日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。実写、影絵、アニメ、人形劇、ゲーム......なんでもアリの"闇鍋"映画!

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『ハイパーボリア人』

評点:★4点(5点満点)

© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films © Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films

チリ近現代史を流れるオカルトとナチズム

第二次世界大戦の終わり、ベルリンを脱出したヒトラーが南極大陸地下に逃れ、いずれ第四帝国を興すためにUFO艦隊を率いて再び立ち上がる......というのは『アイアン・スカイ』(2012年)のようなSF陰謀論コメディ映画の発明ではない。

これは「秘教的ナチズム」というオカルティズム思想の一部で、それを強力に提唱した人物にチリの外交官で作家だったミゲル・セラーノがいる。

チリには1930年代に既にナチズムを踏襲した国家社会主義運動があり、ヒトラーを神格化する思想もそこに遡る。ヒトラー崇拝は戦後の拷問洗脳カルト「コロニア・ディグニダ」にも引き継がれている。

オカルトとナチズムはチリの近現代史をうねりながら脈々と流れているのである。

本作は(架空の)「ミゲル・セラーノの生涯と彼の思想にまつわる、失われた映画」の製作過程を再現した「映画」を作る過程をさらに「映画」にするという、込み入ったメタ構造を持つ作品だ(が、物語自体はそれほど難解ではない)。

メリエス的な書き割りのセット、さまざまな技法のアニメーションや人形劇、影絵などなど映画史を縦断して多彩な表現手法が投入されており、きわめてユニークな映像体験が楽しめる。

STORY:女優で臨床心理学者でもあるアントーニアは、友人の映画監督レオン&コシーニャと共に、ヒトラーの信奉者だったチリの外交官にまつわる映画の撮影を始める。しかし、事態は思いもよらぬ展開を遂げていく......

監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット 
出演:アントーニア・ギーセンほか
上映時間:71分

全国公開中

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