTHE SECONDが始まってから肌とかピチピチに若返っている感じがあって、それがうれしいんです。なんというか、僕らは一応食えているから、そうなっていない人たちの邪魔をしたくないという気持ちもありますね。

――一方で、出場予定の『キングオブコント』(TBS系)はがっつり優勝を目指しに?

布川 そうですね。やるからにはやっぱり。

みちお 優勝というか、優秀ですね。優勝って思っていると優勝逃げていくんだよ。だから、最優秀。

布川 最優秀ってことは優勝ですけどね? でも、ちゃんと一番面白いと思われたいですかね。それが一番の願いです。去年優勝したラブレターズの2本目が僕はかなり好きで。ストーリーとか伏線もたいしてなくて、「何これ?」っていう。

みちお 面白かったし、ウケていたけど、溜口(佑太朗)さんが「僕はただの釣り人でーす!」って言った瞬間だけウケていなかったよね(笑)。

布川 そうそうそう。でも僕が言いたいのは、それでいいってことなんですよ。現象、現象で面白ければいいと思っていて。

ストーリー重視になるのが僕はあんまり好きじゃないというか、そうじゃないと勝てない大会は「ん?」ってちょっと思うので、ラブレターズが2本目であのネタをやって優勝したのはかなりすごいし、うれしいです。

彼らは演技も上手なんですけどね。負けはしたけど、一番話題になったダンビラムーチョの「冨安四発太鼓」もそうです。僕らもそういうふうに一番面白いものができたらいいなと思います。

――最後に、それぞれ今後の目標をお願いします。

みちお 「面白いネタを作るぞ」で。

布川 ......ガキが。僕は、さっぽろ雪まつりの雪像になりたいです。M-1チャンピオンになったらその可能性もあると思っていたんですけど、それはもう無理なので。

キングオブコントのチャンピオンになるか、もしくは単独ツアーをもっとでかくして、札幌の大きいホールを埋められるようになったら、〝ニン〟が出て雪像になれるかもしれない。

みちお 布川の髪を滑り台に見立てて、その階段の上に僕の顔があって、僕の口の中から入って布川の髪から出てくる雪像とかいいですよね。

●トム・ブラウン単独ツアー2025 
15年に1度の東名阪ツアー 前借り「初めての感情」 
大阪、山口、福岡、長崎、岐阜、名古屋、仙台、山形、東京、北海道の全国10都市を回る単独ライブツアーを5月9日(金)から開催。東京の追加公演も決定!!